表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

異世界短編 最終話(第5話): 「その先にある光へ」

神殿の朝は、いつもと同じ祈りの鐘で始まった。

けれど今日、紗羽の心は、昨日までとは少しだけ違っていた。


正式な癒し手として認められた日から、毎日が慌ただしく過ぎていった。

回復を願う人の祈りに応え、力を使い、休む間もなく癒しを続ける日々。


「……なんだか、前よりずっと“必要とされている”って感じがするのに、

心の奥が、少しだけ寂しいのは……どうしてだろう」


ふと立ち止まると、風の中にあの声が聞こえた。


「それは、あなたの中に“ひとつの願い”が残っているからです」


振り向くと、そこにはレオナールがいた。

変わらぬ穏やかな笑顔で、でもどこか寂しさを秘めた瞳で。


「……願い?」


「あなたは、ここに受け入れられた。

でも同時に、“ここにいる意味”を見失いかけている」


その言葉に、胸の奥がぎゅっと痛んだ。

たしかに、あの日の祈りが叶ってから――

何かが少しずつ、遠のいていた気がする。


「私、癒し手として、人の役に立ちたいって思った。

でも……本当に願っていたのは、たぶん、もっと……」


声が震える。


「もっと、誰かの“隣で”生きていたいって、そう思ってたのかもしれない」


レオナールが一歩、近づいた。

そのまっすぐな瞳が、紗羽を見つめる。


「紗羽。私は、神に仕える者です。

だけど、神が与えてくれたこの心までは、否定したくない。

私はあなたと――共に生きていきたい」


その言葉は、もう迷いのない告白だった。

この世界に来てから、ずっと探していた“答え”がそこにあった。


「私も……レオナールさんと生きたい。

癒し手としても、一人の人間としても。

神さまが許してくれるのなら――私たちはきっと、ここで愛していい」


頬に涙が伝う。けれどそれは悲しみではなく、

ずっと押し込めてきた“願い”が解放された、やさしい涙だった。



季節が巡り、花の咲く丘で、2人は並んで祈っていた。

これまで出会った人々、癒してきた命、そしてこれから歩んでいく未来に――


「レオナールさん、私、この世界に来られてよかった。

たくさん迷ったけど……今は、感謝しかないの。

神さまがいてくれたことも、あなたがいてくれたことも、全部」


「私も同じです。

祈りは、誰かを導き、誰かの心に届くものだと――

あなたが教えてくれました」


紗羽の手を取り、彼はそっと指先に口づけた。


「信じるということは、光のないときも希望を持つこと。

愛するということは、誰かの痛みに寄り添うこと――

私は、あなたとそれを続けていきたい」


そして、紗羽は静かにうなずいた。


「わたしたちは、祈りとともに歩いていく。

この世界でも、きっと、何度でも」


2人の祈りは、春の風に乗って空へと昇っていった。

その先にある光を信じて、ふたりで、歩き出す。



fin.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