黒幕を誘き出せ
…。
ここからどうすればいいんだ!?
レオと抱き合って結構な時間が経っていた。
涙?今の状況に困惑し過ぎてとうの昔に止まったわ!
みんなこういう時はどうやって離れているの?
もしアクションを起こさなければ永遠にこのまま!?
そろりと顔を上げるとレオが吹き出した。
何で笑うの!?
「ごめん。フィーの戸惑う姿が可愛くて…」
肩を揺らして笑うレオを睨んだ。
こいつやっぱり私のこと嫌いだろ!
ドンッとレオの胸を押して離れるとそっぽを向いた。
「ごめんフィー。女性は泣き顔とかあまり見られたくないものだと思っていたから落ち着くまで待っていたんだよ」
泣き顔…はっ!私、今、超ブサイク!!
恥ずかしくてレオの方に向くことが出来ずにいるとレオが立ち上がるような気配がした。
「今日はもう帰るよ。明日改めて話をしよう。見送りはいらないから」
気を遣ってくれたのかな?
しかし明日にしたこの選択が果たして正しかったかは明日のみぞ知る事となる。
忘れてたーーーーー!!
翌日、鏡の前で私は打ちひしがれた。
泣く事などほとんどない私が久しぶりに経験したのは…土偶もとい目の腫れだった。
超ブサイクなんですけど!!
好きだと自覚した男の前に出られる顔ではない!
これならむしろ昨日の泣き顔の方がまだ良かった…。
しかし相手は皇太子。
忙しい合間を縫って来てくれるのに追い払うわけにはいかない…。
こうなったら最後の手段だ!!
「…えっと…フィー…だよね?」
応接室で待っていたレオが戸惑っている。
「今日のフィーは黒子です」
黒子の意味が分からないレオは首を傾げた。
そう。今の私の顔の前には真っ黒い布がかかっているのだ。
「何かあったの?」
「人間は泣くと凄い顔になるのです」
察したレオは咳払いをすると本題に入った。
「昨日捕らえた賊だが、全員がマリレーヌに指示されたと言っている」
「レオはそれを信じているの?」
「まさか。だが証拠もない以上マリレーヌを尋問するしかない」
「投獄されちゃうの?」
「…無実が証明されるまでは軟禁される事になるだろう」
この状態で薬屋の名簿が見つかったらマリレーヌの疑惑は益々深まってしまう。
「前回の時にマリレーヌがレオと結婚する前か後にアンナがマリレーヌに接触する事ってあった?」
「舞踏会でなら何度かあったと思うけど…」
「その時何かアンナの手作りお菓子とか口にするような事ってなかった?」
レオは口元に手を当てながら何かを思い出したようだ。
「そういえば結婚式の祝いの席でアンナが私達の為にお祝いのケーキを作って来てくれていたな」
「それ食べたの!?」
「ああ。いつもは食べないんだがマリレーヌの為に作ってきたと皆の前で言われては食べざるを得なかったんだ。だから一口だけ食べたのだが…」
恐らくそのケーキに大量の避妊薬が仕込まれていたんだ。
ずっと妊娠しなかったマリレーヌが突然妊娠したのもケーキの食べた量が少なかったから薬の効果が切れたのかもしれない。
マリレーヌの妊娠で焦ったアンナは服毒事件を起こすことで子供を守ろうとした。
だとすると…私を殺したのも…。
前回のレオはアンナを気に入っていた。
だからチャンスさえあればアンナは皇太子妃にもなれる可能性があった。
だけどそこには私という障害があった。
だから排除した。
でも思い通りにはいかなかった。
新たにマリレーヌという障害が出来たから。
殺しても新たな障害が出来るなら妊娠しないようにすればいいと考えたとしたら。
アンナの身分なら側妃の座に選ばれることも可能だ。
後はレオの好感度を上げていきさえすれば…。
全てが繋がる。
でも疑問も残る。
薬屋が言っていたように男爵令嬢のアンナでは避妊薬は高価過ぎて買えないということ。
そして私を殺す時どうやってレオの直属騎士を利用したのか。
一番可能性が高いのは占領した元王国民の協力。
そして直属騎士はマリレーヌを皇太子妃にするためだと誘い込めば。
「フィー?」
考え込む私にレオが私の黒子頭巾の前で手を振った。
風で捲れるので止めてもらえますか?
