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アクション1

東雲 宇佐美の朝は早い

訳でもなく普通である(宇佐美基準)

登校は七時半からが好ましい

故に一時間半前の六時に起床

自分と姉の分の弁当を作る

仕込みをしながら仕事を同時進行で進める

自分で会社を建ててもいいが面倒が多く無駄も多いから『天寿』という複合企業の開発に関わる仕事に適当に手を出している

あそこの社長はこちらの自由性を約束してくれるのがいい

気まぐれで仕事を変える癖がある私を許容する器がある

低能な一般人共なら私の有用性を理解出来ず追い出そうとするものだ

若い女社長でありながら先代に負けぬ成果を上げている

その上、宇佐美の通う星花女子学園の理事長までしているのだから大したものだ

私ほどではないにしても凡人ではないことがわかる

当然のことだが私は雇われの身であるが社長に対しても上から目線だ

実力は私の方が上なのだ

下の者に下げる頭はない

向こうは私の態度に愚かにも腹を立てることなく下から強く見上げてくる

こちらを上だと認め、しかし、下手に出ることもない

実に好ましい人間だ

仕事のモチベーションも上がるというもの

今、私はエビフライを揚げながら新商品の企画書を上げていた

強くシャッフルされても形が崩れないように弁当を盛り付け、川に落としても水が浸透しないようにしっかり閉じる

時刻は七時前

いまだ夢の世界にいる愚姉を起こしに行く

アレは放っておくと昼まで起きない

幸せそうに不細工な寝顔を晒す愚姉に馬乗りになる

声を掛けて揺するなどでは起きない

だから私は愚姉、志乃の頬を叩いて言うのだ


「妹にぶたれないと自分で起きることも出来ない駄目駄目なお姉ちゃん朝だよー。……早く起きろ」


「は、はひ……」


間抜けな顔にイラっときたのでもう一発叩いておいた


※ ※ ※


東雲 志乃の朝は妹の罵倒と暴力から始まる

毎朝毎朝六つも歳が下の宇佐美に起こされなければ学校に間に合わない自分が情けない

今日を迎えることが出来なかった不幸な誰かと代わってあげたい

今の生活だって家事も家系も収入も全て妹が行っている

私は何もしていない

何かすればより状況が悪くなる

妹にも何もせず置物みたいに大人しくして動くなと言いくるめられている

不甲斐ない申し訳ない首を吊ろう

妹が私を睨んでいる

考えを読まれたに違いない

不出来な私と違い妹は何もかもお見通しだ


「グズグズしてないで朝御飯食べようよグズお姉ちゃん」


才能を笠に驕り高ぶり笑顔で罵倒してくる妹は苦手だ

顔を洗うために洗面所へ向かう

後ろに妹がついてくる

妹は私の前に回ることは基本ない

愚鈍な姉の前など危険地帯でしかないということに違いないごめんなさい

洗面所にいると洗面器に水を溜めて顔を埋めたくなる

どうにか衝動を抑え込み顔を洗いやっと意識が覚醒した

覚醒といっても愚鈍で愚劣な存在であることに以前変わりはなく私が呼吸するだけ世界にとって空気の損失であり無意味で無価値な私は消えるべきだと思う

だが、死ぬ前に妹の髪を結ぼう

私なんて下等な生物に人間でも最上位の天才である妹は何故か私に髪を結ぶことを強制してくる

妹に生かされている身なので拒否権はない

妹の透き通る陶器のような灰色の髪を左右に纏め灰色に映えると思って赤いシュシュで括る

長年続けているがいまだに酷く不格好なツインテールだ

しかし妹は満足気に頷きリビングへ消えていく

妹が自分で括れば私のものより美しいツインテールになるのに才能の欠片もないゴミ屑のような私に髪を結ばせるのか謎だ

朝食はオムレツだった


※ ※ ※


朝食の味は実に良かった

朝食は私が作ったのだから美味しいのは自明の理なんだけどね

三流の料理人のモノは食べれたものではない

アレは料理とは言わない家畜の餌だ

愚民どもに丁度いいのだろう

朝食を済ませて一服した後、家を発つ

姉の自転車の後ろに腰掛ける

愚姉を一人で自転車に乗せようものなら悲惨な目に合う

ネガティブな性格が影響してなのか不幸すぎてネガティブなのか

一周回って見てて飽きないくらいに不運なのだ

姉が不幸な目に合うのは呼吸をするのと同じものだから避けようがないが出来るだけ減らしたい

迷惑を被るのは私なのだから

姉を一人で学校に行くように指示したら最後交通事故を起こして通行人を轢くか自動車に轢かれる

だから私が一緒に行動する

姉の不幸は姉の行動が悪いことが半々、自業自得なところがある

そんな救いのない姉の手綱を握っておく

面倒事を起こしても起こされるのは嫌いなのだ

今日も私が回避しなければ、川に二回落ちる、通行人に三回ぶつかる、セメントに顔面から突っ込むなどが起きていただろう


「ご、ごめんね。宇佐美学校着いたよ」


何を悪いかわかっていない癖に謝罪を欠かさないのが腹ただしい

自分は中等部一年、愚姉は高等部三年

校舎が違う

校門からは別行動だ

姉はまたごめんねと言って駐輪場に自転車を止めに行った

この後、知り合いにより面倒な知らせを聞くことになるがいくら私が天才でも未来は読めない

だから後悔はしない頭を抱えて溜息を吐くだけだ


※ ※ ※


事故が起きた

えぇ、それはいつものことです

まるで神様が早く死ねというかのように車に撥ねられる

幼い頃から不慮の事故に遭っているせいか体ばかり頑丈になった

唯一の取柄といえるんじゃないかと思ってたら妹の友達はダンプカーに撥ねられてもビンビンしていると聞き自信をなくした

私ごときハウスダストが自信を持つというのがそもそもおかしかったのです間違いだったのです

間違いといえば私がこの世に生を受けたのが間違いだったのです

屋上から飛び降りよう

そうと決まれば屋上まで走ろう

この場の空気は苦しい

何より一方的に憧れた彼女に見られているというのが耐えられない


「私ごとき汚物が唇を奪ってごめんなさいすいません申し訳ございません死んでお詫びしますうううう!」


志乃は不慮の事故で淡い想いを抱いていた相手、太刀花 凛花にキスをしてしまった

事故である

何度でも言おう!事故であると!

そもそも凛花の半径5m以内に近づいたのが事故だ

不運な自分が望まない形に事態が動くのが世界というものだというのに気を抜いていた

どうあっても私の手が届かない高嶺の花を穢してしまった

この罪、万死に値する一刻も早く死ななければ!


※ ※ ※


走り去っていく志乃を見つめる太刀花 凛花は己の唇をなぞる


「や、柔らかかったなぁ……。って、違う!そうじゃない!ちょっと待って!お詫びって何!?」


志乃を追って走り去っていく凛花を見つめる少女が一人


「面白いものを見ちゃった、と」



台詞少ないのは妹と姉の仲があまりよろしくないからってことで一つ


では、『星花ミダレザキクルイザキ』スタートでーす!

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