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理想のプロポーズ

 私がお楽しみと言った影響かイケメンは夜まで町をぶらついてくると立ち去って行った。

 意外と話のわかる人なのかな?


 準備は順調に進み夜になった。

 夜になり始まったのはこの町で初めてのお祭りだ。

 折角高額な入場料を支払ってきてくれているのだ。

 少しくらいサービスして心に残る思い出を作ってもらうのも良いと思い提案した企画だ。

 というのは建前で実は隠れイベントを成功させるための布石に過ぎない。


 それは数ヶ月前。

 とある平民男性が観光案内所に相談があると訪れた事から始まった。

 その男性は今お付き合いしている女性に一生の想い出に残るようなプロポーズをしたいと言って来たのだ。

 この話を聞いた瞬間、スタッフ一同ノリノリで作戦会議が始まった。女性が多い職場だからね。

 様々な意見が飛び交う中、一番人気の案がこの町の高台でのプロポーズであった。

 だがプロポーズも勢いと雰囲気がないと失敗に終わる可能性がある。

 そこで少しでも成功率を上げるため、彼女が楽しんだあとに静かな場所でプロポーズをするのがいいのでは?ということで開催されたのがこのお祭りだ。

 ちょうど何かイベントをしようと考えていたこともあり、お祭り以外のプロポーズにかかる経費を依頼者に請求することで同意したのだった。


 ちなみにこの帝国ではプロポーズに指輪を渡すという習慣はなく、私、提案しちゃいました。

 しかもちゃっかり二人の愛が燃え上がるようにルビーのついた指輪がいいとアピールまでして。

 成功したら観光案内のパンフレットに大々的に載せて新たなツアーを展開するのもありかもしれない…悪い顔になってしまったのは許して欲しい。



 祭りが始まり広場にはたくさんの人が集まっていた。

 私は高台の上り口に立ちながら広場の状況を目視していた。

 何故こんなところに立っているかって?それは高台を出入り禁止にしているからだ。

 祭りも最高潮に達したところで依頼者が彼女と楽しそうに笑いながら高台の方に向かって歩いてきた。

 私とブラッドは目で合図をするとブラッドが依頼者の横すれすれを通り過ぎた。

 この瞬間にルビーの指輪の入った箱を渡したのだ。

 そして二人はそのまま高台に登って行った。

 私達はそのまま他の人達が入らないように入口の警備に務めた。


「覗いてもいいかな」

「止めておけ」


 観察係が良かった。

 実は屋上から高台を観察して二人の動向を確認する観察係と高台を封鎖する封鎖係に分かれているのだ。

 封鎖係はさりげなく指輪を渡すという失敗が許されない任務をこなさなければならないためブラッドに任せる事にしたのだが…そうなると必然的に私も封鎖係!?

 プロポーズの瞬間を見たかった!


 しばらくすると観察係が成功したと興奮気味に報告しにきた。

 羨ましい…。

 これ私が観察係でブラッドが封鎖係でも良かったんじゃないの?と思わずにはいられなかった。


 とりあえず無事に任務は完了し、高台の封鎖を解いた。

 折角だし私達も祭りを楽しもうと解散した時だった。


「お疲れ様。成功したようだね」


 飲み物を手に微笑みながらイケメンが現れた。

 成功って何があったか知ってるの!?

 驚いた顔でイケメンを眺めると飲み物を手渡しながらイケメンは高台に視線を移した。


「実は昼間、彼にどうしたら恰好良く求婚出来るか相談されたんだ」


 この人(男爵)に相談するとか勇気あるな!

 依頼者、マジだぜ!


「それで助言して下さったのですか?」

「内緒」


 人差し指を口元に当ててウィンクされた。

 その仕草に胸が高鳴り思わず視線を逸らしてしまった。

 くっ!負けた…。

 悔しさで震えていると手を差し出された。


「良かったら踊りませんか?」


 灯りの下のイケメンはキラキラしていて吸い込まれそう…気が付いたらその手を取っていた。



 踊りと言っても社交ダンスとは違い自由調でリズムに乗って好きに踊る踊りだ。

 今ならこの人の目的を聞けるかも。

 踊りながら意を決して顔を上げるとイケメンと目が合った。

 あれ?この人の瞳って緑じゃない?

 黒髪と眼鏡の影響かずっと緑の瞳だと思っていたが…金…色?

 これって皇太子と同じ瞳の色!?

 この人はまさか…。


 皇太子の親戚か!?


 皇太子本人なわけないでしょ。

 だってあの人前回の時も婚約者の私とお茶をする暇などないと執務に没頭していた人だよ。

 こんなに何度も馬車で片道3日もかかるような公爵領に護衛無しで来るわけがない。

 しかも今回はお泊りだし。

 となるとやっぱり皇太子が寄越した密偵?


「君もああいうのに憧れるの?」


 ん?

