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第14話 好きになる理由

 サントワはオルガを連れ、旅支度に必要な物を揃えるため市場へと出掛けた。


 そしてロェイとフラッフィーは、ウロウロと落ち着きのないラッシェルを、いさめていた。


「で、エリスちゃん歳は幾つ? なんでこの旅に参加しようなんて思ったの? 聖人だったんだよね? よく島から出られたよねぇ」

「おい、ラッシェル」

 矢継ぎ早に質問を投げかけられ、思いっきり迷惑そうに顔をしかめているエリスが気の毒になり、ロェイが止めに入る。


 四人は、なんとなく行動を共にしていた。というのも、着の身着のままで家を出てきたフラッフィーの服を買いにいくのに男二人、というのはどうかと思い、エリスに頼んで着いてきてもらったのだ。もちろん、彼女は彼女で自分の買い物もするつもりだったのだろう。本当はフラッフィーだけを行かせるつもりだったのだが、ほいほいとラッシェルが後を追ったため、仕方なくロェイも、という構図である。


「なんだよ、ロェイ。お前にはフラッフィーがいるだろっ? 俺達に構うなって」

 いつの間にか「達」になっていたりする。

「エリスちゃん、フード外そうよぉ。せっかくキレイなのに隠したら勿体無いっ」

 ラッシェルが、エリスのフードに手を伸ばす。と、パシッという乾いた音を立ててその手は弾かれた。外れそうになったフードを、エリスが改めて目深に被り直す。

「あなたが興味を持ってるのは、私ではなく私の器でしょう?」

 冷たく、そう言い放つ。


 ラッシェルが一瞬、固まった。

「なっ、なんだって?」

「あら、違う?」

 ふっと侮蔑的な微笑みを返し、エリス。

「私の何を知っているというの? 見た目だけで判断するのは、早過ぎるのではなくて?」

 言い終わると、早足で先を進む。呆然と立ち尽くすラッシェルを見、ロェイはフラッフィーに告げた。

「フラッフィー、エリスと二人で買い物行けるよな?」

「え? あ、うん、」

「悪いけど、エリスのこと頼む」

「頼む、って?」

「彼女、心に大きな傷があるみたいだ」

「うん、それはなんとなくわかる」


 子供ながらにフラッフィーの人を見る目というのは鋭い。彼女がとても深く傷付いている人なのだ、ということはわかっていた。あえて誰とも関係を持たないのも、心の傷のせいなのだろう、と。

「だから、頼む」

 ロェイに言われ、フラッフィーは気分がよかった。「頼む」というのは、信用があるから出て来る言葉だ。そして言われた側は、その信用に答えなければならない!

「わかったっ。じゃ、ミ……じゃないロェイはそっちのバカ、よろしくねっ」

 ラッシェルなど、フラッフィーにかかればただのバカよばわりなのである。

「わかった」

 苦笑いで答えるロェイ。フラッフィーはタタッと駆け出し、エリスの後を追った。


「……大丈夫か、ラッシェル」

 まさかあの程度の言葉でショックを受けるような繊細な男だとは思っていなかったロェイである。この、ラッシェルの反応には、正直驚いていた。いつもへらへらしているだけの男が、こうも分かりやすく凹んでいる。それほどまでにエリスのことを好いているのだろうか?


「ロェイ……」

 真剣な眼差しで口をつくラッシェル。

「なんだよ?」

 思わず構えてしまうロェイに、躊躇いもなく、言う。

「いい女の定義って、なんだ?」

 ……唐突かつ、どうでもいい質問だった。

「知るかっ」

 心配して損した、とばかりラッシェルに背を向ける。そんなロェイにすがりつき、

「俺を独りにするな、ロェイ!」

 怪しい言動。道ゆく人が何事かと振り返る。


「ばかっ、やめろよみっともないっ」

「俺は真剣なんだっ。なんで顔が綺麗じゃいけない? それっていい女の定義には当て嵌まらないのかっ? いいじゃないか、美しい造形! それで人を好きになるのはダメなのかっ? 条例違反か? なあっ!」

 ロェイの襟元を掴み、揺さぶる。

「彼女には彼女の事情があるんだろっ? 大体、聖人ってのはみんな飛び抜けて綺麗だって話じゃないか。当たり前なことを言われてムカついたのかもなっ」

 面倒になり、いい加減なことを口走るロェイ。


「聖人なんて、見るの初めてだからなぁ。あれだけの美女がわんさかいる島があるなんてなぁ……」

 ラッシェルの顔が、歪む。ロェイがラッシェルの手を掴み、引き剥がした。

「……お前のそういう下心が気に入らなかったんだろ、彼女」

 そもそもこの軽さじゃ、女性は胡散臭がるか怒るだけで、ラッシェルに興味を持つとは到底思えなかった。

「女は誉めれば喜ぶ生き物だと思ってたんだがな」

「アホか。それじゃ、見た目が綺麗なら誰でもいいってことじゃないか」

 自分と同じ扱いだ。


 「凪」であるなら、誰でもいいんだ。ロェイという個人を必要とされているのではない。凪であること。それだけが、求められている。それと同じだ……。


 そこまで考えて、ふと我に返る。

『自分を必要としてほしい』

 まさか、そんな風に考えていたというのだろうか。子供じみた自己肯定感を得たくて? 身震いする。まさか自分がそこまでさもしいなどと思っていなかった。


「なるほど、確かにそう考えると俺の発言には問題あるな」

 眉間に皺を寄せるロェイとは対照的に、妙に納得しているラッシェル。

「美しいからエリスちゃんに惚れた。でも今は、ツンなエリスちゃんが好きだ。それはエリスちゃんがエリスちゃんだから、好きなのだ。うん。そうだそうだ」

 勝手に頷いている。

「そう思うなら、後でちゃんと謝れよ」


 ロェイは溜息混じりに言い、歩き出す。自分は自分で、旅支度をしなくてはいけないのだから。

「って、待てよ、ロェイ!」

 ラッシェルが後を追った。


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