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 レオは私との約束を守ってくれた。

 その結果、タイヤの売れ行きは急上昇。

 予想以上の成果を上げたのだ。

 というよりも…。


 皇太子の伝手ってほぼ全貴族じゃねぇか!!


 そうなのだ。

 レオがあらゆる伝手を使って宣伝してくれたまでは良かった。

 宣伝方法が白か黒かで言ったら黒よりのグレーだと思うが。

 商品はとても良い物なので宣伝の仕方がどうであれ問題はないが、別の問題が発生した。

 お察しの通り…生産が追い付かない!

 さらにゴムの木から採れる樹液にも限りがある。


 頭を抱えたい事態に公爵領から一枚の手紙が届き震えた。


「…ついに…ついにアレが完成したのね!!」


 その朗報は今回の問題を解決する糸口になるのだ。


「これさえあれば大量生産が可能になる!おーほほほほほ…!!」


 この日、オリオル公爵邸では私の高笑いが響いたのだった。



 翌日。私は皇城を訪れていた。

 理由は公爵領に帰るための挨拶だ。

 アレを使った試作品第一号の試運転はやはり自分が責任を持って行いたい。

 もし失敗したら新しい方法を考えなければいけなくなるし…。


 そんなこんなで懐かしい回廊を歩いているのだ。

 前回の時は毎日のように通っていた場所だが、今回は初めてになる。

 来てない理由?用事がないから。

 そんな淡泊な婚約者を持つレオは毎日のように公爵邸を訪ねてくる。

 別に無理して来なくてもいいと言ったのだが、自分が会いたいからと…口に含んでいたお茶が垂れ流れたのは仕方ないと思う。

 そんなレオが簡単に公爵領に帰してくれるかどうか…。


「いいよ」


 あっさりと許可が下りた。

 もっとごねると思っていたのに…。

 モヤッとした。

 思わせぶりな態度をとっていたくせに…なんだ…。

 ん?なんだってなんだ?許可が下りたんだ。

 ここは喜ぶところでしょうが!


「殿下の許可も下りましたし、すぐにでも帰らせて頂きますわ」


 気を取り直して立ち上がるとレオが可笑しそうにクスリと笑った。


「フィー。怒っているの?」


 帰ろうとする私の進路を塞いだ。


「怒ることなど何もありませんけど?そこをどいて頂けます?」

「フィーを束縛したくなかったんだ。楽しそうにしているフィーが好きだから」


 え?今、好きって言った!?

 瞬く間に顔が紅潮した。

 そんな姿にレオは嬉しそうに微笑んだ。


「その反応。少しは期待してもいいのかな?」


 恋愛偏差値ゼロの私に聞かないで!!



 夕食時、皇城から戻った父が上機嫌で私を呼んだ。


「フィー。お客様だぞ」


 父と一緒に入ってきたのはオリオル公爵家の騎士服に身を包んだブラッドだった。


「え?ブラッド?何してるの?着る制服間違えてるよ?」


 私の疑問に父は苦笑いを浮かべた。


「ディスフィーネ・フェリシー・オリオル公爵令嬢」


 真剣な表情のブラッドに思わず背筋が伸びた。

 というよりブラッドが私のフルネーム知っていたという方が驚きだ。

 ブラッドは混乱する私を余所に突然跪いた。

 なんかこの光景、レオの婚約者にされた日にも見たような…。

 私に何か頼み事でもあるのか?

 でも…跪く必要ある?


「私、ブラッド・エドヴァルド・ローディンは貴方の騎士として永久(とわ)の忠誠を誓います」


 ん?どういうこと??

 私は視線を下に向けているブラッドの頭頂部を指差しながら父を見た。

 父は感慨深そうにうんうんと頷いている。

 うんうんじゃねえ!説明してくれ!!


「まあ!フィーちゃんモテモテね!」


 興奮する母に頬が引きつった。

 母上様。私の耳がおかしくなければこれは愛の告白ではありませんよ。


「命をかけて貴方を守ります」

「キャー!素敵!!」


 こっちはギャー!だわ!

 何この展開!?

 命を粗末にするんじゃない!あなた次男とはいえ侯爵令息でしょうが!


「フィー。ブラッドはフィーの専属騎士になりたいと言っているんだよ」


 補足説明ありがとう。うん。薄々分かっていたよ。

 母が興奮する前に説明して欲しかったけどね。


「ブラッド、いいの?オリオル公爵家の騎士になるということは夢だった近衛兵にはなれなくなるよ?」

「覚悟の上です」


 騎士と近衛兵では訓練の仕方が違う。

 近衛兵は要人を護るのが仕事だが、騎士の仕事は戦地で戦うこと。

 とくにオリオル公爵家は第一騎士団。

 祖父の異名からも分かるとおりかなり過酷だ。

 …というか私の居場所が一番の戦場ともいえるか?…っておい!!

 忙しく一人ツッコミをしていると父が肘で小突いてきた。


「フィー。手を出してあげないとブラッドは一生このままだぞ」


 私の耳元に小声で言ってきた。

 それはそれで面白いな。

 まあ食堂のど真ん中にこんなデカい銅像があっても困るから詳しい話は後で聞くとしよう。

 右手を差し出すとブラッドは私の手の甲にキスをした。

 なんか恥ずかしい…。


「ブラッドがフィーの専属騎士になってくれるならこれほど心強い事はないな」


 ええ。皇太子の婚約者だった私の首根っこを掴んで摘まみだせる方ですから。


「フィーちゃん人気者ね」


 世間では嫌われていますけどね。


「これからもよろしくお願いします。お嬢様」


 お嬢様って呼んだら『クビ!』って言ってもいいのかな?



 翌日の朝。

 レオが見送りに来てくれていた。

 昨日の今日で少し恥ずかしい…。

 そんな私を嘲笑うかのようにレオは私の後ろに控えているブラッドに声をかけた。

 気にしてるのは私だけかい!


「ブラッド。フィーを頼んだぞ」


 ブラッドは胸に手を当てると少し頭を下げた。

 以前はローディン侯爵令息って呼んでいたのにいつの間に名前で呼ぶくらい仲良くなったんだろう?

 二人のやり取りを不思議そうに眺めているとレオは私に視線を移した。


「手紙書くから」


 …約束しなければ返信しなくてもいいかな?


「返事を楽しみに待っているよ」


 心の中を読まれた。

 無表情でレオを見つめているとレオが私の頬に手を添えた。

 昨日の出来事を思い出し顔が熱くなった。

 みんな見てますから!!

 ドキドキと高鳴る胸を誤魔化そうと辺りを見回すと不自然な動きでみんなが馬車の方に向かって移動していた。

 空気読み過ぎだろ!!


「フィー」


 余所見はするなと両手で頬を挟まれてレオの方を向かされた。


「寂しくなったら手紙に書いて。すぐに駆け付けるから」


 寂しくはならないと思うけど…。

 思わず明後日の方角に顔を向けると強めに両頬を挟まれた。


「分かったかな?」

「わひゃりまひぃた」


 返事をするとようやく頬から手が離れた。

 頬をさすっているとレオの真剣な眼差しに見つめられた。


「私はフィーの味方だから。それを忘れないで」


 この言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に浮かんだのは前回殺された時の場面だった。

 今、私は17歳。

 18歳まであと一年を切った。


 よし!領地に帰ったらまずは…甲冑の準備をしよう!





読んで頂きありがとうございます。

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