7歳
朝から着物を着つけるため家に仕えている使用人がドア越しに声をかける
今日は七五三に向かうためいつもより早い時間に起きることになっていた
眠い目をこすりながら言われるまま人型になる。
綺麗に着付けて軽食を取り車に向かう途中で、響を見かけた
響は笑顔で手を振り七五三のお祝いを祝ってくれた
まだ妖力を制御できない為、不用意に近づけないのでいつも遠くから話しかけてくれる
車に乗ってしばらくすると山の中に大きな鳥居が見えてきた
鳥居をくぐると賑やかな声がし、人や妖やたくさんの人たちが2人をお祝いしている
ふと意識を向けるとさくらが教えてくれた
「あれは結番の結婚式ね」
「むすびつがい…?」
さくらが教えてくれた結番とは出会えれば必ずわかる唯一無二の存在という事。
結番になると妖力が増し幸運の象徴と言われているそうだ。
ゆいつむに…
むすびつがいにであえたらこのさみしいきもちがなくなるのかな
とー様も、かー様も、ねー様もいるのにこころがいつもさみしい
さくらに手を引かれ歩いていると手水舎に案内され、清めが終わると拝殿へ移動した
参拝が終わり食事会場に入室し上座に案内される
ここは一族にゆかりある神社の為、この後控えている食事会にはたくさんの一族が来ている
左狐家は妖の中でも群を抜いて力が強く、世界的な資産家
妖狐の左狐家、吸血鬼のノワール家、精霊王のルイス家、ドラゴンのサリバン家
この4家が世界を牛耳っていると言っても過言ではなくこの国では左狐家が1番となる
私は産まれた時から尾が3本あり、妖力が強すぎ制御ができずに人の形を保てなかった
妖に変化できるのは力の象徴の為、一族が涙ながら歓喜したと聞く
一族が集まるといつも尾の数の事を言われ、何とかして私と縁付かせようと左狐家に取り入ろうと話かけるタイミングを計ってチラチラ見ている周りの視線にそっと溜息をつき早く帰れる事を願った
会食が終わり程よいタイミングで狐野家当主春道が最初に挨拶をするため下手側に控える
普段、春道はお父様の秘書をしているので何度か見かけたことがあった
「はじめ様、さくら様、そして玲様七五三のお祝い、おめでとうございます。
これからもすくすく健やかにご成長されることをお祈りいたしております。
この度は、誠におめでとうございます。」
春道が手をつき頭を下げ挨拶をしてきたその少し後ろに同じ様に頭をついて控える少女がいた
「はじめ様、娘の海です。これから玲様に仕えさせていただきたい者になります。
尾なしですが、玲様の妖力に影響しない者となります。」
予め聞いていたことだった
私の正式なお披露目前の行事で私の婚約者となる者との顔合わせ。
成人するまでに妖力の釣り合いが取れる者が現れない場合はそのまま番う者。本来は成長すると妖力も増え安定するのでそのまま側近として仕える事が大多数なのだが
妖力の釣り合いが合う者と番う事が玲は望めない
妖力のせいで子供が近くにいると妖力の影響受けてしまうため今日は私と海以外に子供はいない
「玲様、初めてお会いいたします。うみと申します。」
昨晩はじめから話があるといわれていた
「玲 明日、行事後、会食があるんだけど、一人会わせたい子がいるんだ。
その子が気に入ったら頷いてくれないかな?将来 君の側近候補なんだ」
とー様に言われた事を思いだし頷くと周りから何とも言えない空気が流れた
狐野家は代々、側近や婚姻を多く輩出している家系だが決して同じ家の者がなれるとは限らない
波長が合わない場合、どんなに家柄が良くとも選ばれないからだ。
玲の場合は波長が合っても妖力が強い為、年齢の近い婚姻を得られないと思われていた
そうなると影響がが少ない大人が番になるため、狐野家になり替わろうと虎視眈々と狙っていた者達が嘆いた。
私の婚姻が決まった事で残りの挨拶ははじめが引き受けてくれ私はさくらと海と別室へ行くことになった
別室に着きお茶を飲んでいるとついうとうとしてしまう
見かねたかー様からお昼寝許可が下りた
「玲は朝が早かったもんね。でも熟睡は許可できません。海もいらっしゃい。一緒にお昼寝しまう。」
着物をゆるめ、使用人にお布団を敷いてもらいもそもそと寝る体制をとり、海を見上げ隣をポンポンと叩く
海はかー様の顔と私の顔を交互に見、困った顔をしたがおそるおそる布団に入ってきた
「うみ、これからよろしくね。」
一言海に声をかけ玲は返事を聞く前に眠った。
「はい。玲様一生懸命仕えさせていただきます。」
この日から側近となったが海もまだ7歳。
父親の春道からは玲様の指示に従う事と聞いていたがお昼寝とは思わなかったと後に聞いた。
玲達がお昼寝をしている頃、会場ではざわめきが起きていた
本来なら今日に婚約者となる者を選ぶはずではなかったのだ
婚姻を狙っていた家が続々とはじめに問いただす
「はじめ様、なぜ狐野家の娘をお呼びに?
