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お嬢様、今日も修羅場ごっこで継母に虐められています。

作者: 田舎娘
掲載日:2026/06/12

「ねえ、知ってる。」

「もちろん。旦那様が真実の愛のお相手を連れてくるんでしょ。」

「お子さんもいるらしいわよ。お嬢様と同い年の。」

「え~。とうとう、この家が修羅の家になるのー。」

「貴方、三文小説の読み過ぎよ。」

「巷で流行ってる小説のようになるのよ。」

「ちょっと、ワクワクね。」

「でも、どっちに付くの。」

「どっちって。」

「何、すっとぼけてるのよ。正妻の娘か愛人の娘かよ。」

「でも、その愛人が正妻になるんでしょ。」

「そうだけど、正当な跡取りはここに居るお嬢様よ。」

「もしかして、修羅場が見学できるのかしら。」

「良く考えないと、自分の首を絞めるわね。」

「面白くなりそうね。」


 盗み聞きは、はしたないけど、いいこと聞いたわ。

 お父様の大事なお話ってこのことね。

 私は姉になるのかしら?それとも妹?

 お義母様になる方は、どんな方かしら?

 それにしても、あの者たちのおしゃべりは何なのかしら?

 修羅の家って?

 流行ってる小説って?

 何が起こるの?


「お嬢様。お茶のお時間です。」

 丁度いいわ。彼女に聞いてみましょ。お茶を飲みながら、

「ねえ、あなたは私の専属の侍女よね。」

「お嬢様。その口調は、また何かとんでもないことを考えついたのですね。」

「何よ、いつも問題を起こしているみたいじゃあないの。失礼よ。」

「はいはい。申し訳ございません。それで、なんでございますか。」

「我が家が、修羅の家になるのはどうして?」


 こんなことを言っているのは、私がお仕えする唯一の伯爵家のお嬢様です。

 小さい時からお世話をしておりますが、このお嬢様、ちょっとぶっ飛んだところがございます。思い込みが激しいのです。

 今もこの質問です。どこで何を聞いてきたのかわかりませんが、一波乱ありそうです。旦那様に報告です

 でも、その前に

「お嬢様。当家が修羅の家になることはございません。」



 すぐさま旦那様にご報告です。

 旦那様、顔を真っ青にしてオロオロしだしました。

「あの子がそんなことを……。」

 旦那様はうろたえすぎです。なんせこの男、奥様がお亡くなりになってから、一層お嬢さまを激愛しています。

 親族中があれでは親子双方のためにならない、と縁談をすすめられたのですが、旦那様断固拒否。ならと、そのお相手をお嬢様の教育係として送り込んでくるのです。その方はお嬢様と同じ八歳の娘さんがいらっしゃるようです。娘さんはお嬢様の遊び相手です。お勉強も一緒にお受けになるようです。

 そんなことも噂を助長することになったのでしょう。

 さらに、お相手のかたは旦那様の幼馴染だったとか。


 嫁ぎ先で夫に先立たれ後妻だったこともあり、先妻の嫡男様が家を継いだら、折り合いが悪くなり、実家にお戻りになったんだそうです。事情をお聞きした旦那様は、無下に断れず当家で雇うことになったのです。


「なんで修羅場になるんだ。」

 頭を抱えていらっしゃいます。今、執事さんも交えて3人で会議です。家政婦長は別にいますが、お嬢様のことは一切合切、私に任されております。なので3人で会議です。

「旦那様。お嬢様には何とご説明したのですか。」

「今日、話すことになっている。」

「では執事さん。使用人にはなんと。」

「まだ何も言っていません。ただ家政婦長には、ご親族のご紹介のかたが当家にご逗留するから、部屋を整えるようにとは言いました。」

「そのお部屋は」

「家政婦長に任せました。」

「旦那様。縁談の事の顛末は、家政婦長はご存知ですよね。」

「さあ。執事は言ったか。」

「知っているはずです。でも、改めて教えていません。あえて言うことではないと思いまして。」

「家政婦長を呼べ」



「旦那様。何か御用ですか。」

「部屋の確認だ。用意は整ったのか。」

「はい当家では、一番良いお部屋を準備しました。」

 そして、3人して”これだ”。

「なぜ一番いい部屋なのだ。」

「えっご親族のご紹介ですし、いずれ奥様になるお方ですよね。」

 ここにもいました。野郎ではありませんが、早とちり野郎です。

「誰に聞いた。」

「このあいだ親族の方々がいらっしゃった時、くれぐれもよろしく頼むとおっしゃってました。」


 旦那様はお怒りです。お嬢様以外のことは有能な方なので、その親族の方の行く末が多少心配ではあります。が、事実をお聞きした家政婦長は、真っ青です。まさか、私は聞きます。

