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真の黒幕

 『避妊薬~』『ひにんやく~』『ヒニンヤク~』

 ケーキのあらゆる箇所からゆらゆらと怪しい文字が吹き出している…ように見える。

 これ、絶対手を出しちゃダメなやつでしょ。

 頬を引きつらせる私にアンナはナイフとフォークを差し出してきた。


「一応味見はしたので大丈夫だとは思いますが、宜しければ召し上がって下さい」


 避妊薬の事がなければ何も疑わずに食べていただろう。

 しかしアンナの手が小刻みに震えているように見える時点でこのケーキが危険なのは明らかだ。


「アンナ。このケーキに何を混ぜたの?」


 静かにアンナに問うとアンナの肩が震えた。


「ディスフィーネ様は私が毒でも盛ったとでも仰りたいのですか!?私は味見もしています!もし混ぜていたなら今頃生死を彷徨っているはずです!」


 私はフォークとナイフを受け取るとケーキを切り分けてフォークをケーキに突き刺した。


「何も入っていないというのなら…食べられるわよね」


 突き刺したケーキをアンナに向けて不敵に笑った。


「どうしたの?味見、したのでしょ?」


 一歩ずつ近付く私にアンナが後退った。

 壁に追い込むと口元にケーキを付けた。


「止めて!!」


 追い込まれたアンナが私を突き飛ばすとテーブルが倒れ立て掛けてあった蝋燭立てが床に落ちた。


「わ…私は…私は知らない!関係ないから!」


 パニックになったアンナが出口に向かい走り出した。


「待ちなさい!逃がさないわよ!」


 私はアンナを掴もうとドレスの裾を掴んだ。

 しかし逃げようと必死のアンナは再び私を突き飛ばすと、ドレスが破れて引き離された。


「私は命令されただけだから!!」


 そのまま部屋を出たアンナを追いかけようとするも扉が開いたことで空気が入り込み瞬く間に部屋の中に火の手が広がり行く手を遮った。

 このままじゃ悪女の丸焼きの完成だ!

 絶対検死に来た奴らに『不味そう…』とか言われる!


 私は窓の扉を開けた。

 くそっ!まさかドレスで湖に飛び込むバカが自分になるとは!!

 しかも高さは三階。

 …いけるのかこれ!?

 後ろには火の手が迫っている。

 考えている時間はない!

 大丈夫!飛び込みの選手だって飛び込んでいるんだ!

 同じ人間なんだ!飛べる!はず…多分…。


「フィー!!」

「お嬢様!」


 見知った二人が部屋の前に駆け付けるも火の勢いが強く近付けないでいる。


「私は大丈夫!ここから飛び降りるから船を出して!」

「ブラッド!すぐに船を回せ!」


 レオの指示でブラッドが直ぐに動き出した。

 私は数回深呼吸をすると窓から飛び降りた。

 飛び降りている途中で何かに引っ張られた感覚に襲われると風の抵抗が和らぎ温もりに包まれた。

 何が起きたのかわからないまま湖に落下した。


 着水の音、激しかったな。

 これ完全に0点を叩き出す着水だよね。

 そういえば飛び込む前にドレス脱いでおけばバカにはならなかったか?

 その発想がなかった時点でバカなのか。

 煙吸い過ぎたかな…頭がぼんやりする…。

 そんなことを考えている私の体がゆっくりと上昇していった。


「フィー!大丈夫か!?」


 水面に顔を出すとずぶ濡れのレオが私の頬を叩いている。


「レオ?何で湖にいるの?」

「一緒に飛び込んだから。…フィー…良かった…」


 レオの瞳からポロポロと水が流れ落ちてきた。


「レオ、泣いてるの?」

「フィーが無茶をするから…!フィーになにかあったら…」


 私の所為で泣いてるの?

 この人は本当に私を心配してくれているんだ…。

 水面に映る月の光と滴る水の光でレオが輝いて見えた。

 この人がとても愛おしい…。

 私はレオの唇に自分の唇を重ねた。


「甘くないね」


 これを最後に私は意識を失った。


 丸焼きはもう御免です。

 元気になったらフィーはエジソンになります。

 電球の開発に着手しようと心に決めたのだった。



 湖の屋敷の一室の入口で人が倒れるような物音と共に部屋の扉が静かに開かれた。

 入って来た人物の手には皇太子直属騎士の紋様が入った剣が握られている。

 ゆっくりとベッドに近付くと剣を振り上げ、ベッドで眠る人物に向かって振り下ろした。

 ガキンッ!

