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悪女のレッテルを貼られ追放された侯爵令嬢は、最強魔導士に溺愛される

作者: 真白

「お願いです!……どうか、私の言い分も聞いてください……!」

 

「証拠もしっかり確認している。お前は平民の少年と不適切な関係にあったそうだな。わが家の令嬢としてあるまじき行為だ」

 

 そんなわけない……私はそんなことしてない……

 

「違います! そんなことは……」

 

「黙れ! お前のような不届き者はもはやわが家の娘ではない。今すぐこの屋敷から出ていけ!」

 

 そう言い放つと、父は踵を返してその場を去った。私を置き去りにして……。

 

「お父様……」

 

 崩れ落ちるように項垂れる。胸の奥がキリキリと痛んだ。

 

 (どうして、こんなことに……)

 

 私はいきなり『悪女』の烙印を押され、エルフォード家から追放されることになったのだ。

 

 私の何がいけなかったのだろう。ただ真面目に生きてきただけなのに。

 

「お嬢様、お気の毒ですが……」

 

 メイドが申し訳なさそうに寄ってくる。

 

「少しの間だけでも、荷物をまとめる時間をいただけませんか……?」

 

「……申し訳ありません。侯爵様のご命令で、これ以上屋敷に置いておくことはできないのです」

 

 そう言って、メイドは(なだ)めるように私の腕を取った。

 私は最後の望みも断たれ、茫然と立ち上がる。

 幼い頃から住み慣れたこの屋敷が、もはや私の居場所ではないのだと理解した。

 

 (まさか、こんなに突然に……)

 

 本当に、私は悪いことをしたのだろうか。

 納得できないまま、私はふらふらと屋敷の外へと足を踏み出した。

 

 遠くから、ミランダの「お姉様、さようなら」という甘ったるい声が聞こえた気がした。

 

 私は振り返ることなく、エルフォード家の屋敷を後にした。


 ひとまず都に着いた私は、どこへ行けばいいのかわからず、とりあえず人通りの多い通りを歩き始めた。

 

 (お腹が空いた……喉も渇いた……)

 

 追放されてから丸二日が経つ。この間、ろくに食事も水も口にしていない。

 

「あら、お嬢さん。具合でも悪いの?」

 

 そんな私に、見知らぬ女性が声をかけてきた。

 

「いえ……少し、疲れているだけです」

 

「そう。でも、めずらしい髪の色をしているわね。銀髪なんて……」

 

 その言葉に、私は我に返った。

 

 (そうだ、私は目立ってはいけないんだ)

 

 悪女の汚名を着せられ、エルフォード家から追放された私を知る者は、この都にも多くいるはず。

 

「……失礼します」

 

 そう告げて、私はフラフラと女性の横を通り過ぎた。

 行き交う人々の視線が痛い。

 

 (みんなが私を見ているような気がする……)

 

 そんな疑心暗鬼になりながら、人混みに紛れるようにして歩いた。

 しばらく歩いていると、目の前が真っ暗になり、そのまま地面に倒れ込んだ。

 

「――おい、大丈夫か!?」

 

 男性の声が聞こえた気がしたが、私にはもう何も見えも聞こえもしなかった。

 気がつくと、私は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。

 

「……ここは?」

 

「気がついたか。安心しろ。ここは私の屋敷だ」

 

 そう言って私の意識が戻ったことを確認すると、見知らぬ男性が私に歩み寄ってきた。

 

「私はラインハルト。君が倒れていたところを見つけて、屋敷に運んだのだ」

 

 その堂々とした立ち振る舞いからして、身分の高い人物であることは間違いない。

 

 (まさか、ラインハルト……あの『最強の魔導士』と噂の!?)

 

 魔法に秀でた才能を持ち、『最強の魔導士』とまで呼ばれている人物が目の前にいるとは。

 

「あの、私は……」

 

「君の素性は知っている。リーナ・エルフォードだな」

 

「……え?」

 

 思わず身体が強張る。追放された身の上を知られているとは。

 

「安心しろ。いずれ君の潔白は証明されるだろう。今はゆっくり休むんだ」

 

 ラインハルト様は私を見つめそう告げる。

 

 (どういうこと……?)

