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いやいや、待て待て、いやいや。


一旦状況を整理しよう。うんそうしよう。

えーっと、今日の朝、学校に登校したら寛司が来ていた。それで話し掛けたら、いつもと違う雰囲気の寛司だったので驚いたが、話に相槌は打ち続けた。そこまではいい。

問題はそこからだ。

寛司が異世界発言をしたら、変な現象が起こった。あの感覚は覚えている。何とも言い表し難い感覚だった。うんうん。


それで目が覚めたら、青肌赤髪の女性になっていたと。


「ラノベや漫画を読んでて良かった…」


転生の類いだからなのか、意外とこの体を動かす上での違和感は少ない。

ああいや、腹の上で首の下にある大きな膨らみへの違和感は半端じゃないよ? 見てるとどうしても顔が赤くなっちゃうしね。


………触るか?


心の中の邪な俺が囁いた。


………触れよ。きっと柔らかいぞ。


おお。俺のニヤケ面が簡単に想像できるぜ。

いやね。お前の言いたいことも分かる。共感出来るんだ。けど、ちょっと……ねぇ?


何を温いことを言っとるんだ!


邪な俺………いや、俺の仙人が断言した。


す、すみませんっ!


思わず謝ってしまった。何故だろう。俺は別におかしなことは言っていないはずなのに。………俺がおかしいのか…?


貴様は己の欲望を素直に認めんか! そんなだから毎回片想いに終わるんだ!


うぐぅ…


そこを突かれると痛い。俺は今までで数回好きな人が出来たが、告白すら出来ずに終わってしまった始末。挙句、その女子から「ごめんね? 気持ちは嬉しいけど…」とか、「チラチラ見ないで欲しいなって思うんだけど…」とか言われてしまったのだ。情けないにも程がある。


ほれ! やるんだ!


ハッとなれば、もうすぐそこに俺の手があった。とても強張っていて、力み過ぎて手が震えている。まるで不可視の壁があるかの如く、そこから動かない。否、動かせない。

汗が頬を伝う。滴る。床にぶつかると思われた雫は、なんと胸が受け止めた。それを深く認識することも出来ずに、浅い呼吸を繰り返し、俺の目は瞠られている。


これは俺の体だ。だからどうしようも俺の勝手のはずだ。


だが、なんだ? この罪悪感はーーー


「えっと…何、してるの?」


「ッッッ!」


声のした方である後ろを向けば、そこには尻尾が2本の黒猫が居た。

いわゆる猫又というやつだろうか。それは置いといて、この黒猫は今、確かに声を発したはずだ。


「そ、そういうお前は何なんだ…?」


「私? 私は、上井 翠って言うんだけど…知ってる?」


なんと隣の席の上井さんだった。


「あ、ああ。隣の席だしな。俺は…鈴木 秀太だ。何故か女の格好になってるが…そりゃお互い様か。」


黒い毛並みに琥珀色の目。二股なのを除けばどう見てもただの黒猫だ。

しかし、知り合いが居ることは喜ぶべきことだろう。

どんな偶然だが知らないが、上井さんとは仲は良い方だし、気まずい思いはしなーーー


「ね、ねえ。さっき、何しようとしてたの?」


ーーーい訳が無かった。


「えっ?」


「えっ? じゃなくて、ほら、さっき、自分の胸を……」


「何のことかなっ!?」


捩じ伏せた。


「…触ろうとしてたよね?」


無視された。そして、確認する形だった。弁明の余地が無い。まあ事実なんだけど。


「さて…と。そう言えば、視界の左上にやくし」


「ねぇ聞いてる?」


逆に捩じ伏せられた。


「……はい…」


「ねぇねぇ。何でそんなことしようと思ったの?」


音もなくこちらに歩み寄る黒猫は、妙な威圧感があった。こ、これが言葉から滲み出る重圧なのか…!

しかし、それに屈する訳にはいかない。屈したら負けだ。試合終了だ。


「………ねぇ。」


一層低い声。

威圧感が元気百倍し、冷や汗もゲリラ豪雨だぜ。ははっ、誰か助けて。


そ、そうだ仙人! おい仙人! お前が何とかしろよ!


