はじまりの大地
トコトコとエンジンの音が耳に入った。
ハンドルの振動がヘルメット越しに俺の頭を揺らす。
どうやら俺はバイクに身体を預けて眠っていたようだ。
サイドスタンドがいつの間にか下りていて、エンジンはニュートラルに入っていた。
体を起こす。
「……ぅえ?」
間抜けな声が思わず出た。
目に入ったのは赤茶色の平坦な大地。
何処を向いても赤茶色。
点々と緑色が見えるが、ほとんどが赤茶色だ。
地理の教科書で乾燥帯の写真を見たことがあるが、それに似ていた。
エアーズロックとかありそうな場所だ。
しかし俺が先程までいた場所は河川敷の公園だ。
「何処だよここ!?」
俺の叫びが空しく響く。
ヘルメットを脱ぐと涼しい風が髪を揺らした。
気温はそれほど高くはないが、空気が乾燥している、そんな風に感じた。
雲一つない青々とした晴天だったが、俺の心は晴れやかではない。
これは夢だと自分の頬をペチペチ叩いたが、鈍い痛みがそれを否定した。
広大な自然が広がるが、それを美しいと感じる前に不安と焦りが俺を包んだ。
それは時間が経つにつれて肥大していき、やがては恐怖へと姿を変えた。
辺りに誰もいない孤独が更に俺を追い立て、パニック寸前の俺を呼び戻したのは女性の声だった。
「やっと起きたのね」
そんな声がふと、耳に入った。
助けを求めるように、辺りを見回すが誰もいなかった。
「……誰か、いるのか?」
「ここよ、ここ」
俺の問いに応える声は、俺の足元から聞こえた。
正確には俺の股の間。
もっと正確に言えばその声を出していたのは俺のバイクだった。
「……は?」
俺は再び間抜けな声を出した。
短いですがキリがいいので今回はここまでです。