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「ここは……?」


 何だ。授業中にでも居眠りしてしまったかと辺りを見渡す。すると、制服を着ているはずの皆が、何か変わっていた。目立つのはキングメタルスライムだ。デカい。ありゃりゃりゃ。隣の席のゴーレムさんが圧迫され……てなかった。むしろ背もたれにしていた。


 キーンコーンカーンコーン…


 チャイムが鳴ると、皆ゆっくりと起き上がった。そして目を擦り、辺りを見渡す。さっきの俺と一緒だな。…そして、驚愕するも、すぐにハッとなった。異世界に転生したことを思い出したのだろう。


『今日はクラス活動と学年集会が重なった日です。先に学年集会を行います。ペアごとに廊下に並んで、体育館に集合してください。』


 聞き覚えの無い声が俺達を促す。

 スルッと、もはや慣れた感覚がした。目線を真下に向けると案の定、上井さんが谷間でぐてぇーっとしていた。まだ眠いのかな。

 俺は上井さんの頭を撫でながら廊下に出る。皆も、戸惑いながらも事情を掴めてきたようで、ざわざわとしてはいるが、騒ぎ出す者は居なかった。

 でも、ペアごとにとは言っても、ギリギリ二列になってた位だ。さっきのキングメタルスライムが大きな原因だし、それに上井さんのような動物の体の人も居たからだ。


 体育館に着くまでは、俺はずっと上井さんの喉を指で撫でていた。上井さんも満更でもない態度だったので、これからちょくちょくやるとしよう。


「え〜皆さん。おはようございます。」


「「「「「おはようございます。」」」」」


 壇上に上がったのはスーツ姿の、金髪で琥珀色の目といういかにもイケメンな人だった。まさかあの校長先生なの? あの頭が実はバーコードで普段はカツラをしていたあの!?


「今回のことはあまりに突拍子でした。皆さん随分と困ったでしょう。しかし。ここで一致団結すれば、自ずと未来が切り開けるはずです。そのため、情報整理の為にも、皆さんにはアンケートに答えてもらいます。視界の左上に表示されている役職とか、名前とか簡単な質問です。まだ自分の中でも整理し切れていない人も居るでしょうから、深い追求はまだしません。校長先生からは以上です。」


 やっぱりバーコード校長だったーーーーー!

 バーコードめ! 自分の頬に触れて満更でもない顔しやがって! 髪に触れて口角を吊り上げやがって! 大体あんなオッさんの転生なんて誰得だよ!


「えー続いて、生活指導の安芸先生からのお話です。」


 体育館の端で司会を務めている……あれ? おかしいな。ケンタウロスが見えるぞ…? ああいや、そうだった。先生も転生したんだったな。全く、生徒だけかと思ってたぜ。余程さっきのバーコードが堪えたのかな。


 生活指導の安芸先生が、壇上に上がった。

 安芸先生とは、ジェルで薄い髪を補強していると有名な先生である。

 そう。

 そのはずだった。


「皆さんおはようございます。生活指導の安芸です。今日は、ここでの過ごし方についてお話しさせて頂きます。」


 せ、清楚系黒髪ロングの、しかも美女だと…?

 口調も普段と何と無く違うし、動作も全く違う。というか、意識してやってるだろ。

 くそっ! 中身がオッさんじゃなければ! くそぅ!


 生活指導の極めて常識的なお話が終わり、教室に戻ってクラス活動を行うことになった。

 ……うん。普通の集会だったな。


「(アンケート、どうする?)」


 小声で上井さんが尋ねてきた。移動中で騒がしいので恐らく誰にも聞かれていないだろう。


「(書かないでおこう。あんな役職書いたら何されるか分からん。)」


「(それもそうだね。あ、あとここでは口調変えたら? バレにくくなるよ?)」


「(おお。妙案だな。安芸先生と被るけどーーー)」


「ねぇねぇ。君達名前教えてくれない?」


 チャラけた様子で話しかけてきたのはイケメンだった。

 よし。女言葉だな。……ふぅ。


「す、すみません。私、名前は言いたくないんです…」


「えぇ〜何で?」


 わた、私って。超恥ずかしいんだけど。でもまあ、声も女だし体も女だから、敬語の一人称『私』でいけばなんとかなるか。


「こんな体になってしまいましたし…それに、は、恥じゅかしいでしゅから…」


 ああああああああっっ! 噛んでしまったぁぁぁぁぁあああっ!

 しかも2回! アアアアアアアッッ!

 ヤバイ恥ずかしい目を合わせられないどうしても俯いてしまう。女言葉でさえ恥辱なのにぃぃぃいい!


「……あ、そ、そう? なら良いよ。うん。じゃ、じゃあ。」


 そう言うと、イケメンは照れたような感じで何処か行った。

 ………ん?

 俺の恥辱が功を奏したのか?


 教室に入ると、皆が各々の席に座ろうとしていた。

 ヤバイ! これじゃ席の場所で誰か分かるじゃないか!

 それは上井さんも思ったようだ。目で「どうする?」と聞いている。

 幸い、皆席を立ったりして話したりしているから、俺達が不思議がられる事はないが。


「ねぇねぇ。君誰か教えてくれる?」


 気さくに話しかけてきたのは、金髪ツインテールの美少女だった。


「ご、ごめんなさい。こんな姿ですし、あまり名前は言いたくないんです。」


 それに、名乗らせるなら最低限自分が名乗れよ。どうせ名前だけ聞いて自分の名前は言わないんだろ?