……本当に良いのか? その決断を下して。


ん? あ、良いけど。


なら、失礼して。


「何故、と問われれば、答えは決まっていよう。」


俺は無い眼鏡を押し上げて、無いレンズを煌めかせた。

忘れそうになるが、この声は女声で、相当綺麗な声をしている。間違ってもこの上井さんのような威圧感は出せないだろう。…やはり女は怖い。


「感触を確かめたかった。ただ、それだけのこと。」


………

………………

………………………


仙人テメェエエエエエエエエエッッッ!!!


仙人に任せた俺がバカだった。迂闊だった。愚かだった。アホだった。浅慮だった。


「あ、いやっ、今のは、えっと、その…」


今は後悔しても誤解は解けん。ああいや、誤解じゃないんだけど…


「そうなんだ。良いなぁ。あ、そうだ。秀太くん。私を谷間に挟んでくれない? こんな体になったんだもん。全身で味わえるよねっ。」


「ん? ああ、良いけど。」


まだこの体に慣れていないのか、俺は恥じらうことなく承諾した。

しかし、挟めるか? 流石に猫はデカすぎると思うんだが。

とか考えていると、上井さんの体が3回り程小さくなった。本人が驚いていない所を見るに、どうやら意図的にやったらしい。今は子猫サイズだ。


「じゃあ、よろしく。」


ピョン、と上井さんが跳ねると、俺の胸の上に着地した。

そして、


「うひゃひゃひゃひゃひゃっっっ!」


顔から体を谷間に埋め始めた。うひゃひゃっ、くすぐったいくすぐったい。肉球が、尻尾が、あひゃひゃひゃっ。

少しすると、ぴょこんと上井さんが顔を出した。手をでろんと出して、膨らみを肘起き代わりにしている。むむっ、なんと贅沢な。


「あーこれ気に入った。気に入ったよ秀太くん。よし。しばらくはこれでいこう。」


上井さんはぺしぺしと胸を叩きながらそう決定した。


「分かったけど…さっきの何なんだ?」


「ん? 体を小さくしたやつ? あれ、何か特殊能力とか言うらしいよ?」


「何でわかったの?」


「ほら。」


スッと虚空に画面が映し出された。メニューとなっていて、上井さんはその欄にある特殊能力をタップ。そこには色々な技名が書いてあった。さっき使ったのは【身体変化・大小】かな。【身体変化・形態】と何が違うんだろう。


俺もそれに倣って特殊能力欄をタップすると、物凄い沢山の技名があった。【契約】とか普通そうなのがあれば、【覚醒】などというそれっぽいのがある。1番恐いのは【煉獄】だろうか。小心者な俺には使えないな。


「取り敢えず、ヤバそうなのはやめておこうか。もしかしたら自滅技だってあってもおかしくないし。」


「そうだね。私、役職が恐怖帝王(5芒星最強)ってなってるんだけど、秀太くんは?」


「魔王だ。」


「そうなんだ…多分、秀太くんが最強なのだよね?」


「名前から推測するなら、だな。」


しかし、恐怖帝王か…そうか。さっきの威圧はそれが原因だったんだ。うんうん。絶対に俺の後ろめたさから来たものではないな。うん、うん。


「ねぇ。秀太くんって戦いたい?」


「いや。出来れば避けたいな。」


首を90度上に向けて、俺と目を合わせる上井さん。

俺はその目を見て、上井さんもあまり戦いたくないんだなと確信した。

I'm sure.だよI'm sure.最近習った。使い方が正しいかは分からないけど。


「良かった。私も同意見だよ。……じゃあ、これからどうする?」


「そうだな………ん?」


メールが届いたみたいだ。メニューのメール欄が(1)になっている。

見れば、上井さんも同じのようだ。

俺たちは頷きあい、そのメールを見た。


題名は、『鈴木 秀太であるあなたと上井 翠はパートナーになりました!』というものだった。


………うぅぬ。おふざけ無しで眉間を揉んだのは人生初かもしれん。

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