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「…さて、じゃあこれからどうするか。」


 今いる場所はどこかの部屋だ。目の前には上井さんが入ってきた扉がある。


「取り敢えず物色しようよ。」


 上井さんがぺしぺしと俺の胸を叩きながら提案する。ああ、俺が動くんですね。

 右にぺしぺしされれば右に向かい、左にぺしぺしされれば左に向かう。俺は馬か何かなのか?


「このタンス豪華だね〜。」


 そういいながら、上井さんが俺の谷間から尻尾を2本伸ばして器用に引き出しを開けた。便利ですねその尻尾。

 中には衣類が入っていた。サイズ的に俺のらしい。………上井さんのはやっぱないか。猫だしね。


「っていうかこれ、どこに仕舞おう。」


 メニューに何かあるかと探していると、アイテムボックスという欄があったので、タップ。すると右手の位置の空間が歪み、開いた。

 試しに服を入れてみる。

【アイテムボックス】

 服

 どうやらちゃんと入ったようだ。ついでにタンスの服などを全部突っ込む。

【アイテムボックス】

 衣類(5日分)

 となった。結構便利だなこれ。


「あのベッド貰っとこ。一応。」


 尻尾で示された場所を見れば、1人サイズのベッドがあった。え、あれ入れるの?


「いいじゃん。どうせたんまり入れれるんでしょ? 持っておくに越したことはないよ。」


「そ、そう…?」


 見事に心を読まれた気がするが、気にせずにそのベッドに向かう。

 これ穴の大きさ的に入らないんじゃね? と思ったら穴がデカくなった。ほんと便利だな。

 どうやって持ち上げようかと思ったら、片手で持ち上げれた。軽っ。


 アイテムボックスにベッドが追加された。


「他は……特に無いな。」


「そうだね。じゃあ別の場所に行ってみよ? 何かあるかもしれないし。」


「そうだな。」


 扉を引き、廊下に出る。やや暗い色を基調としていて、魔王城と言われても納得してしまいそうな感じだ。……いや、俺は役職:魔王だし、魔王城であってるのか?


 それから色々な部屋を物色したが、金貨5枚と銀貨5枚と銅貨5枚と銭貨5枚が主な金銭だった。勿論いくらになっているかは分からない。日本に比べたらバリエーションが少ない気がする。無論これで全ての硬貨が揃ったかは分からないが。

 厨房らしきところに行ったが、食糧が一切無かった。これは拙い。すぐにでも食糧を確保しないと。


「取り敢えずここ出るか…」


「うん。」


 一階を探し終えたところで、玄関らしきところから出た。

 辺り1面が荒野になっており、空は少し紫に濁っている。目を凝らすと翼竜が飛び回っていたり、荒野には大蛇がとぐろを巻いていた。他にも沢山の魔物が蠢いていた。


 ひゅ〜


 木の葉が俺たちの前で一回転してから地に落ちた。

 後ろを見れば、ザ・魔王城みたいな感じの城があり、この荒野唯一の建造物だった。

 地平線すれすれに村らしきものが見えたり、キェェエーーーという嫌な鳴き声が聞こえたりと。


「面倒な所に飛ばされたな…」


「そう…だねぇ。」


 息を飲み、同時に溜息をついた。そして、ここが魔大陸と呼ばれる過酷な世界だと知るのは、そう遠くない話だった。




「取り敢えず、あの村目指すか。」


「うん。そうしよう。」


 おかしいな。こんな短いインターバルでまた眉間を揉むなど。

 俺は歩きながらそんなことを考えていた。途中、俺達を襲う大蛇とかがいたが、上井さんが人睨みすると退散していった。流石役職:恐怖帝王。やるぅ。


「うぅ〜。ただ見つめただけなのに〜。」


 上井さんが双丘の間で暴れながら抗議してくる。ちょっと、くすぐったい。

 そして器用に尻尾で交互に俺の頬を叩いてくる。これもまた気持ち良い。しかしあまりに長かったので、双丘でプレスした。


「はくぅ」


 それで上井さんは収まったが、逆に俺の心は騒ぎ立った。

 今、成り行きでだけど、さ、触ったんだよな…?

 感触を思い出すように拳を開き、閉じる。


 ……おお………おお……!!!


