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シンフェリア ~願いの花の物語~  作者: にわ冬莉


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第27話 心の内

「……オルガの気持ちに気付いてたんでしょ?」

 フラッフィーはそっとサントワの顔を覗き込む。

「さぁな」

 サントワは遠くに視線を移し、誤魔化す。


「……ねぇ、サントワは死ぬために花を探してるの?」

 じっと目を見つめ、尋ねる。そのあまりの純真さに、サントワは危く頷いてしまいそうになった。慌てて首を振る。

「答えられないな。だが、俺が欲しいものは、手に入らないかもしれない」

「手に入らない? だってあの花はどんな願いも叶えてくれる花なんでしょ?」

 皆、それぞれに願いを持っている。その願いを叶える為に、ここにいるのではないか。あの花のことを、もっと知りたかった。みんな、そう思っている。


「あの花がどんな花なのか。大体、本当にそんな花が存在するのか、それすら怪しいもんだ。もし咲いていたとして、本当に俺の願いを叶えてくれるのか……俺の知っている情報通りの花なのか」


 安らかなる死を。

 もう、今となっては「死」がなんであるかもわからないほどだった。その時がくれば、この魂は救われるのか? 遠い昔、腕の中で息絶えたあの女のように安らかなる眠りにつけるのだろうか……。

 そのためなら、なんでもする。

 そのつもりだ。


「サントワ、人の幸せってね、愛する人と共にあることよ?」

 大人びた口調で、フラッフィーが言う。サントワは一瞬呆気にとられたが、彼女の言葉を黙って聞いていた。

「他には何もいらないの。ただ、そこにあなたがいてくれたら、って。きっとオルガはそう思ってるわ。それはわかってる?」

 まるで幼い子供を諭しているかのような口調だ。サントワは小さく頷くと、静かに答えた。


「あんたが言おうとしてることはわかるよ、フラッフィー。俺だってそれなりに人生生きてるし、バカじゃない。けどな、想いだけじゃ解決しない事だって世の中には沢山あるってこと、お前さんだって知ってるんだろ?」

 じっとフラッフィーを見つめ返す、サントワ。幼いながらも、世の中を知っているフラッフィーを、サントワは子ども扱いしなかった。


 フラッフィーはハッと目を見開き、拳を握り締めた。想いだけじゃ解決できないこと。ああ、彼は彼なりにオルガを大切に思っているのだ、とわかる。そして、フラッフィーの抱いている願いもきっとお見通しなのだということも……。


「……オルガを、悲しませないで欲しいの。ただそれだけよっ」

 そう言い放つと、部屋をあとにする。なんだか痛かった。胸の奥がなんだかとても痛くなった。扉を開けると、光が差した。そしてその光の中に三人の姿を見つけたのだ。


 ……ロェイ。

 走って行って、抱きつきたかった。

 もっと大人だったらよかったのに。もっと子供だったらよかったのに。中途半端な自分が、なんだかとても切なかった。


 走り寄る。

 フワリと抱きついたのはロェイではない。エリスだった。


*****


「……それだけか?」

 不服そうにそう言ったのはラッシェル。

「あらっ、だけってなによ。だけって!」

「だってよぉ、結局何もわからないってことだろ?」

「バカねぇっ。あたしの話をちゃんと聞いてたのっ? サントワがオルガを好きだって事がわかったじゃないっ」

「だからっ、それがわかったからってなんだよ。あの花の謎は解けないだろうがっ」

 言い争う二人を、微笑ましい眼差しで見つめるロェイ。


「まぁいいよ。花の謎は、サントワも本当にわかってないのかもしれないし」

 ロェイが話をはぐらかす。花の謎については知りたいが、サントワの不死については公にしたくなかった。死を求めているサントワと、それを止めたいと思っているオルガ。複雑な関係なのは間違いない。


「まぁいいって……よくはねぇだろ。今のままじゃなんにもわかんねぇんだぞ? 実際花が咲かないとか、咲いても願いなんか叶わなかった、とかじゃ、ここまで来た意味ないだろうが」

 ラッシェルがもっともなことを口にする。

「そりゃそうだけど」

「少なくともあのオッサンはもっと色々知ってる筈だ。知ってて隠してることがあるに違いないんだっ。俺たちにはそれを知る権利があると思うけどな」


 確かに、サントワの旅に同行してやっている、という意識なのは致し方ないことだし、ある意味では正しい解釈だ。サントワが皆に隠し事をしているのも事実。イライラするのも至極当然ではあるのだが……。


「……そうね、着いてからのお楽しみっていうのもいいかもしれないわね」

 エリスがポツリと呟いた。

「……へっ? エリスちゃん?」

 ラッシェルが意外そうに声を上げた。あの花に執着していたのはエリスとて同じこと。まさか彼女の口からそんな言葉が出るとは思ってもいなかったのだ。

「サントワに真実を聞き出すのが無理なら、その時が来るまで待つしかない。そういうことよね? ロェイ」

「ん? ああ、まぁ」

 助け舟が出るとは思わなかったロェイもまた、呆気にとられていた。エリスはラッシェル以上に、事の真相を明らかにしたがると思っていたのだが。


「いいじゃない、もうここまで来たんだもの。どのみち陸に上がれば真実は明らかになるわよ。ね、フラッフィー?」

「え? あ、うん」


 あれ? と思う。

 エリスは、出会った頃から比べると、日に日に変わってきている。それはわかる。雰囲気も優しくなったし、笑うことも増えた。こうしてワイワイ話すこともできるようになったし、それは嬉しかった。でも、今の発言は唐突過ぎるような気もする。花への興味は人一倍強かったはずだ。何か心の変化が起きているのだろうか? だとしたら、それは何だろう?


「あ、そうだ。あたしそろそろ食事の支度に行ってくる」

 わざとらしくポン、と手を叩き、フラッフィー。そしてクルリとラッシェルに向き直ると、言った。

「ラッシェル、手伝ってね」

「ええっ? 何で俺がっ?」

「文句言わないでよっ。さっさと厨房に行きなさいっ」

 ゲシ、とラッシェルの脛を蹴る。そしてさっとロェイの腕を引き、耳うち。

「ロェイ、エリスのこと()()()()ねっ」


 含みのある言い方をする。多分ロェイには通じた筈だ。エリスの態度がおかしいこと。そして彼女の心の中が危なくないかどうかを確かめて欲しいという、フラッフィーの想いも。

「……わかった」

 苦笑しつつ、フラッフィーの頭をポンと撫でるロェイ。大丈夫。ちゃんと通じている。


「エリス、美味しいご飯沢山作るから、待っててね!」

 ニッコリ笑うと、フラッフィーはラッシェルの腕を引き船室へと姿を消した。


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