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悪女、本領を発揮する

 会場に到着すると顔を俯かせてプルプルと体を震わせた。


「レオナール・シルヴェスト・セネヴィル皇太子殿下とディスフィーネ・フェリシー・オリオル公爵令嬢がいらっしゃいました!」


 止めてくれーーーーー!!

 デカい声でアナウンスをするんじゃない!!

 たった一声で会場中の視線を釘付けにさせてしまった。


 なんということでしょう。

 先程まで笑顔で談笑していた女性達は匠の技(アナウンス)で険しい顔へと姿を変えました。

 それだけではありません。

 温かみのあった空間も今ではすっかり冷めた空間へと大変身!

 これで舞踏会も安心です…なわけないだろ!!

 絶対これ私の我儘で皇太子をパートナーにしたって思われてるよね!?

 全ての元凶はここにあり!!

 視線を斜め上に向けるとキラキラスマイルが返ってきた。

 最近こんなキラキラばっかり浴びてる気がする…。

 私の心が荒んでいるのか?浄化されそうだ…。



 半ば引きずられるように皇太子にエスコートされるとブラッドがマリレーヌをエスコートして挨拶に来た。

 おお!お二人さん、お似合いではないですか!!

 二人の恋の予感にちょっとテンションが上がった。

 二人は皇太子に挨拶をするとブラッドが私に視線を移した。

 私の心の中は『よっ!』である。

 ピリピリした空気の中で知り合いに会えるのは嬉しいものだ。

 しかしブラッドへの挨拶もままならないまま皇太子に引きずられたのだった。

 私の心の中は『あ~れ~』である。



 音楽が流れ始め踊りの時間となった。

 本日は社交界デビューした女性達が主役だが、一応主催者でもある皇室代表の皇太子が先陣を切ることになる…え?私、トップですか?

 注目の的やん。

 背中に何本も視線という呪いの槍が突き刺さる中、踊りが始まった。


 どうせみんな失敗しろとか思っているんでしょ。

 社交界の女王、フィーちゃんを舐めるなよ!

 今回は初めてだが、前回は全ての舞踏会に出たんじゃないの!?っていうくらい参加していたからダンスはお手の物よ。

 しかも今回はおばあ様のお墨付きですから。

 周りにざまあみろと言わんばかりに胸を張り堂々と踊りを見せびらかせてやった。

 そこのお嬢さん。お顔が崩れていますわよ。

 悔しがる令嬢に視線を送るくらいの余裕も見せてやった。


「お上手ですね。とても初めてとは思えない足取りです」


 うぐっ!

 余裕をかましていたらボディブローを食らわされた。


「ほほほ…殿下のリードがお上手だからですわ」

「それにしては私達、とても息が合っていると思いませんか」


 思いません。それは前回、散々踊ったのが原因です。


「ほほほ…婚約者候補の方々には負けますわ」

「練習で彼女達とも踊りましたがディスフィーネ嬢が一番踊りやすいです」


 前回は私とは踊りたくないって嫌そうな顔してましたけど?


「殿下はお世辞がお上手ですね」

「ではお世辞ではない証明に私の婚約者になりませんか?」


 ひぃーーーーーー!!

 死神が視える!!

 恐怖のあまり後ろに反り過ぎてバランスを崩した。

 ヤバい!倒れる!!

 しかし腰を強く引き寄せられて転倒は免れたが…。

 皇太子の真剣な瞳が間近になり気が付いた。

 この瞳、やっぱりイケメン男爵と同じだ。


「殿下のお知り合いにブルート男爵…」


 ここで曲が止まった。

 男爵の事を聞けないまま皇太子に挨拶をし終わるとブラッドとマリレーヌがやってきた。


「オリオル公爵令嬢にダンスのお誘いしてもよろしいでしょうか?」

「…構わない」


 二人の間に挟まれて視線だけで左右を窺い見た。

 なんかピリピリしてます?

 もしかしてブラッドが皇太子の近衛兵の誘いを断ったことを根に持ってるのか?

 …有り得る。器小さそうだし。


 二曲目が始まりブラッドにエスコートされてホールに進み出た。


「マリレーヌと踊ってどうだった?」

「あんなもんだろ」


 揶揄うつもりで言ったのだがブラッドの反応は淡泊だった。

 おかしいな?

 もっと『お前とは大違いだ』とか言ってくると思ってたんだけど…。


「そういえばブラッドも初めての舞踏会になるんじゃないの?」

「そうだな。誰かさんの護衛で付きっきりだったからな」


 嫌味か!?

