ブーメランは返ってくる
レオから許可を貰うと観光案内の仕事日に合わせてオリオル公爵領に戻ってきたのだが…。
「お客様は現地に直接向かわれたの!?」
「そうなんです!だからフィーネさんも急いで現地に向かって下さい!」
観光案内所に到着早々問題が発生した。
明日という約束だったビップ客が先に現地に行ってしまったというのだ。
今から追いかけたら到着は夜になってしまうが、相手はビップ客。
放置するわけにもいかず、急いで追いかけた。
案の定、現地に到着すると夜になっていた。
ここは以前プロポーズ大作戦を決行した町であり、夜でも明るく賑やかだ。
「たくっ!ビップはどこに行ったのよ!」
町では祭りが開かれており人混みが凄い。
この中からビップ野郎を探すのは至難の業だ。
町中をグルグルと歩き回っていると仕事を終えた観光案内所のスタッフに出くわした。
「ちょっと!金持ちそうな奴見かけなかった!?」
「お嬢様。言葉遣いが悪いですよ」
ブラッドに指摘されるも関係ねえ!
私の剣幕にスタッフは怯えながら高台を指差した。
「先程あちらの高台に歩いて行かれるのを見かけました!」
直ぐに高台の方に向かって駆け出した。
高台の坂に差し掛かったところでブラッドが立ち止まった。
振り返ると真剣な表情をしたブラッドが私を見つめていた。
「お嬢様。俺の願いはあなたがずっと笑顔でいて下さる事です。どうか幸せになって下さい」
ブラッドが私の手を取り口付けた。
その姿に何故か永遠の別れを告げられた気がして咄嗟にブラッドの手を握った。
「何を言っているの。ブラッドは私の専属騎士なのだからあなたが私の笑顔を守らなくて誰が守るっていうの?」
辞めるなんて言わせない。
これでもブラッドの事は頼りにしているのだからこれからも傍にいてくれないと困る!
ふんっ!と鼻息を出すとブラッドが呆れた顔で笑った。
「全く…。お嬢様は天然の人誑しですね」
人誑しだと!?私に騎士の誓いを立てたのはブラッドでしょうが!
「俺はこれからもずっとお嬢様の傍にいますよ。だから安心して行ってきて下さい」
ブラッドに見送られ私は高台の坂を登った。
登った先にいたのは…。
「ブルート男爵?」
振り返った男爵を見て確信した。
「…何をやっているの?レオ…」
さすがにこれだけ一緒にいて気付かないフィー様ではない!
怪訝な顔で見つめるとレオはカツラと眼鏡を外した。
「私だと分かってくれて嬉しいよ。以前のフィーは全く気付いてくれないから…」
まさかとは思っていたが、あの時から監視されていたのか!?
暇人か!
「騙していた事は謝るよ。でも私本人だとフィーは怖がって近付いてくれなかっただろ?」
否定はしないが得体の知れない男爵も十分怖かったよ。
「それで?こんなところに呼び出して何?素敵な求婚でもしてくれるのかしら?」
100点のプロポーズだったら観光案内求婚部門の謳い文句にでも載せようかな。
「よく分かったね」
微笑むレオに呆れてしまったのは仕方がないと思う。
少しくらい隠せよ。
レオは私の両手を取ると一歩私に近付いた。
「フィーが湖に飛び込んだあの夜。私は自分の命を投げ打ってでもフィーを助けたいと思ったんだ。皇太子としては許される行為ではなかったけど…でも私は一人の男としてフィーを守りたかった。こんな気持ちは初めてなんだ」
月の光に照らされたその顔があの湖での出来事を蘇らせて胸が高鳴った。
「ディスフィーネ・フェリシー・オリオル公爵令嬢。これからもずっと私の一番はあなただけだ」
私の額に自分の額を押し当てるとレオの綺麗な瞳が自然と目に入り、魅入られた。
「私と結婚して下さい」
私の気持ちはもう決まっている。
「…はい…」
囁くように返事をするとそのまま口付けられたが私は抵抗することなく受け入れた。
初めてプロポーズ受けたけど、やっぱり雰囲気って大事よね!
うん!謳い文句は『皇太子妃も絶賛!これで私は結婚決めました!』…どうかな?
そういえばこれって観光案内の仕事で来ていたんだっけ?
…ん?観光案内の求婚部門って確か!
私はキスをしながら横目で屋上を見るとこちらを覗いている数人の人影が。
私と目が合うと慌てた様子で視線を逸らした。
もしかして…。
嫌な予感にキスを中断して町の屋上に視線を移すと次々と隠れる人影が。
観察係多すぎだろ!!全員下に降りてこい!!
観察係がいいと言っていた私も人の事は言えないが…。
そしてきっとブラッドは今回も封鎖係なのだろう…不憫すぎる。
「フィー。以前にも言ったと思うが私と一緒にいる時に他の事に気を取られるなんて感心しないな」
それは初耳です。
以前は他の男の話ではなかったですか?
レオの注意事項に新たな項目が加わった。
「そういえばフィーに渡したい物があるんだ」
そういうとレオがポケットから見たことのある小箱を取り出した。
「求婚にはこれが必要なんでしょ」
パカリと開いた小箱の中身は…。
ピジョンブラッドじゃねえか!!
「フィーがお勧めしてくれた物だよ」
爽やかに笑うレオに頬が引きつった。
凄い勢いでブーメランが返ってきた!!
お客様に勧めた物がまさか自分に返って来るなんて思わないだろ!
「レ…レオさん…これはちょっと受け取れないかな…」
だってこれいくらすると思ってるんだ!?
買ったのはレオだから知っているだろうけど。
こんなのはめていたら自由に動き回れないから!!
「どうして?フィーには一番良い物をあげたいと思って買ったのに…」
そんな悲しそうな顔しないでよ!
「じゃ…じゃあ…とりあえずはめてくれるかな?」
今だけね。
手を差し出すとレオが嬉しそうに私の左手の薬指にピジョンブラッドの指輪をはめてくれた。
公爵領を活性化してお嬢様ライフを送るために金を落としていって欲しいと思った行動が…まさか自分が公爵領に思いっきり還元する羽目になるとは…。
ピジョンブラッドを眺めながら複雑な気持ちになった。
「これが私からの愛の気持ちだから…外さないでね」
外すなって…もし壊したら愛も壊れるって事っすかね?
これはまさか新手の嫌がらせでは…。
やっぱり私は嫌われているんじゃないですか!?
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
多くの方に読んで頂けて嬉しく思っております。
続編に関しては…検討中です。
最後の『いいね』ランキングを発表します。
1位 恋煩い(レオ視点)←まさかのレオ視点が1位でした。レオの気持ちの変化に『いいね』を付けて下さったと思いたい…後書きのランキングが良かったとかではないですよね?
2位 皇太子の婚約者 甘いキス←甘いキスが伸びました!ちょっとホッとしております。
4位 トラウマ←これまた作者的には嬉しい結果でした。
たくさんの『いいね』ありがとうございました。
最後まで読んで頂きありがとうございます。