決着
咄嗟に出した短剣で振り下ろされた剣を凌いだ。
しかし無筋とはいえ相手は男。
上から圧し掛かる重力であまり長くは防げなさそうだ。
こうなったら異世界共通の超必殺技を出すしかない!!
技を繰り出そうとした瞬間、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「フィー!!」
「お嬢様!!」
突然入って来た二人にアルヴィドの注意が削がれた。
ここだーーーーー!!
私は思い切り足を蹴り上げた。
チーン…。
私の蹴り技はアルヴィドの急所に直撃。
その姿を見た私以外の全員の動きが止まった。
ふっ。これぞ異世界共通(男性にのみ有効)の蹴り技。
「女性には分からない痛みを味わうがいい!!」
勝ち誇った顔で悶絶しながら急所を押えるアルヴィドを見下ろした。
「ちょっと何してるの。早く捕らえて」
私の指示に入口で固まっていた人達が動き出しアルヴィドを捕らえた。
未だ悶絶するアルヴィドの前にレオが立った。
「オリオル公爵令嬢暗殺未遂と国家反逆の罪でアルヴィド・ニルス・ヘルマンを捕縛せよ」
「わ…私は反逆など企ててはいません!」
必死にレオに訴えるアルヴィドをレオは冷めた目で見下ろした。
そして胸元から一枚の手紙を取り出した。
「そ…その手紙は…」
「ヘルマン公爵家を強制捜査させてもらった。まさか元王国の宰相がお前達ヘルマン公爵一族によって匿われていたとはな。アンナを使って物資を送り届けさせていたのだろ」
アルヴィドは観念したのか項垂れた。
「我々ヘルマン一族は長い間ずっと皇室に仕えてきたというのに、いつもオリオル公爵家よりも下の扱いを受けてきた。誰がこの帝国を支えてきたと思っている!オリオル公爵家じゃない!我々ヘルマン公爵家が宰相として力を発揮してきたから今の皇室があるんだ!それをお前らはさも当たり前のように考えやがって!そんな皇室なんか滅びてしまえばいい!!」
レオは膝をつきながら興奮するアルヴィドの肩に手を置いた。
「私はお前を大事な片腕だと思い信じてきた。それこそオリオル公爵家よりもずっと…」
「でもあなたは結局私よりその女を選んだではありませんか…」
恐らくレオが言っているのは前回の事なのだろう。
あの時は確かに私よりアルヴィドの方が優遇されていた。
だからアルヴィドの言われるままに動き…帝国は滅びた。
たとえレオがアルヴィドを信じていたとしてもヘルマン一族が皇室を失脚させたがっている以上、結果は同じだということだ。
オリオル公爵家の騎士により連行されるアルヴィドをレオは辛そうに眺めていた。
そんなレオをただ黙って見ていることが出来なくて、レオの腕に寄り添った。
「アルヴィドのようには賢くないけど、私が傍にいるから」
にこりと笑いかけるとレオが表情を緩めた。
「ところでフィー…」
「うん?」
「あの湖でのフィーからの口付けはどう受け取っていいのかな?そこまで踏み込んでもいいということなのかな?」
うぐっ!
雰囲気に流されてしまったが、そういえば私からキスしたんだった!
ダラダラと冷や汗を掻きながら私の顔を覗き込むレオから視線を逸らした。
「記憶にございません」
困った時は政治家の名言に限る。
「酷いな。あんなに熱烈に私の唇を奪ったのに?」
語弊!!
「ちょっと唇に触れた程度でしょ!!」
反論するとレオがとってもいい笑顔を見せた。
しまった!