 激しい音と共に剣が弾かれると侵入者はバランスを崩した。


「飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことね!」


 私はベッドから飛び起きると部屋のカーテンを開けた。

 月の光に照らされたのは…。


「真の黒幕のご登場ってか。アルヴィド」


 皇太子直属騎士の剣を持ったアルヴィドが苦々しい顔で私を睨んだ。


「最初はアンナの独断で動いていると思っていたけれど、命令されたって言葉でピーンときちゃったのよね」


 ドヤ顔でアルヴィドを見返した。


「賊を雇って私を暗殺するのも、避妊薬を買うのもお金がいる。帝国に恨みを抱く元王国民の協力かとも思ったけど、アンナに命令するほどの権力は彼らにはない。さらにオリオル公爵領に伝令に来た専属騎士。上流貴族達がほとんどでもある皇太子直属の騎士を取り込めるほどアンナの権力もない。つまり身近にいる者の中で金も権力もある人間が黒幕ってこと」


 アンナの『命令された』を聞いた瞬間に私の頭の中に浮かんだ人物が三人いた。

 レオとマリレーヌとアルヴィドだ。

 この三人が唯一アンナと関わる機会があり、金も権力も持っている。

 マリレーヌは嵌められた側だから即省いた。

 レオも私を殺そうと思えばいくらでも殺すチャンスがあったし、私自身がレオを信じたかった。

 となると残る一人はアルヴィドだけだった。


 そこで前回のレオの経験話を元にアルヴィドの立場になって私なりに考えた計画はこうだ。

 私を皇太子が殺したように見せかけることによりオリオル公爵家と皇室を対立させた。

 オリオル公爵家が滅びれば必然的にヘルマン公爵家が帝国のトップに立つからね。

 しかしマリレーヌがレオと結婚し子供が出来れば第二騎士団を率いているヴァロワ侯爵家がオリオル公爵家の代わりとして権力を持つ可能性が出てくる。

 そこで避妊薬を使いマリレーヌが妊娠しないように仕組んだ。

 すると子供が出来ないマリレーヌの代わりに側妃を立てる必要が出てきた。

 レオがアンナを気に入っていたこともあり、すぐにアンナを側妃にする案を提示したのだろう。

 アンナは権力がなく利用しやすかっただろうからね。

 男の子が産まれたあとはその子を皇太子にして自分が権力を握れるようにアンナをサポートした。

 そして恐らく宰相であったアルヴィドは帝国に恨みを持つ元王国民達をたぶらかし、内乱を起こした。

 たぶん元王国民達には帝国が滅びた後は上役に取り立ててやるとでも言ったのだろう。

 そしてまんまと乗せられた元王国民達の力により…帝国はアルヴィドの物になった。


「私を襲う時に制服を用意したのは皇太子が殺したと見せかけようとしたからかしら?」

「無能の割にはよく動く頭だ」

「あなたは無筋だから私を殺す事も出来なかったけどね」


 腹に仕込んでいた鉄鍋よ。ありがとう!

 意識が戻って直ぐに入口を護っていた騎士に持ってくるよう頼んでおいたのだ。

 その騎士も今は眠らされているようだけど。


「私に辿り着いた事は褒めてやる。だが一つだけ失敗したな」


 アルヴィドは不敵に笑った。


「本当に私かどうか自信がなかったのだろ。だからアンナの取り調べをしている殿下や火事の事後処理に回っている護衛騎士(ブラッド)の手を借りずに自分で解決しようとした。馬鹿な奴だ」


 だってしょうがないじゃないか。

 謎解きは専門外ですから。

 オリオル公爵家が脳筋というのは、おたくが一番良くわかっていらっしゃるのでは?

 それとバカは余計だ。

 今日一日でうんざりするくらいお目見えしましたから!


「お前の所為で色々計画は狂ってしまったが、まだ修正は可能だ…ここでお前を殺せばな!!」


 アルヴィドが再び剣を振り上げた。

 ベッドに置かれた鉄鍋まで手が届かない!

 私のバカ!どうして鉄鍋を構えておかないのよ!

 こうなったら奥の手を使うしかない!

 私が太ももに手を伸ばし取り出した物、それは…。


 不二子ちゃんスタイルで隠していた短剣だった!





読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] だってしょうがないじゃないか えなりかずきかっ! まぁ、実際はえなり君はそんな台詞言っていないそうですが、私の脳内ではこれはえなり君の口調で再生されました (  ̄▽ ̄)
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