クラスメートたちの今日の議題
二年二組に所属する、私、中谷桜は、もう使われていない古い空き教室の前に佇んでいた。
緊張で喉がカラカラだ。正体がばれれば何が起こるか分からない。だが、私は自分の使命を果たすため、目の前の扉を叩いた。
コンコン、コン、コココン、とリズム良く扉を叩く。のっそりと使われていない空き教室から出てきたのは、仮面を被った性別も分からぬ人物。その人物は、しゃがれた声でこう呟いた。
「宮間君と佐原さんの子供は?」
「一姫二太郎」
「ようこそ我が『過激派』の第6回会議へ」
教室に入ると、そこには既に二十数人もの生徒が集まっていた。それぞれが仮面舞踏会みたいな目元だけを隠す仮面をつけており、かくいう私も仮面をつけている。この仮面は、クラスの誰が参加しているのか隠す為のものであり、中にはローブを纏って参加する人すらいる。
一人の男子生徒が教壇へと進み、そして仁王立ちをした。
「これから、第6回、『宮間と佐原をくっけよう大会議』を始める。今回の主題はもちろん、『ドキ☆文化祭でくっついちゃおう大作戦』についてだ」
なんてセンスのない作戦名だとあきれながら拍手をする。ここで怪しまれては元もこもない。
宮間君と佐原さんは、どうみたって両想いなのになかなかくっつかない困ったさんたちの事だ。見た目番長な宮間君が自分の気持ちにも佐原さんの気持ちにも鈍感なのが原因ではある。
佐原さんが必死にアピールしているのに、宮間君がヘタレすぎてくっつかないという見ているこっちとしてはもどかしい二人。何時の日にか、クラスが『二人を無理にでもくっつけちゃおうぜ』という過激派と、『いや、まだまだ初々しい二人を遠くから応援するべきだ』という穏健派に分かれてしまっていた。
過激派の会議に参加している私は、もちろん過激派……などではなく、バリバリの穏健派である。今回、過激派が文化祭で何を画策しているのか、スパイとして忍び込んだのだ。
「前回急遽試行した、『キュン☆放課後の相合い傘』が、宮間の失踪という形で失敗してしまった。さて、その失敗を生かした何か良い考えがある人はいるか?」
「はい!」
勢いよく手を上げたのは、黒髪を三つ編みにした女子生徒。あれ、三井さんかな?おっとりした彼女が過激派だったなんて……。ちょっと驚きだ。
「生徒会に賄賂を使い、『校内ベストカップル選手権』にわざと二人を参加させるのはどうでしょう!」
そ、そんな強引な!
流石の過激派メンバーも賛否両論かあるらしくざわざわと波紋が広がっていく。
校内ベストカップル選手権とは、その名の通りこの学校で一番のベストカップルを決めるものだ。
カップルはくじを引いて、そのお題を全校生徒の前で行い、そのラブラブっぷりで勝敗を決める。
もちろんお題はカップルがラブラブっぷりを発揮出来るようにと『キス』や『お姫様だっこ』などしか入っていない、端から見ればリア充への私念しか降り積もらないどうしようもない企画。
それに、あの二人を参加させようというのだ。
「賄賂を使うのはちょっと……」
「運営に波紋が広がるぞ」
「いや、だがいい考えなのでは……」
「これぐらいいいんじゃない?」
流石にすぐには意見は定まらない。だが、彼女の発言が更なる発言を呼び、会議はヒートアップしていく。
「後夜祭で一緒にするくらいでいいんじゃない?」
「そんなのであの宮間が佐原さんと付き合うわけがないっ!」
「いっそのこと後夜祭の流れで二次会という名のお泊まり会にしちゃうとか……」
「やりすぎよ!あの二人はあくまで健全な関係なのっ!」
「いや宮間って意外とムッツリっぽいし……」
「お化け屋敷に二人を突っ込むとか」
「もういっそ倉庫に閉じ込めてみる?」
「文化祭関係ないじゃんっ!」
論争が論争を呼び、誰かが立ち上がれば他の人も立ち上がり、中には興奮し過ぎてマスクをとってしまう人も出てきてしまう。ちょ、あれもしかして校長じゃない!?PTA会長は穏健派に引きずり込んだから、穏健派が有利に立てると思っていたのにっ!
会議は結局、最終下校時刻まで続いた。
それから数日後。
二年生のとあるクラスが、放課後空き教室に仮面を被って集まり、何か叫び声を上げたりしているという報告が先生たちに流れ、ホームルームでいかに黒魔術や降霊術が危なく信憑性が低いものなのか散々担任に諭された。