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ブラックリスト  作者:
12/23

疑心

殺害された岡田と前日話をしていたという事で、星奈は事情聴取を受けた。

聞かれたのは大した内容では無い。それどころか突拍子も無いものばかりで、「岡田を殺したがっていた人はいないか」とか、「岡田が誰かから恨みを買っていないか」とか、そんなものばかりだ。

無能な警察のように思えるが、それも仕方の無いことだ。ブラックリストの存在により、殺人など数年に一度しかないのだから。

もし殺人が起きても法則により瞬く間に解決してしまう。

例え犯人が分からなかったとしても、誰かを強く疑い、もし犯人で無かった場合は名誉棄損で警察の方がブラックリストに入れられてしまうのだ。


この世界の警察の仕事は、層移動者の監視や、慈善活動が基本となっている。

その為、人数もBLC職員の半分以下しかいない上、普段仕事をしないで寝ているだけだと馬鹿にされているような連中なのだ。


そのような警察が事情聴取をしても無意味である。

星奈は数分の間、自分が聞かれた事にだけ応答した後、直ぐに解放された。


相談窓口に戻ると既に仕事が始まっており、何人かの相談者が来訪していた。

星奈はアイコンタクトのみで一宮に戻った事を知らせ、速やかに身支度を済ませると、先程の事件がまるで無かったかのような振る舞いで相談を受け始めた。


人が一人亡くなったからといって仕事が休みになるわけが無い。特に相談窓口という仕事を休むわけにはいかないのだ。

星奈が仕事を始めてもう直ぐ一年近くになる。その期間の中でも、自分のやっている仕事の重要性は十分に理解出来ていた。


様々な思いが胸の中で燻っていたが、そんなものは仕事中に考えることでは無い。休憩時間まで平静な顔をしてなんとか仕事をやり遂げた。


やがて、昼の休憩時間になり、相談窓口の広場に誰も居なくなった事を確認し、星奈は大きくため息を吐いた。


その動作に心配した一宮が声を掛けてきた。


「あんた大丈夫?事情聴取されてたみたいだし、その……岡田さんも亡くなって……今日は早退する?」


「いえ、大丈夫です!ちょっとだけ一人で考え事をしてもいいですか?」


務めて明るい笑顔で返し、星奈は皆と少しだけ距離を取った場所に腰掛けた。


(犯人って影矢くんなのかな……方法は分からないけど、あの子ならやりかねないもんね。でも、電話に出たって事は本人が来てるわけじゃ無いはずだけど……)


星奈は混乱の渦に巻き込まれていた。警察には話さなかったが、岡田が殺される原因があるとしたら星奈に抜け道を話した事にあるのでは無いか?と考えたのだ。


疑問を晴らすには本人に確認するのが一番だ。

今直ぐにでも電話を掛けたかったが、仕事もこなさなければならない。

休憩所からなら電話も出来るのだが、つい最近人が殺された場所を利用するのは気が引ける。

その為、仕方なく仕事がすべて終わるまで耐え凌いだ。


この日の仕事も残業があった。

いつもの業務に加え、先日加入したプロジェクトチームの仕事である、勉強会の資料作成だ。


思った以上に時間がかかってしまい、電話を掛ける事が出来たのは夜の9時を超えた頃だった。


「もしもし?羽柴さん?夜遅くにごめんなさい。影矢くんは近くにいませんか?」


「影矢くんなら、昨日一層に行ったっきり戻ってないですよ。丁度前に君と電話した後からいないんで、まだそっちにいると思いますけど」


「そうですか……ありがとうございます」


「ん?そっちで何かあったんですかい?」


「えーっと……何にも無いですよ〜。また掛けますね!では」


電話を掛けた事によって影矢に対する疑いがより強いものへと変わった。

時間の計算をしてみると、岡田の殺人は可能なのだ。


だが、影矢が犯人なら妙な所は幾つも有る。

BLC内部にどうやって侵入する事が出来たのか?

岡田から情報を聞いた程度で殺さないといけなかったのか?