本来なら婚約者は玲様の10歳のお披露目式前に決めるはずでは?」
「はじめ様は最初から狐野家を懇意にすると決めていたのですか?」
「はじめ様、今からでも遅くありません撤回を」
黙って煙管をふかし聞いていたはじめが深く息を吐き煙管を置く。
「我が妖狐一族左狐家当主の決定に意を唱える者は?」
皆、一様に口を紡ぐ。その様子に頷き再び口を開いた
「玲は妖力が強く、姉である響ですら近くで生活をさせられない。
玲には左狐家にふさわしく育って欲しいと願う反面、子供らしくいて欲しいと思ってしまう
春道の娘が特異体質の為、妖力の影響を受けないので玲に波長をみさせた。」
婚約者に波長の合う者を選ぶ理由がある
左狐家直系に結番や妖力/霊力の合う者が現れない場合は暫定的な婚約者と番
フェロモン/波長/妖力≒霊力/結番の順番で子の授かり率が変わる
フェロモンは力の上下関係がはっきりしているが子供だと勘違いしお互いに心地良いと思ってしまう。上の者が下位の者のフェロモンに惹かれることは決してない。
訓練すれば下位の者は上位のフェロモンを嗅がないようにできる
当主から説明され意を唱える事ができる者はいなかった。
皆が押し黙ったのを確認し再び煙管をくわえる。
ぼんやりと池の鯉を見ながら玲のことを思う。
俺が過ちをおかし、玲に酷なことをしてしまった。
玲は90年ぶりに完全なる獣化ができる妖として産まれた、4家含めても玲しかおらず俺は喜んだ。力の均衡を崩せると。それから俺は玲に獣化を強要した。幼い玲をいろんなパーティーに連れ出し、左狐家でもパーティーを開き玲を見せまわった。
ふと、玲を見た。毎日顔を合わせて居るのに久し振りに顔を見た気がした。
玲は俺を見ず、話しかけても返事をしなくなっていた。
俺は何をしていたんだ。可愛い娘がこの様になるまで気づかないとは。
妻のさくらからも玲を取り上げ、玲を力の象徴と祭り上げていたのは俺の一人よがりだった
せめてもの償いに婚約者は近くで何でも話せるようにと年の近い者を選んだ
婚約者は当主が決めるが継続関係は本人に判断を任せるためあくまでも一族への牽制の為だ。
現にはじめは春道が婚約者だったが蒼狐家のさくらと番った
妖は長寿で、17歳あたりから緩やかに歳と力を重ねるのでなかなか自分の妖力と合う者が見つからない。ましてや結番となると奇跡的な確率となる。結番と番と小指に紋様が刻まれ、人ならず者達はお互いにしか惹かれなくなり力が増し、その力は次代にも引き継がれるという。
会えば歓喜し引き離されると絶望を感じ何をしても結番の願いを叶えてしまいたくなる
相手の喜びは自分の喜び、相手の悲しみは自分の悲しみ
お互いに惹かれるのは人ならず者のみ人には適さないと書で読んだ。