「家政婦長。まさかメイドたちに話してはいませんよね。」

「あの~。部屋の用意をさせた者に、いずれ奥様になる方ですから、くれぐれも粗相のないようにと指示しました、」

 3人で天を仰ぎます。


「申し訳ございません。すぐに違うお部屋を用意いたします。」

「もう遅いようです。お嬢様はどこかで何をお聞きしたのかわかりませんが、当家が修羅場になるなるとおっしゃっています。」

「修羅場……。」


「旦那様。メイドたちには、新しい奥様と娘さんのことは広まっているでしょう。ですが、問題なのはメイドたちではございません。」

「我が娘ながら、思い込みが激しいからな。あの子は修羅場の内容を言っていたか。」

「いいえ。すぐにこちらにご報告にまいりましたのでわかりません。」


「あの~。さっきお嬢様に聞かれました。巷ではやってる小説って、と」

「何と答えた。」

「図書館にたしか一冊あったはずですよと。」

「旦那様まずいです。お嬢様は八歳にしては読み書きが達者です。大人用の本も読めます。」

「急いでその本を回収しろ。」



 遅かったようです。その本は既にお嬢様のお部屋にありました。そして、一人でブツブツ呟いています。

「私は、物置に引っ越しね。」

「あと、ドレスとか髪飾りを取られるのね。」

「メイドや下働きの仕事をさせられるのね。」

「エー、冷たい水を掛けられるの。今は、暖かいから良かったわ。」


「お嬢様。誰もお嬢様にそんなことは命令しませし、水もかけません。」

 私も、ついついつぶやいてしまいます。



「旦那様。お嬢様にわかるように、ちゃんと噛み砕いてご説明してください。でないと……。」

 いつも近くでお世話をしている私にさえ、想像できません。その日、旦那様は仕事が手につかないご様子で、お嬢様にひっついて説明していました。

 でも、あまりに下手なご説明です。

「新しいお客様が長く逗留するけど、気にしないで、いつもどうりの生活でいいからね」

 事情を存じている私でさえ、何の説明?と思うぐらいです。どうなることやら。


 メイドたちには改めて家政婦長から話をしたようです。しかし、一部のメイドは鵜呑みにせず、

「そうは言ってもねえ。」

「親族の押しなんでしょう。」

 などと、何かを期待している様子です。そんなに、お嬢様の不幸が楽しみなのでしょうか。


 私と家政婦長、執事できちんとリストを作りました。お嬢様は次期伯爵です。次期当主の不幸を望むなどもってのほかです。そんな使用人は要りません。


 とうとうやって来ました。噂の母子です。旦那様は玄関に現れません。当然です。立場をわからせるためです。主に当家の使用人たちにですが。

 執事さんのご案内で旦那様の執務室へ。


 しかし、このお嬢様、八歳にしては幼いようです。

「お母様。すごいお屋敷ですね。ここが私の家になるんですか。」

 まるで自分の家のように話します。お母様の方は

「住むところになりますが、あなたの家ではなく伯爵さまのおうちです。」

 間違ってはいないのですが、すっきりしない会話です。メイドたちでさえ

「やっぱり奥様よ。」

 なんてつぶやいています。


 それよりお嬢様です。昨日から私に隠れて何かやっているようなのです。頼まれたメイドに聞くと、

「お嬢様のいらないものを物置にしまいたいから、とお掃除を頼まれました。」

 まさか小説のように、物置が自分の部屋だと思い用意させた。でも小説は後妻や義姉や義妹の命令で移るものだから、自分からはいかないはず。

「お嬢様。いらないものでしたら私が運びますね。何を運びますか。」

「ここを掃除する時の道具を運んでおいて。あと子供用のメイド服とかあればそれもね。」


 やっぱり物置事案です。一応言われたものは置いときました。メイド服はそれっぽい上質なドレスを置きました。ついでに簡易ベッドも置いときました。ふかふかの布団も一緒です。もちろん箒と雑巾は新品です。


 旦那様にもご報告済みです。ため息を突かれましたが、

「娘の好きにさせよう。そのうち諦めるだろう。」

 諦めませんでした。


 しょっぱなから旦那様の執務室へ。メイド服っぽいドレスに着替え、箒と雑巾を持ち突入しました。例の母子が旦那様にご挨拶している最中にです。

「お父様。私は物置に移ります。お父様の真実の愛の結晶の妹に、私の部屋を使ってもらってください。」

「そんな格好で何をするんだ。それに真実の愛の結晶は君だよ。」

「決まってます。下働きです。私は新しいお義母様や妹に嫌われたくありません。お父様、嘘つきは嫌われますよ。では失礼します。」

 私はお嬢様の後に付いて行きます。こうなっては聞く耳を持たない方です。飽きるまで付き合います。


 しかし、とんでもない方が現われたのです。お嬢様称の妹です。

「お嬢様。面白そう。どんな遊びですか。」

 この子もとんでもないようです。

「お姉様と呼んでくれないのですか。」

「お姉様って呼んでいいのですか。」

「もちろん。」

 2人でどんどん話が進んでいます。とどめは

「じゃあ、私はお姉様をイジメなくてはならないの。」

「そうよ」

「どうやって?」

「そうね~。どうやるのかしら。メイドに聞いてみましょう。」

 とんでもないです。


 ととうとう拳骨が飛びます。

「2人とも座りなさい。」

 お嬢様とお嬢様もどきのお二人はお説教されています。

 お嬢様はポカーン。もどきは大人しく、嵐が過ぎるのを待っているようです。慣れていると思いました。お説教に疲れたのか一息しているところへ。

「お義母様。」

 そういうって跳びついたのはお嬢様です。ほとんど母親を知らないお嬢様にとっては、母親に叱られているようでうれしかったようですが、一同ポカーン。


 まあ、結論は分かりますよね。お嬢様のなつきように親戚中に説得され、旦那様が折れてご結婚。新しい奥様は、我が子と分け隔てなく、毎日お説教です。


 ご姉妹は仲良く、今日も修羅場ごっこをしています。

 時々、物置にこもり、何かしております。もちろん、お嬢様のお部屋は、今まで通りです。


 旦那様は

「仲がいいのは良いことだ。娘にも、きちんと説教してくれる母親もできたし。よかった。よかった。私は娘に説教なんて出来ないからね。」


 おひとり奥様だけがご苦労をしょい込んだようです。

「面倒な娘が2人になったわ。」


 でも、私もお嬢様に説教が出来る人が現れ、ホッとしております。

読んで頂いてありがとうございます。

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>ととうとう拳骨が飛びます。 最初からこうすればよかった
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