 

 しかし疲労からか、私の意識はすぐにまた遠のいていった。


 目覚めると、ラインハルト様がベッドの脇に座っていた。

 

「よく眠れたか?」

 

 優しい口調に、私は思わず頬が緩んだ。

 

「はい……。お世話になってしまって、ありがとうございます」

 

「気にすることはない。それより、君の魔法の才能について話がしたい」

 

 ラインハルト様の真剣な眼差しに、私は身を乗り出した。

 

「君には並外れた魔法の素質がある。私に弟子入りしないか?」

 

「えっ……!?」

 

 あまりの驚きに、言葉を失う。

 

 (ラインハルト様から弟子入りを打診されるなんて……)

 

「そ、素質だなんて……そんな……」

 

「私が見抜いたのだ。間違いない。さあ、どうかな?」

 

 真っ直ぐに差し出されたラインハルト様の手。

 

 ――私は覚悟を決めて、その手を取った。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 こうして、私はラインハルト様の弟子となった。

 ラインハルト様の指導は厳しかったが、私は日々の鍛錬に励んだ。

 

「その調子だ、リーナ。焦点を絞って……そう!」

 

 ラインハルト様の力強い声が響く。

 魔法を使うたびに、自分の中に眠っていた力が目覚めていくのを感じた。

 

 (ラインハルト様のおかげで、私はどんどん強くなっている……!)

 

 日々の鍛錬は、苦しくもあり、だが充実していた。

 一方、世間では私に関するいろいろな噂が飛び交っていた。

 

「平民の人とふしだらな関係だったそうよ……」

 

「エルフォード家も大変ねぇ……?」


「ラインハルト様もいったい何を考えていらっしゃるのかしら……」

 

 ラインハルト様のおかげで、表立って私を悪く言う者はいなくなっていたが、陰口は絶えなかった。

 

「気にするな、リーナ」

 

「君は必ず真実を証明できる。私がついている」

 

「ラインハルト様……」

 

 あたたかな言葉に、胸が熱くなる。

 

 (ラインハルト様は、私をここまで信じてくれている)

 

 だからこそ、私はもっと強くならなくては。

 ラインハルト様への想いを胸に、私は日々精進した。

 

 そんなある日、屋敷に一通の招待状が届いた。

 

「魔法大会……?」

 

「ああ。王都で開かれる、魔導士たちの腕試しの場だ」

 

 ラインハルト様が説明してくれる。

 

「リーナ。君も出場したまえ」

 

「え……私がですか?」

 

「ああ。君なら上位に食い込めるはずだ。……その覚悟は、あるかな?」

 

 ラインハルト様の言葉には、確信があった。

 

 (ラインハルト様がそこまで言うのなら……)

 

「……はい、出場します!」

 

 きっと、この大会で私は真の力を発揮できる。

 そして少しでもラインハルト様に恩返しをしたい。

 

 魔法大会の日が近づくにつれ、私の中の緊張と期待は高まっていった。

 

「リーナ、準備はいいか?」

 

 ラインハルト様が、私の手を取る。

 

「はい、ばっちりです」

 

 (ラインハルト様のおかげで、ここまで来られた)

 

「君なら、きっと上位に入賞できる。自信を持つんだ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ラインハルト様の言葉に、勇気がわいてくる。

 

 (この大会で、私の真の力を見せつけるんだ)

 

 私は、自分を信じる者たちのためにも、全力を尽くすと心に誓った。

 いよいよ大会の日がやってきた。

 

「さあ、行くぞ、リーナ」

 

 ラインハルト様に背中を押され、私は会場へと向かった。


 

 会場では、各地から集まった魔導士たちが、その腕を競い合っていた。

 

 (すごい魔力……みんな強そう……!)

 

 威圧感に思わず身が竦む。

 そんな中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あら、リーナ。まさかこんなところで会うとはね」

 

 振り向くと、そこにいたのはミランダだった。

 

「ミランダ……」

 

「あなたがまさかこの大会に出るだなんて。随分と面の皮が厚いわね」

 

 ミランダは私を見下すように笑う。

 

「そんなことない! 私は……」

 

「黙りなさい! あなたのような不届き者に魔法大会に出る資格なんてないのよ!」

 

 ミランダの罵声が会場に響き渡る。

 周囲の視線が一気に私に集中した。

 

 (……こんなところで意気消沈してられない……!)

 

 私は、心を落ち着かせる。

 

「ミランダ。ラインハルト様の為にも私はあなたに負けない」

 

「あら、言ってくれるわね。だったら勝負よ。あなたと私、どちらが優れた魔導士か、決着をつけましょう」

 

 ミランダが挑発するように言う。

 

「受けて立つわ。私は、絶対に負けない」

 

 私は真っ直ぐミランダを見据えた。

 

 (今の私なら、ミランダに勝てる……!)

