13歳
入学式から時間が経ち学院生活にも慣れてきた。
あの日のテストの結果はオリエンテーション後に分かり、私は前期テストを受けるだけで講義は必要ないとお墨付きをいただいた。budになると興味ある講義も増えるので楽しみにしている。
いつものように仕事をし終わると図書室で本を借て、カフェテリアで最近見つけた紅茶伝説96の旅という日替わりティーを頼み本を読む。そろそろ読み終わる頃に顔をあげカップを手に取るとN校舎から、海とアイラが一緒にこちらに移動してくる。
彼女は薄いオレンジ色の髪色でセミロングのゆるふわカールをハーフアップにしている
精霊のルイス家の分家で西洋の顔立ちで幼いながら整っている。海と講義が被っているので月に何回か昼食を一緒に食べている。
「お待たせして申し訳ございません。」海が困ったように謝る。
講義が被らず待つことはいつものことなので「何かあったの?」と聞いてしまう。
海はアイラと気まずそうに顔を合わせ「中野先生から音楽コンクールの選考打診があり…いえ、出演が決定しました」
「私たちのクラスで左狐様が選考にあがった時点で中野先生が左狐様と海さんと私に決めてしまったようでして」前期終わりに行われる音楽コンクールで学院内N校舎から3組H校舎から3組を選出し学院内で優秀賞を取った1組がプロの演奏家も招かれる国際音楽コンサートに出演する。
毎年、学院内で楽器の課題があり今年はピアノとヴァイオリン・チェロの三重協奏曲だそうだ。
「...選考される事を名誉と受け取りましょうか」私は諦めたように答える。
「誰がどの楽器は決まっているの?」指定楽器があり、私はピアノとヴァイオリン、海はピアノができたはずだがアイラが何を弾けるか知らないので聞いてみる。
「わたしはチェロとピアノを嗜んでいますのでチェロでお願いいたします」
3人に決まったというのでそれもそうかと思う。そうなると私がヴァイオリンで海がピアノになる。
「海もそれでいいかしら?」海は迷った様に私の顔を見て「っ、玲様はよろしいのでしょうか」私を心配し聞いてくれる。海の気遣いに感謝しつつ頷く。
コンクールまで4か月しかないのでスケジュール調整を話し合う。
講義の合間に練習をするにしても時間が足りない。「アイラ、あなた長期休みの予定は?もし、空けれるようなら私の私邸で練習しましょう」来月の長期休みを練習にあてられないか聞いてみる。「一度、家に帰り確認して回答しますね。」スケジュール調整もひと段落したので今日は解散することにした。
読み終わった本を図書室に返し海と一緒に帰る。
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晩御飯終わりに防音室に行き、玲様がヴァイオリンを手に取る。何年も触ってなかったので音がずれているのか音合わせに同じ曲を何度か弾き納得いく音になったようで休憩をしようとヴァイオリンを置いたのでココアを入れ玲様にお渡しする。ココアを受け取りソファーに移動したので私はピアノの調整をするため弾いてみた
玲様はゆっくりとピアノを聞きながら考え事をしている様子で、3曲くらい弾いたところで私は手を止め玲様に「出演して良かったのでしょうか」と小さく聞く。
本当に嫌であれば恐らく玲様は断ることはできたはずだ。
玲様がヴァイオリンをを習っていたころは空っぽで寂しく、音を奏でると私の内側を見透かされるように感じると言い辞めてしまった。それからは私と一緒にできるようにとピアノを習っていた。
側近になった7歳から一緒に住み11歳からはここで使用人と暮らし玲様は12歳で次代様に指名された。それに伴い響様が分家になることが決まり、奏多が響様の入り婿になった。私は玲様の決定で狐野家を継ぐ為、実質的に玲様に婚約は解消されているがもともと玲様に仕える側近なので気にしていないが、はじめ様以外の妖狐一族にはまだ婚約解消は伝えていない。玲様が成人するか結番が現れるまでは内外には婚約者として振る舞う。
玲様が私をソファーに誘い一緒に座ると「私は大丈夫」と私の頭を撫でる。
泣きたくなるような、ふがいないような、情けない顔をして言葉をつまらせてるそんな私に微笑みかけてくれる
「この話はここでおしまい。せっかく選考されたのだから優秀賞とるわよ」私の不安をなくすように声をかけてくれる。私は玲様に何が出来ているだろう。せめて玲様が望むものを手助けできるようになりたい
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入学したクラスに左狐家の玲様がいらっしゃった。
事前にお父様から響さまと入れ替え留学することが決まったのである程度の事前情報は聞かされていたが、玲様はある時からパーティーに参加しなくなり、接触が難しくなり情報が少ないと。10歳のお披露目はサリバン家の介入でうやむやになってしまい。今回の留学はまさに渡り船。私の役目はルイス家と左狐家にパイプをつなぐこと。
話には聞いていたが、玲様の容姿を見るのは初めてだった。
透き通るような白い髪に一言だけでは言い表せない美しさがあり私の中の語彙力のなさを痛感する
教室に入るとみんなが委縮しているのがわかった。私も恐れ多いと感じてしまうほど纏っている空気が違った。オリエンテーションや行事など玲様に話しかけれず、私に伝言を頼むほどだ
いくらレイス家の分家でも、私は分家でしかない。困りはて狐野家の海さん話しかけ伝えてもらう。
それからというものずっと私を通して海さんを通しての伝言ゲームになっていった。
そんな状況が続き海さんと話す様になり、講義が被っているので玲様と海さんとランチをご一緒する機会が増え玲様と言葉を交わせるほどにはなれたと思う。お父様に報告すると満悦の表情を浮かべていた。
あの日、海さんと講義を終え、カフェテリアに向かう途中で中野先生に呼び止められ、音楽コンクールの選考のお話を伺い打診ではなく決定で進められていると。海さんが怪訝な顔色で中野先生をみる。
「これは学院の決定になるので左狐様に伝えてくれ」そう言われれば海さんも断れない
カフェテリアに着き伝えると意外と玲様は乗り気で拍子抜けしたほどだ。
音楽コンクールまで4か月。講義や長期休みを考えると思ったほど余裕がない事に気づく
玲様に長期休みの予定を聞かれたがすぐに答えられなかった。毎年新年は本家に集まっており、留学中はどうすればいいのかわからないので「一度、家に帰り確認して回答しますね。」と無難に答え解散した。家に帰り眷属に「お父様と話したいので繋いで」とお願いし着替える為私室に入る
ヴィント家は風に守られている。風の精霊の子孫なので声を届けるのは容易い。
すぐにお父様から返霊がきた。今日合った事を伝え予定を確認する
留学しすぐに帰省するとご学友と交流もできないだろうと言う建前で今回は玲様に予定がないと伝える事に決まった。
ヒロインまでたどりつかない。。。。
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