口を塞ぐも時すでに遅し。
「フィーからしてくれたことは認めるんだ」
認めるも何も口から出てしまった事は取り消せない。
「悪い!?別にただの人工呼吸だし!」
恥ずかしくてムキー!と地団駄を踏むとレオが私を抱き寄せて額にキスをした。
「私は嬉しかったよ」
その顔があまりにも嬉しそうだからそれ以上何も言えなくなり、レオの胸に顔を埋めたのだった。
ヘルマン一族の投獄は社交界を騒がせた。
そして素直に聴取に応じているアルヴィドから真相が語られた。
実はヘルマン一族は以前から皇室に不満を抱いており、内乱の準備をしていたそうだ。
その中でアルヴィドが提案したのがレオの子供を取り込むというものだった。
しかしオリオル公爵家はもとよりヴァロワ侯爵家のように元々力のある家柄の子供では利用することは困難だ。
そこで白羽の矢を立てたのが男爵令嬢のアンナだった。
アルヴィドは幼い頃からレオに仕えており、レオの好みを知っていた。
そのためレオ好みのアンナと出会わせる事でレオの興味を引けると確信していたらしい。
しかし蓋を開けてみればレオは全くアンナに興味を示さず、挙句に私を婚約者にしてしまった。
結婚するまでには私を何とかしたいと考えていたアルヴィドは婚約後、初めて公爵領に帰った私を始末するという計画を立てた。
最初は皇太子直属騎士を利用しようと考えたのだが、レオの監視が厳しく思うように動けなかった。
そこで制服を作り皇太子レオが私を殺そうとしているように見せかけようと考えた。
ちなみにオリオル公爵領に来た伝令の者は、アルヴィドが偽装した伝令文を伝えに行くよう指示されただけのようだ。
アルヴィドはことごとく自分の計画が崩され、ヘルマン公爵からも叱責を受け追い詰められていたらしい。
追い込まれたアルヴィドにとってあの夜の騒動はチャンスに思えたそうだ。
屋敷内はざわつき、気絶した私は別室で寝かされ、レオは皇室とのやり取りに忙しく、ブラッドは事情聴取に駆り出されていた。
そして運よくレオの命令で私の部屋の前を警護していたレオ直属の騎士達を霧状の眠り薬で眠らせた。
騒ぎのせいでオリオル公爵家の騎士は客人達を安全に送り届ける仕事が出来てしまったからね。
あとは私の武勇伝通りだ。
アルヴィドは聴取の際、私を無能だと罵っていたが、自分が一番無能だったと項垂れていたそうだ。
だけど私とレオは知っている。
アルヴィドの計画が完璧だったことを。
前回はまんまとしてやられたしね。
私やレオのようなイレギュラーな存在が今回のアルヴィドの計画を狂わせたのだ。
国家反逆罪は罪としてはかなり重い。
ヘルマン一族に言い渡される刑は恐らく最高刑になるだろう。
アンナに関してはアルヴィドがレオへの好感度上げ目的で難民の支援を行うよう指示していただけで、元宰相への物資搬送については知らされていなかったと話している。
利用しようとした罪悪感かは分からないが、これによりアンナの国家反逆罪の罪は減刑されるそうだ。
しかし私への避妊薬の投与未遂に関しては本人も合意の上で実行したということもあり、同じ薬を服用した上での懲役刑になる可能性が高い。
皇都のオリオル公爵家の自室で一連の事件について考えていると、使用人が手紙を渡してきた。
差出人は観光案内所を任せた伯爵令嬢からだった。
手紙には『セレブの日』に一人で観光案内をして欲しいというビップ客がいるのだが、伯爵令嬢に用事が出来てしまい代理人が必要になったと書かれていた。
これは遠回しに私に代理人になれと言っているのだろう。
ゴロゴロしているのも飽きたし、一度公爵領の様子でも見に行くのもいいかも。
大事件の後ということもあり、レオは後処理に追われ結婚は延期となっていた。
最初の方こそ私も聴取とかで忙しくしていたが、今はもう毎日ソファーの上でぐでっている。
そのうち白身とか出てきそうだ。
ということでレオに許可を貰いに皇城に来た。
「まだ少し時間がかかりそうだし、8日くらいならいいよ」
「短くない?」
往復で5日かかるから実質の滞在期間は3日になる。
「フィーが私の元に帰りたくないと言い出したら困るから」
そりゃあ以前の私なら間違いなくレオから逃げ出していたけど…。
「レオは私を信じてくれていないの?」
レオの目が見開かれた。
気持ちをはっきりと伝えたわけではないからレオが不安になるのも分かるけど…私からキスした事は認めたんだから、もう少し私の気持ちを信じてくれても良くない?
「じゃあフィーを信じて、私に会いたくなったら帰っておいで」
にっこりと笑うレオに頬が引きつった。
それはそれで遅くなればなるほど最悪な結末を迎える事になるパターンではないだろうか?
しかし自分から言い出したことだ。
きっちり8日で帰ってきてやろうじゃないの!
次話で最終話となります。
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