 

 私の思いとは裏腹に、ミランダは不敵な笑みを浮かべていた。

 こうして、私とミランダの対決の火蓋が切られた。

 次々と競技が行われる中、私は着実に勝ち上がっていく。

 

「いいぞ、リーナ」

 

 ラインハルト様が、声援を送ってくれる。

 

 (……私、がんばります!)

 

 ラインハルト様への想いを胸に、私は戦った。

 対するミランダも、順調に勝ち進んでいく。

 

 私は、ミランダとの対決に向けて、気持ちを引き締めるのだった。


 ついに、決勝戦の時がやってきた。

 

「リーナ、ついに決勝だ。君なら勝てる。私が保証する」

 

 ラインハルト様の言葉に、私は力強く頷いた。

 

「ありがとうございます、ラインハルト様。私、必ず優勝して……」


 私の言葉を遮るようにミランダが口を開く。

 

「ラインハルトさまぁ。私が勝ったら、私を弟子にしてくれませんかぁ?」

 

「そうだな……まあ、もしも勝てたら考えてやろう」


 ラインハルト様は私を横目に見ながら言った。

 

 ミランダの挑発に、私は動じない。

 

 (言葉に惑わされるものか。私は私の力を信じる!)


 

 審判の合図で、決勝戦が始まった。

 ミランダは、序盤から強力な魔法を繰り出してくる。

 

「ハッ! これでも食らいなさい!」

 

 ミランダの放った魔法が、私に迫る。

 

 (くっ、速い……!)

 

 咄嗟に防御魔法を展開するが、ミランダの魔法を完全に防ぐことはできない。

 

「リーナ、集中するんだ!」

 

 ラインハルト様の声が、私の意識を現実に引き戻す。

 

 (そうだ、今は目の前の戦いに集中しないと……!)

 

 私は、教わった技を次々と繰り出していく。

 徐々に、ミランダを追い詰めていく。

 

「そんな……! 私が、この程度で負けるもんですか!」

 

 ミランダは必死に抵抗するが、私の攻撃を防ぎきれない。

 

「ミランダ! 私の全力を見せてあげる!」

 

 私は、渾身の魔法をミランダに叩き込んだ。

 

「きゃああああっ!」

 

 ミランダの悲鳴が、会場に響き渡る。

 やがて、ミランダの姿が崩れ落ちた。

 

「決着! 今大会の優勝は、――リーナ・エルフォード!」

 

 歓声が沸き起こる中、審判が私の勝利を告げた。

 

「やったわ、ラインハルト様!」

 

 私は、駆け寄ってきたラインハルト様に抱きつく。

 

「リーナ、よくやった。君は本当に素晴らしい」

 

 ラインハルトの褒め言葉に、私は有頂天になると同時に思わず抱きついてしまったことに気が付きすぐ離れた。

 

「すみません。少し舞い上がってしまいました」


「い……いや、素晴らしい戦いだったぞ」

 

 ラインハルト様は顔をそらしながら言った。

 

 しかし、その喜びもつかの間、会場が騒然となった。

 

「な、なんですって……!?」

 

「ミランダ様が、魔法大会の舞台裏で不正を働いていたんですって!」

 

「それにリーナ様の悪評は、ミランダ様が流していたんだって?」

 

 ミランダの悪事が、次々と明るみに出ていく。

 

「そんなのでたらめです……! 私は何も……!」

 

 ミランダは泣きそうな顔で否定するが、証拠は揺るがない。

 私を『悪女』に仕立て上げたのは、紛れもなくミランダだったのだ。

 

 私の潔白が証明され、ミランダの悪事も明らかになったのだ。

 こうして、魔法大会は幕を閉じた。

 

 

 魔法大会が終わった後、私は魔術の天才として称えられるようになった。

 

「リーナ様、ご活躍ぶりは本当に素晴らしかったですわ」

 

「ミランダ様の悪事が明らかになり、よかったですね」

 

 人々は今までの陰口が嘘のように口々に、私を賞賛してくれる。

 

 (こんなに褒められるなんて、夢みたい……)

 

 しかし、私の心は晴れ晴れとしていなかった。

 

 (ミランダ、あなたは一体何を考えていたの……?)