「…レオ。結婚しよう」
振っていたレオの手が止まった。
「私とレオの結婚式に必ず黒幕は動くと思うの。そこを押さえれば…」
レオが力尽きたように項垂れた。
「そうだよな…昨日の今日だもんな…そんな簡単にフィーに想いが届くわけがないよな…」
ブツブツと何かを呟いている。
「レオ?」
顔を覗き込むと複雑そうな顔で見つめ返された。
捨てられた子猫みたいで可愛いんだけど…。
ちょっと萌えた。
深い溜息を吐いた後、レオが顔を上げた。
「結婚は大歓迎だ。でも黒幕を暴くために結婚式を利用するのは賛成しない」
私だって結婚式くらいは穏やかに迎えたいよ。
「でも黒幕を見つけないといつまでも狙われ続けるんだよ。それでもいいの?」
「…よくはないよ…でもフィーを囮には出来ない」
「囮になるつもりはないよ。だって私達が犯人を誘い込むんだから」
悪い顔になってしまったが見えていないからいいよね。
ふっふっふっふっふっ…
「フィー。声に出てるよ」
しまった!愉快な状況に笑い声が漏れた!
「でも黒幕を誘い込むだけなら結婚式じゃなくてもよくないか?」
「ダメだよ!黒幕にとってレオの結婚は重要な意味があるのだから!」
この言葉で何となくレオも黒幕が誰なのか分かったようだ。
「それなら婚前の舞踏会で誘い込んだらどうだ?」
婚前の舞踏会なんか予定にないよね?
首を傾げる私にレオが不敵に笑った。
「結婚式の日を発表するための舞踏会を開くんだよ。オリオル公爵家で」
レオの意図が分からずさらに首を傾げた。
そんな私の反応を見てレオがウィンクした。
「オリオル公爵家主催ならフィーの好きなように出来るだろ?おびき寄せたい相手以外を仕掛け人だけにするとか」
なるほど!その手があった!
レオには見えないが私の目が輝いた。
「確実に私と結婚することを招待状に書いて送れば何か仕掛けてくる可能性は十分ある」
「そうと決まれば早速準備に取り掛からなきゃ!!」
勇んで立ち上がる私にレオは意味深な笑みを浮かべた。
「フィーのドレスは私が用意するから楽しみにしていてね。それと当日は仲睦まじい姿を見せる必要があるから今からでも練習しておこうか」
仲睦まじい姿って…ベタベタするって事なのか?
レオはおもむろに立ち上がると私の手を取った。
今から始まりそうな甘い予感に胸が高鳴った。
レオが私の手を取って…??
「あの…?」
「心配しなくてもフィーが私を受け入れてくれるまでは何もしないよ」
レオの微笑みに少しガッカリする自分がいた。
もっと触れて欲しいのに…って何考えてんのよ!
手を握るだけでも十分触れているでしょ!
「私が一生受け入れなかったらどうするの?」
恥ずかしい内面を払拭するため少し不貞腐れたような声が出た。
「一生待つよ」
「…バカなの」
口を尖らせて照れ隠しをする私にレオはおかしそうに笑った。
「皇太子の私にバカといえるのはフィーくらいだよ」
「他の人が言ったらどうなるの?」
「処刑かな」
ドン引きする私にレオがクスリと笑った。
「冗談だよ。精々投獄くらいだよ」
いやいや十分過ぎるでしょ。
「フィーは可愛いから許す」
可愛くなければ投獄されるのですね。覚えておきます。
「それにしてもレオはよく私が可愛いとか言ってくれるけど、私は皇都でも有名な悪女だよ?可愛い要素が見当たらないんだけど?」
「フィーはもう少し自分の可愛さを自覚した方がいいよ。私は他の男にフィーを奪われないか心配でならないというのに…」
私を好きだと言う男はあなたくらいですよ。
「特に一番の恋敵が身内にいるっていうのが心配だ…」
「身内?」
首を傾げる私にレオは苦笑いを浮かべるだけだった。
読んで頂きありがとうございます。