長の立場でありながら、自分が動かないといけないのか?という点だ。


一種の決めつけなのかも知れないし、もし違ったのなら影矢には本当に申し訳ない。

この疑問は星奈が持つ女の勘がそう言っているのだ。

影矢が犯人だ、と。

そこまで考え至ると星奈は自分の中で、影矢以外が犯人である可能性を捨てた。


だが、彼が犯人だとしたならどうなのだろう。


彼が進めるテロ行為に協力した以上、今後もこのような事態は起こり得るのだ。

このまま彼に協力して良いものなのか考えさせられる。


どうするべきなのか、星奈は一晩考える事にした。


家に帰り家事をしながら今後の方針を考えた。影矢との協力関係を切ってしまうべきなのか、はたまた継続するべきか。

元々考えるのが苦手な星奈もこればかりは考えて行動すべきだと感じた。


協力関係を切ったとしても世界を変えたいという思いは変わらない。

それなら一人でも行動を始めるべきなのだろうか?それも簡単に出来るようなものでは無い。


中心地に入れたとしてもそのあとどうすれば良いのか分からないし、それ以前に入ることもできないだろう。


だが、中心地の情報を全て知っている可能性のある人物に心当たりがある。

その人物と接触出来ないか、明日から機会を窺うことにした。それには先ずは早く寝て早く起きる所から始める必要がある。星奈は早々に家事を終わらせ、いつもより早めに眠りについた。


次の出勤日、星奈は普段出勤する二時間も前にBLCに着いた。というのも、昨日思い浮かんだ一人の人物はこの時間に必ずここにいると考えての行動だ。

その上、この時間であれば他の職員が居ない分彼は一人でいるだろう。


事実、こんなに早い時間からは誰も出社していない。立ち入り禁止区画以外を隈なく探し、目的の人物を見つけた。


「いつもお疲れ様!少しだけお話しできないかな?」


「ーーえ!? 僕ですか?なんでしょう?」


普段誰からも話しかけられない津雲は、大きく飛び跳ね、驚いた素振りを見せた。


「えっとねーー」


「はい?」


星奈は勢いのまま話しかけてしまったが、本来であれば声をかけるだけでも最果て行きの可能性がある。

その上、中心地の情報を聞き出そうとした、と彼に言われてしまえばそれこそ一環の終わりである。


星奈は誰とでも仲良くなれる自信はある。

だが、彼と話すのに躊躇いが生じ、続く言葉が出て来ない。

そこで考えたのは、彼が中心地についてどう思っているか、世間話をするというものだ。


「津雲君ってさ、どこから来ているの?」


「中心地ですけど?」


「そうなんだ〜。聞いちゃダメな事は言わないでね。中心地って金銀財宝が眠っているって本当なの?」


中心地の情報を聞き出すわけでもなく、誰もが一度は聞いた事のあるただの噂をしてくる星奈に、津雲は呆気に取られたような表情を浮かべた。


「ーー貴女はどこの所属ですか?」


「ん?相談窓口でたまに見かけていたけど……名前はまだだったね!私は石橋星奈!よろしくね」


「どこの所属ですか?」


津雲は同じ質問を繰り返した。不思議な子だな〜という感想を抱いたが、星奈は笑顔を見せ、繰り返し答えた。


「私は相談窓口担当よ。まだまだ新人だけどね!」


「ーーそうですか。忠告しておきます。中心地の者に関わる事は命取りになり得ます。今後も普通に仕事に励んで下さい」


津雲の大人びた態度は影矢を連想させた。影矢より年齢も低そうに見えるが、どこか悲しそうな表情を浮かべ、星奈から距離を置こうとしている。

相談員として毎日色んな人と会話をしている星奈であっても、このような人物に出逢った事はない。

当たり前だろう。津雲は、毎日掃除をしに来ているが誰とも話していないのだから。

忠告をしてきたという事は、彼が他の者に気を遣っているのだと分かる。

そんな彼を放っておけなかった星奈は、当初の目的とは別の目的に切り替えた。


「分かった!津雲君、私と友達になろう!」


「……はい?」


「いや〜毎日退屈だったんでしょう?朝しか話せないけどたまに私とお喋りしようよ」


津雲は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべ、星奈の真意を見抜いたのか、お腹を抱え大いに笑った。