「凄い……素晴らしい…」


「秀太くん今何か言った?」


 感動に浸っていると、つい感想を漏らしてしまったようで聞き返されてしまった。


「いや、何でも?」


 俺ははぐらかし、遠い場所にある村を見据える。

 さっきから1時間以上歩いているが、全く疲れていない。これもこの体の恩恵か。魔物達は全く寄り付かなくなったが、最悪あいつらを食糧にしなければいけないと思うと、自然と早足になる。


「……あの村、どんな村なんだろうなぁ。」


「さあ。友好的な村だと良いね。」


「全くだ。」


 次第に夜が深まり、完全な闇になるが、目が闇に慣れたので、移動に差し支えはない。

 途中から歩くのが面倒臭くなったのでダッシュで走ったら、30分程で着いた。

 後ろを見れば漫画のように土煙が上がっているが、まあ荒野だし大丈夫だろう。というか30分間全力疾走しても息が切れない自分に驚くべきか。汗一つかいていない。


「あっ、今、夜だから起こしちゃダメかな?」


「あんなに地面に亀裂入れながら走ったんだから今更じゃない? ……ほら、住人のお出ましっぽいよ。」


 ぺしぺし、と促されるとそこには怪訝な顔をしたオッさんが居た。

 なんと、褐色肌のダークエルフだった。ちなみに髪は白。


「なんだぁ。あんたら。」


「夜分遅くにお騒がせしてすみません。ちょっと寝床が無くてですね…」


 オッさんが更に訝しむ目になる。や、やめてっ、そんな目でみないでっ!


「……そうか。なら条件がある。あっちの遠くに大蛇が居るんだ。あいつを持ってこい。薬の調合に使う素材が多いからな。そしたら入れてやる。」


「分かりました。1時間程したら戻ります。それまで待っててもらえますか?」


「あ? お前ら、何言って……」


 俺は土煙を立てない程度の速度で駆け抜けた。そして十分な距離を取ったら、地面を踏みしめ、全力疾走。魔王城付近に居た大蛇を取りに向かう。

 30分程して、大蛇が見えた。大蛇はさっき逃げたばっかりなのに、今度は何故か襲いかかってきた。

 その迫力に怯む。

 しかし、上井さんは違った。

 俺の谷間から飛び出ると、一気に体を大きくした。【身体変化・大小】だろう。一瞬で大蛇と競り合う大きさになると、その尻尾で大蛇の首の根っこと尻尾を締め付けた。


「あー秀太くん。これって、殺さなきゃダメ?」


「うーん、殺しといた方がいいかもな…」


「秀太くんがやりなよ。」


「いやいや、そのまま上井さんやっちゃいなよ。」


「え〜。」


 どんな化け物であれ、殺すというのは気が引ける。

 けど、それをやらないとこの世界では生きていけないだろうし、いずれ通る道なのだ。


「じ、じゃあ一緒に、同時にやろう?」


 上井さんが折衷案を出す。うん。それが最適だろう。

 俺が頷くと、上井さんは大蛇を地面に押し付ける。上井さんは爪で頭をさっくりやるみたいだ。俺はそのもうちょっと上辺りに乗って、拳を構える。


 もう一度アイコンタクトし、頷きあう。


「「いっせ〜の〜でっ!」」


 ブシュっという音をかけ消すように、ズドォオン! という音は大地を震撼させた。衝撃による土煙で死体が見えない内にアイテムボックスに突っ込む。全長100mはあったが、すっぽり入るようだ。

 シュポッという何かが滑り込む音を俺の谷間から聞くのを確認して、俺は土煙から脱出した。


「うぅ〜、汚〜い。」


 チロチロと爪を舐める上井さんは、完全に猫だった。

 本人は自覚しているのだろうか…


 また30分程走り、ダークエルフのオッさんにアイテムボックスから出した大蛇を見せると、怯えた表情で中に入れてくれた。更に宿も紹介してくれて、しかも大蛇のお礼ということでタダらしい。ありがとう!

 俺はベッドに直行し、ダイブした。

 そしてそのまま眠りについた。


「く、苦しいよ秀太くん〜」


 ベッドとうつ伏せになってる俺に挟まれた上井さんが呻くが、既に俺には聞こえていない。

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