 

 妹の裏切りが、私の心に重くのしかかる。

 

 そんな私を、ラインハルトは気遣ってくれた。

 

「リーナ、無理に笑顔を作る必要はない。君の心の傷は、そう簡単には癒えないだろう」

 

「ラインハルト様……」

 

 ラインハルトの言葉に、思わず涙が溢れる。

 

「泣くといい。今は、思いっきり泣くんだ」

 

 ラインハルトに優しく抱きしめられ、私は子供のように泣いた。

 ラインハルトの胸の中で、私は久しぶりに安心感を覚えていた。

 

 (ラインハルト様、ありがとう……)

 

 それから数日後、城から使者が屋敷を訪れた。

 

「これは、エドガー王子からのご招待です。リーナ様とラインハルト様に、ぜひ謁見されたいとのことです」

 

「王子から……?」

 

 私は驚きを隠せない。

 

「リーナ、行ってみるか?」

 

 ラインハルトの提案に、私は頷いた。

 

 王宮に着くと、エドガー王子が出迎えてくれた。

 

「お二人とも、よくお越しくださいました」

 

「王子、お呼びとは何の用件でしょうか?」

 

 ラインハルト様が率直に尋ねる。

 

「実は、リーナ様に謝罪しなければならないことがあるのです」

 

 エドガー王子は申し訳なさそうに言う。

 

「あの、王子……?」

 

「以前、私はミランダ様の虚言を信じ、リーナ様を疑ってしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

 

 エドガー王子は深々と頭を下げる。

 

「そんな、王子に謝られるようなことではありません」

 

「いえ、私にも責任があります。ミランダ様の本性を見抜けなかった私をどうかお許しください」


 そしてエドガー王子は事の顛末を私たちに教えてくれた。

 エルフォード家は王家との婚約の話があり、選ばれたのが私だったということ。

 そして、それが気に食わなかったミランダは悪評を流し証拠を捏造する。

 結果として私は家から追放され、ミランダ自身が王子の婚約相手として選ばれるように仕向けたということだった。

 

「……王子、もうそんなことは気にしないでください。私は、もう前を向いて生きていこうと思っています」

 

 私は、王子に心から微笑みかける。

 

「ありがとうございます。リーナ様の力強さに、私も励まされる思いです」

 

 エドガー王子も、晴れやかな表情で頷いた。

 

 その後、王子はミランダとの婚約を破棄し、彼女を謹慎処分にしたと告げた。

 

「ミランダ様には、自分の過ちをしっかり反省していただかねばなりませんからね」

 

「……そうですね」

 

 こうして、完全に私の潔白が証明され、ミランダへの処分も決定したのだった。

 

 

「話は少しそれますが、リーナ様、私が婚約を申し込んだ理由はわかりますか?」

 

 エドガー王子の突然の質問に少し困惑する。


「それは……私がエルフォード家の長女だからですよね?」

 

「いえ……それが理由ではありません。そうですね、あまり時間をかけているとまずそうなので……」


 そう言いながらエドガー王子はラインハルト様に目を配らせる。


「私、エドガー・フォン・クローディアは、あなたに一目惚れしたのです」


 エドガー王子の告白に、私は言葉を失う。

 

 ラインハルトの表情も、僅かに曇った。

 

「そしてリーナ様、私はあなたに申し上げます。どうか、私と婚約してください」

 

「え……!?」

 

 王子の申し出に、私は驚きを隠せなかった。

 

「し、しかし王子……私は……」

 

「待ってください、エドガー王子」

 

 言葉が詰まる私の返事を遮るように、ラインハルト様が割って入る。

 

「リーナにはまだ、私の下で学ぶべきことがあります。彼女の将来を考えれば、今は婚約するべき時ではありません」

 

「ラインハルト様……」

 

「しかし、リーナ様の人生です。リーナ様の意思を尊重するべきではないでしょうか」

 

 

 

「王子……申し出はとてもありがたいのですが、私にはまだ早過ぎます。今の私には、自分の人生を模索する時間が必要なのです」

 

「リーナ様……」

 

 「申し訳ありません。ですが、今の私にはラインハルト様の下で学ぶことが大切なのです。」


 私は精一杯の思いを込めて、エドガー王子に頭を下げる。

 

「……分かりました。無理強いするつもりはありません。ですが、リーナ様。私の想いは変わりません。いつの日か、必ずあなたを振り向かせてみせましょう」

 

 エドガー王子は悔しそうに、しかし真摯な眼差しで告げた。

 その眼差しに、私は胸が締め付けられる思いがした。

 

「……ありがとうございます、王子」

 

 私はエドガー王子に微笑みかけ、ラインハルトの元へと戻った。

 