星奈が発したその言葉は、彼がここに勤めて初めて言われた事なのだろう。


全く関わろうとしない、もしくは情報を聞き出そうと近づいてくる。今迄はその二択だったのだ。

津雲は笑い過ぎで瞳を涙に濡らし、零れ落ちないように指で拭った。


「星奈さん、貴女には頑張って欲しいな。だからこそ、今回はニューレストとして命令します。暫く何もしないでください。貴女方が何もしなくてもチャンスは来ます」


「どういう事?友達は嫌だった?」


「友達ーーですか。本当に面白い人ですね。では、貴女とは友達です。ですが、今のような早朝以外は話しかけてこないと約束してください」


「ありがとう。じゃあもう仕事も始まるし、私は行くわね!また話しましょう」


星奈は津雲に別れを告げ、相談窓口へ向かった。


(しまった、一人で動くつもりだったのに、余計な事しかしてない。まぁいっか!津雲くん可愛い子だったし……あれ?私って年下好きなのかも?)


自分が年下好きと理解した星奈の頭には一人の少年の顔が浮かんだ。白髪の髪をなびかせながら堂々とした佇まいの彼。影矢の事だ。顔を紅くして浮かんだ幻想を振り払う様に首を何度も横に振った。


それからというもの、星奈は朝早く起きた時は津雲と色んな話をした。

しかし、彼のガードはとても硬く、中心地に関係する事は何一つ教えてくれなかった。

だが、それで良いのだ。

最初は津雲から情報を引き出すつもりでいたが、友達になると言った以上、彼に不利益になる事はしたくない。

矛盾しているが、それで良いのだと思えた。


ではどうするか。星奈の考え至った結論は、羽柴と協力し、一人で行動をするというものだ。


以前羽柴と話した印象は、影矢の思想には賛同を示していない。そして、元協力者である彼ならば、かなりの量の情報を持っていると考えたのだ。


星奈は仕事帰りに、抜け道を利用して羽柴に連絡を取った。

だが、今回電話に出たのは影矢だ。


星奈は彼の声を聴くと同時に電話を切ってしまった。

既に心の中では影矢が殺人を犯した事になっているが、本人に聞く事でそれが確定してしまうのが嫌なのだ。


また日を改めて電話をしてみると、次に電話に出たのは羽柴だった。


「星奈さん、大丈夫?影矢くんから聞いたんですが、あの時急に電話を切ったんですよね? 影矢くんが心配して確認しに行くって聞かなかったんですよ?」


「いえ、大丈夫です! 話があったのは羽柴さんになので、どうしようかと……」


「あ、なるほど。影矢くんが殺人を犯してないか心配だったんですね?」


一瞬で星奈の思いがバレてしまった事で、羽柴が超能力でも使えるのかと思った。


「そ、そんな事ないですよ!?ちょっと苦手だなってだけで」


「そうですかい?先に言いますが、犯人は彼じゃないとあたしは確信してます。あの時一層に行ったのは、他の協力者との打ち合わせの為ですから」


星奈は唖然としていた。本当にそうだとしたら、彼に殺害の時間など無いのだ。アリバイがある彼をこれ以上疑うべきでは無い。

それどころか初めから疑うべきでは無かったのだ。


「そうだったんですか?何で先に言ってくれないんですか!」


「いやね、まさか星奈さんが彼を疑っているなんて思ってなかったんでね」


「そんな……じゃあ私が一人で馬鹿な勘違いをしていただけなんですね」


星奈は安堵と共に大きくため息を吐いた。


「あたしらはね、彼を信じてますよ。確かに危ない思想の持ち主ですがね、指導者としては本当に優秀だ。彼ならば本当に世界を変えてくれると信じてるんですよ」


「私も影矢くんは凄いと思いますよ。あんなに若いのに長ですもんね〜。可愛い顔してるのに時々イケメンなとこがあるし」


「ん? まぁ整った顔立ちだと思いますが……ところであたしに何かご用で?」


「いえ、もう大丈夫です!また何か情報を手に入れたら電話します」


この夜、星奈は一人相撲をしていた自分に嫌気が指し、ふて寝を決めた。





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