表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/6

第一話 もう、消えてしまいたい

「もう、消えてしまいたい」

そう心の中でつぶやいた直後、視界が真っ白に染まった。


気がついたとき、紗羽さわは見知らぬ森の中にいた。

目の前には、見たこともない花々。

風は甘く香り、空はどこまでも澄んでいる。


――ここは、どこ?


不安と戸惑いに足がすくむ中、遠くから馬の蹄の音が近づいてきた。


「こんなところで、倒れていたよ」

馬から降りてきた青年は、光のように柔らかい金髪と、青い瞳をしていた。


その人は、レオナールと名乗った。

この国の「癒しの神殿」の使者であり、迷い込んだ人々を導く役目をしているという。



「ここは、“忘れられた者たち”が来る場所だよ」

レオナールの声は、やさしくて温かかった。


「この世界では、“心が疲れた者”が時折、扉を通って来ることがあるんだ。

紗羽さんも、自分を責め続けて、心が限界だったのでは?」


紗羽は驚いた。

まるで彼には、心の中をそのまま読まれているようだった。


「……私、もう何も信じられなくて。

自分も、人も、神さまなんて、どこにもいないって」


「そう思ってもいい。

でも、“信じる”っていうのは、何かを証明することじゃない。

信じたことで、光が見えるようになるんだよ」


レオナールはそう言って、彼女の手をとった。


「さあ、神殿へ行こう。

傷ついた心は、時間と祈りで、ちゃんと癒えていく。

それを、君にも知ってほしい」



神殿の中は、ただ静かで、あたたかかった。

誰も強く言葉を押しつけない。

そこにいるだけで、「今のままでもいい」と抱きしめられているような場所だった。


紗羽は少しずつ、食事をし、眠り、笑い、

そして時々、祈るようになった。


祈り方なんてわからない。

でも、静かに目を閉じると、誰かが自分を見守ってくれている気がした。


それだけで、涙があふれた。



数日後、紗羽は空に手を伸ばしてつぶやく。


「神さま、もしあなたがいるなら……

私はもう一度、誰かのために歩いてみたい」


そのとき、背後から声がした。


「君の祈りは、ちゃんと届いてる」

振り返ると、そこにはレオナールがいた。


「君が帰りたいと思えば、元の世界へ戻すこともできる。

でも……もし、ここで新しい生き方を選ぶなら、

私は君のそばにいるよ」


彼の瞳は、光そのものだった。


紗羽は、小さくうなずいた。

生きていたい、と思った。


“ここから、もう一度始めてもいい”


その一歩は、やさしい奇跡だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