 王宮を後にした後、ラインハルトが不満そうに呟く。

 

「エドガー王子め、随分と食い下がっていたな」

 

「ラインハルト様……」

 

「私だって、リーナを手放したくはない。いつまでも、私の側にいてほしいと思っている」

 

 ラインハルトの真摯な想いに、私の鼓動が早くなる。

 

「ラインハルト様、私はあなたの弟子です。これからも、ずっとあなたと一緒に魔法の道を究めていきたいです」

 

「ああ、二人でな」

 

 ラインハルトは優しく微笑み、私の手を引いて歩き出した。

 結ばれた手に、温もりを感じながら。

 私はラインハルトと共に、新たな一歩を踏み出すのだった。


 

 それから月日が流れ、エドガーは国王となった。

 

 リーナとラインハルトは、国家魔導士として仕えることになった。

 

「リーナ、ラインハルト。二人とも、この国になくてはならない存在だ」

 

「ありがとうございます」

 

「エドガー殿下、私とリーナはこの国のために尽くす所存です」

 

 謁見の場で、エドガーはリーナとラインハルトに感謝の言葉を述べる。

 しかし、その目はどこかリーナを見つめているようだった。

 

「リーナ、君はますます美しくなったな」

 

「エドガー様、それは……」

 

 リーナが言葉に詰まると、ラインハルトが割って入る。

 

「エドガー殿下、いや、堅苦しい場は終わりにしよう。エドガー、リーナは私の弟子だ。余計な言葉は慎むように」

 

「しかし、弟子とは言っても、もう独り立ちできる腕前だろう。いつまでもリーナを拘束するのは、彼女のためにならんぞ」

 

「何だと……! お前は国王になったからと言って……」

 

「ラインハルト様、エドガー様。お二人とも、落ち着いてください」

 

 言い合いになりそうな二人を、リーナが必死に宥める。

 

「リーナ……すまない。すこし感情的になってしまった」

 

「ふん、私も我を忘れていた。リーナ、許してくれ」

 

 二人はリーナに詫びると、お互いに睨み合ったまま謁見の場を後にした。

 

「はぁ……お二人とも、私を大切にしてくれているのは嬉しいけれど……」

 

 リーナは頭を抱えながら、溜息をついた。

 

 

 ある日、リーナはラインハルトから呼び出された。

 

「リーナ、ちょっといいか?」

 

 ラインハルトの部屋を訪れると、彼は真剣な面持ちでリーナを迎える。

 

「ラインハルト様、何かご用件でしょうか?」

 

「ああ。実は、エドガーから届いた書状なんだが……」

 

 ラインハルトはエドガーからの書状を、リーナに手渡した。

 

「エドガー様から……? 一体何と?」

 

 リーナが書状を開くと、そこにはエドガーの想いが綴られていた。

 

「『リーナ、君への想いは今も変わらない。

   いつの日か、私の妃になってほしい』……って」


 

「ああ、エドガーめ。私の目を盗んで、こんな真似を……!」

 

 ラインハルトは書状を握りしめ、怒りに震えた。

 

「……リーナ。君は、エドガーの申し出を受けるつもりなのか?」

 

 ラインハルトの問いかけに、リーナは小さく首を横に振る。

 

「いいえ、私はラインハルト様の下で学び続けたいです」

 

「そ、そうか……」

 

 ラインハルトはリーナの肩に手を置き、優しく微笑んだ。

 

「私はリーナと、永遠に師弟でいたい。いや、それ以上の関係になりたいと思っている」

 

「ラインハルト様……」

 

 リーナの頬が、真っ赤に染まる。

 

「――こんなところで二人きりとは、随分といい雰囲気のようだな」

 

 不意に部屋に入ってきたのは、エドガーだった。

 

「エドガー……! 貴様、無断で入ってくるな!」

 

「無断も何もここは王宮だぞ。私が入れないはずがないだろう」

 

「ちっ……!」

 

 ラインハルトは舌打ちし、エドガーを睨みつける。

 

「で? 私に何の用だ」

 

「話は聞いていた。師弟の関係を越えようなどと、言語道断だぞ」

 

「ふざけるな! お前だって、リーナに婚約を迫っているではないか!」

 


 ラインハルト様と共に、最強の魔導士の座を目指して。

 そして、エドガー王に仕えながら。

 波乱の日々を乗り越えた私は、また新しい波乱とともに歩み始めるのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

もしよろしければ評価していただきますと参考になります。

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