 考えていた内容と全く違う質問に思考が停止した。


「先程のような求婚」


 もしかして求婚したい相手でもいるのか?


「そうですね。いつもとは違う雰囲気での求婚はときめきますね」


 自分がされた時のことを想像してうっとりしてみたが、そういえば私、一度もプロポーズされずに死んでたわ。

 現実に引き戻された。


「もし求婚したい方がいらっしゃったら是非うちに依頼して下さい。ピジョンブラッド(最高級のルビー)の指輪を用意して全力で応援させて頂きますから!」


 金になりそうな宣伝は忘れません。

 イケメンは一瞬目を見開いたが直ぐに笑顔を作った。


「その時は是非お願いするよ」


 大口の仕事とったどーーーーー!!

 後任者に良い報告が出来そうだと喜んだのだった。

 喜び過ぎて男爵の正体を暴くのを忘れてたけどね。



 プロポーズ作戦が成功に終わり、噂を聞きつけたプロポーズ希望者達が観光案内所に殺到した。

 私は今も裏方で時々相談などにはのってはいるが、基本は手を引いた状態にある。


 あとはタイヤを完成させるだけだ。

 今日も工房に足を運んだ。

 あれから色々試行錯誤の日々が続いていた。

 ゴムを丸めた物では車輪の固定が難しくすぐに外れてしまったりするため束ねたピアノ線を差し込んで試してみたり、車輪部分も新しく作成し直したりと、予想以上に苦労した。

 形になったあとも空気の入れ過ぎでタイヤが歪んでしまい、どのくらいの量だといいのかの実験も行った。

 唯一良かった事は職人さん達がノリノリで作業をしてくれていたことだ。

 私なんか途中から白い人助けて!!と某タイヤメーカーの爽やかキャラを召喚したくなったがさすがは職人さん。

 失敗は成功のもととでも言わんばかりに次々に案を出し合って試行錯誤を繰り返してくれたのだ。


 そしてタイヤ作りを始めて1年が過ぎ、ようやく第一号が完成したのだ!

 この第一号は試運転も兼ねて公爵家の馬車に取り付けた。

 初めて乗った時は揺れを全く感じず感動で思わず同乗していたブラッドに抱きついてしまった。

 直ぐに引き剥されたけどね。

 友達なんだから感動を分かち合ってもいいと思うのに…マリレーヌなら喜んで抱きしめてるくせに。



 完成した馬車に乗り、公爵邸に戻ると祖父に呼び出された。

 このパターン、嫌な予感しかしない。


 書斎に行くと嫌な予感その二。祖母がソファーにいた。


「フィー。そろそろ一度皇都に帰った方がいいだろう」


 祖父母が並んでソファーに座ると唐突に帰宅を促された。


「どうしてですか!?私は帰るつもりはありません!」


 だって帰り道が一番危険だから!


「いや。だってお前、もうすぐ社交界デビューだろ」


 社交界デビュー…忘れもしない黒歴史第二弾。

 皇太子に翌日に開かれる舞踏会のパートナーになれとせがんだだけでなく、ドレスもプレゼントしろと迫ったのだった。

 しかもプレゼントしろと言いながらこうしろああしろと注文までつけて…あの時の皇太子の嫌そうな顔といったらなかったな。

 本当は参加したくないが公爵家となるとそうはいかない。

 今回は皇太子も婚約者候補を誘うだろうし、参加だけしたらさっさと戻って来るか。


「わかりました。しっかりタイヤを売り込んできます!!」


 頼もしい孫娘にこの子は結婚出来るのだろうかと祖父母の不安そうな視線が突き刺さったのだった。



 こうして皇都に向けて出発当日。


「フィー。気を付けて帰れよ。ブラッド。お前も今後についてどうするか一度侯爵と話をしてこい」


 実は私が帰るのと同時にブラッドも今後の騎士生活について一度皇都に戻ることになったのだ。

 私が今15歳だから近衛兵になるにはちょうどいい時期だ。

 これを機にブラッドは近衛兵になるのだろう。

 この3年、毎日休まずブラッドが傍で護衛をしてくれていたから少し寂しくもあるが、今は素直に彼の夢を応援してあげたいと思っている。


「ブラッドならきっと殿下直属の近衛兵になれるよ」


 前回なんか隊長だったくらいだし、この前の視察の時もお誘いを受けていたからね。


「近衛兵か…」


 ブラッドは私を一瞥すると窓の外に視線を戻した。

 何か気に入らなかった?

 ブラッドの心の内が分からず私は首を傾げたのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう〜! 無自覚なハートクラッシャーなんだから…!
[一言] 私も封鎖係より観察係がいいです^^ プロポーズの瞬間を見たいよね! さくさく読めて話もしっかりしていて、くすっと笑えるところも気に入っています!! 執筆頑張ってください。
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