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ディーテ

 ディーテの中に入り、まず目にするのは焼けた空である。夕陽のように赤く染まった空が、城壁の中を覆っている。視線を落とし、次に見るのは消え去った大地。そこに第五圏の大地はなく、目の前には、遥か下へと伸びる階段があるだけだった。

 門を抜けた者は、道に従い真っ直ぐに続く階段に身を置く。すると、先ほどまでの熱気が不思議と和らぐのを感じるだろう。しかし、これはディーテの熱気が冷めたわけではない。道の上だけが特別なのである。もしも、その道から手を出そうものなら、渦巻く熱気に肌を焼かれ、痛みを覚えることになるだろう。

 レヴィアタンたち四人は、その長く伸びる階段を下っていく。一段、また一段と、ゆっくりとした歩みでだ。それは、そうであろう。一度転んでしまえば、どこまで転がり落ちるか分からない。それに、階段の横には手すりなどない。道を外れてしまえば、真っ逆さまなのだ。慎重になるのは、当然だった。


 一行が階段を下り始めて、どれほどの時間が経ったのか。ディーテの門はもう見えず、階段の終わりはまだ見えない、そんな頃。レヴィアタンたちの後ろには、城壁があった。泥沼の大地に置いてきたはずの城壁が、である。

 なぜ、それがそこにあるのか。初めて訪れた者ならば、混乱するかもしれない。普通に考えて、壁がそこにあるはずがないのだ。直立する壁が立っていられるほどの高さではない。そう考えることが容易いほどの距離を、すでに下ってきている。

 ならば、どういうことなのか。延々と変わらない景色と、後ろにあり続ける壁に、同じ場所をループしていると考える者もいる。壁が動いて自分たちの後を付いて来ているのだと言う者もいる。しかし、そのどちらもはずれだ。では答えは、何なのか。単純である。城壁は、下へ下へと続いているだけなのだ。人智を超えて、遥か下からそびえ立つ壁。第五圏に見えた壁は、その頭が少し顔を出しているだけなのであった。


 延々と続くかと思われた階段が終わり、四人を出迎えたのは灼熱の景色だった。大地は赤熱し、空は一層赤く色づいている。そのすべては、地を割り噴き出す炎の仕業。ディーテを燃やす地獄の業火によるものだった。

 大地を焼き、大気を焼き、空を焼く。盛る炎はすべてを染め上げ、燃える赤は第五圏の空にまで届いている。ディーテのすべてを灼熱に変えようとする炎。しかし、それほどに威勢のいい炎であっても、力の及ばない場所があった。

 続く道である。

 階段から真っ直ぐに続く道によって、炎は真っ二つに引き裂かれていた。いかに地獄の業火といえども、それを燃やすことは叶わず、悪魔たちに道を譲ることしかできない。

 そこに、炎も歯痒さを感じるのだろうか。一層猛り、狂ったように燃え盛るのであった。

 レヴィアタンたち四人は、その道を進んでいく。左右に炎を引き裂きながら、奥へ奥へと続く道。その先には、広大な堀が口を開け、さらに先には、悪魔たちの居城『万魔殿=パンデモニウム』があった。

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