 俺が断ると、一気に金髪ツインテールの目が冷たく細められた。あっ、断られるとこうする人居たな。誰だったっけ……?


「そ。じゃあその黒猫ちゃんは? お名前何て言うの?」


「この子はリミって言うんです。誰かが転生したみたいなんですけど、言葉も理解出来ないし、それに喋れないんです…」


 う、我ながらボロが出やすい嘘だな。でも、多分、この人は女王キャラの近江さんだと思う。それが正しければ、まずバカだから気付かないだろう。というか気付かないでくれ。


「そうなんだぁ。可哀想だねぇ。ねぇ。何でそこに挟まってるの?」


 もっともな疑問だ、と俺は思った。


「リミがここを気に入ったらしくて。」


 リミ……じゃなかった上井さんは、寝たフリをしている。ボロが出ないようにするためだろう。

 俺はゆっくりと頭を撫でる。

 その様子を見た近江さん(仮)は、どこか不満気に頬を膨らませた。


「そ。まあ良いけど。私の名前は近江 鏡花よ。あなたと違って名前を隠す必要は無いから。」


 そう言うと近江さんは、最初に話し掛けたトーンで別の人に話し掛けていた。ああやって親しげに話し掛けて、ダメな奴は普通に無視、良い奴は傘下に加えるらしい。自分の取り巻きは自分で決める、という噂通りだな。


「(それにしても席、どうしようか…)」


「(そうだね…取り敢えず先生が来るまでやり過ごそ?)」


「(だな。)」


 教室の隅に寄って、彫像の如く動かずにクラス全体を俯瞰する。

 すると、大きな纏まりというのは無かったが、中小グループに分かれているのが分かった。

 俺達のように積極的に関わらない奴らがポツポツ。

 親しい友人を運良く見つけ、2〜3人程度で話している所。

 いつもならもっとグループの大小が大きいのだが。やはり、名前が分からないのが原因か。


「(それにしても、リミって何?)」


 上井さんが薄目で見上げてきた。


「(ああ。昨日の夜ちょっと考えてね。翠を逆さから読んでリドミで、ドを何と無く外したら響きが良くてね。ここでの偽名に採用したんだ。)」


「(それなら別に良いけど、いずれボロが出るね。)」


「(それは仕方ない。でもまあ、あんまり会わないでしょ? それに見分けるのなんか出来ないって。)」


「(それは無いと思うな。)」


 そう力強く言うと、「(皆の目を見て。)」と上井さんが言ったので、俺はそれに従い、皆の目を盗み見た。


「(マジか……)」


 なんと、全員琥珀色の目をしていた。そう言えば校長もそうだったし、安芸先生もそうだった気がしてきた。

 窓ガラスに薄く映る自分の顔を見る。やはり、琥珀色だった。上井さんも琥珀色だし、さっきのイケメンも琥珀色だった。


「(見分ける目印、か………目だけに。)」


「(それは滑るから次からはやめた方が良いと思うよ。)」


 えーマジか。即興にしては良くやった方だと思ったんだけどなぁ。まあそういうのなら、そうするか。

 と、考えを改めていた時、ガラッと扉が開いた。

 俺のクラス、2-Aの担当は安芸先生だ。ちなみに体育を教えている。


「皆さん。隣同士ペアで、場所は何処でも良いので座ってください。急いで。」


 安芸先生の登場により静まり返った教室に、その声はやけに響いた。

 トントン、とプリントの束を机に当てて俺達を急かす。


「(ペアごとか…どうやらバレなさそうだな。)」


「(うん。)」


 俺達は近くの席ーーー窓側の列の一番後ろーーーの席に座った。一応まだ上井さんには寝たフリをしてもらっている。それ故に、くっ付いている隣の席は誰も居ない。


「あれ? そこ、ペアは?」


 と安芸先生に聞かれたので、俺は指で上井さんを指す。

 それだけで安芸先生は納得したようだ。

 あっ、言い忘れていたが、安芸先生はあの日に言い争った先生ではない。あの先生はもっと別の先生だった。名前は知らない。


「他は………大丈夫そうですね。では、早速ですが校長先生のお話にあったアンケートを配ります。ペアで1枚です。」


 安芸先生は手慣れた様子でプリントを配布していった。さっきから何度も安芸先生と言っているが、そう言い聞かせないとこの清楚系黒髪ロングの人を普通の美人だと勘違いしてしまいそうだからだ。惑わされるな。惑わされたら負けだぞ!


 回ってきたプリントに、机に備え付けられていた筆箱からシャーペンを取り出す。


「(……どう書こう。)」


 内容はこうだった。


【アンケート】

 2年 組 番__________

 2年 組 番__________


(1)あなたの視界の左上に表示されている役職:_____

(2)ここへ来る前に居た場所……………………:_____

(3)永久パートナー登録をしましたか?

 はい:いいえ

(4)今、何か不安に思っていることなどはありますか?

 ある:ない

(5)(4)で、ある、と答えた人に聞きます。どんなことが不安ですか?

 {____________________}

(6)その他、何か質問はあれば、書いてください。

 {_____________________}

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