 ふくれっ面を見せるとブラッドが吹き出した。


「そっちはどうだ?初めての舞踏会は?」


 前回があるし初めてではないが…。


「私は公爵領を歩き回っている方が好きかな」


 日本人として人の顔色などを窺う術を覚えたせいか、社交界はとても疲れる場所だと認識した。

 よくこんな疲れる場所に前回の(ディスフィーネ)は喜んで参加してたな。

 人の目が気にならない程バカだったってことだよね。


「お前らしいよ」


 そう言われて少し嬉しい自分がいた。

 この会場にいるほとんどの人が今の(ディスフィーネ)を知らない。

 だけど今の私を分かってくれている人もいる。


「ありがと。嬉しいよ」


 笑顔でお礼を言うとブラッドが視線を逸らした。

 視線逸らすとか酷くない?

 そんなに悪女の笑顔は怖いのかな?

 まあ可愛くはないと思ってはいるが。


「ところでブラッド…」

「ん?」

「タイヤ買わない?」



 音楽が止まりブラッドに挨拶をしていると肩を抱き寄せられた。

 顔を上げると照明と被って眩し過ぎる笑顔が…思わず目を細めてしまったのは許して欲しい。


「ローディン侯爵令息。私のパートナーの相手をしてくれてありがとう」


 気付くとクルッと体を反転させられブラッドに背を向けて歩かされていた。

 私もブラッドとマリレーヌを二人きりにさせてあげたいし、立ち去るのはいいがどこに連れて行かれるんだ?

 まさか人気の無い所に拉致されてグサリ!?

 いつでもかかって来い!とブラッドの護身術を頭の中で反芻したが、その前に見るからにTHE貴族!って感じの恰幅の良いおじさんが皇太子を呼び止めた。

 ナイスおじさん!

 私は隙を見て体を外回転させて肩を掴んでいた皇太子の腕から逃れた。


「殿下。お話があるようですし、私は休憩室に下がらせて頂きます」


 カーテシーをしながらほくそ笑んだのだった。



 やっと逃れられた!

 会場を出ると解放感に包まれた私は鼻歌交じりで廊下を歩いていた。

 ちょっと呆れられてはいたけどブラッドもタイヤを買ってくれるようだし、知り合いにも勧めてくれるって約束してくれたから幸先いいな~。

 スキップしたい気分で跳ねるように歩いていると廊下の角から不穏な会話が聞こえてきた。


「あなたのような方が皇太子殿下の婚約者候補だなんて不快だわ。辞退なさい」


 これは…いじめか?

 しかも婚約者候補って言った?

 侯爵令嬢でもあるマリレーヌにこんな物言いを出来るのは公爵令嬢である私くらいだ。

 ということはこの先でいじめにあっているのは…。


 角からこっそりとその先を伺うと3人の高級そうなドレスを着た令嬢に挟まれた1人のシンデレラが…ドレスがみすぼらしいって意味ね。

 間違いない!皇太子の本命ベロン男爵令嬢だ!

 これは私の未来の為にも助けなければ!!



「ちょっと。邪魔」


 顎を上げて腕を組みながら3人の令嬢を見下ろしながら歩み出た。

 はあ!?といったような顔で振り返った3人は相手が(ディスフィーネ)だと分かると怯んだ。

 しかし気を取り直すと3人は私に負けじと胸を張った。


「これはオリオル公爵令嬢ではありませんか。あまりにも下賤な物言いにどこの平民が紛れ込んだかと思いましたわ」


 オリオル公爵令嬢だと知ってもこの態度ということはマリレーヌ派の令嬢達か。


「あら?おかしいですわね。本日の舞踏会には私より身分の高い令嬢はいなかったはずですけど。どうやら礼儀を知らない下級貴族令嬢達がのさばっていらっしゃるようね。マリレーヌ様は一体どういう躾をしていらっしゃるのかしら」


 令嬢達は苦々しい顔をしながらカーテシーをした。


「それで?見たところそちらのご令嬢は皇太子殿下の婚約者候補の方ですわよね?寄ってたかって何をされていたのか興味がありますわ」

「男爵令嬢の身分で皇太子殿下の婚約者候補に選ばれたので辞退するように話をしていただけですわ」


 恐らくこの令嬢達は私が皇太子に好意を寄せていると勘違いしているのだろう。

 こう言えば私を味方に出来ると思っているところがとても浅はかだ。


「あら?彼女は殿下の婚約者候補よ。そんな彼女に辞退を迫ったなんて殿下のお耳に入ったら一体どうなるのかしら」


 私の予想外の反応に令嬢達の顔が青ざめた。


「し…しかしオリオル公爵令嬢も本日の舞踏会のパートナーを殿下に頼むくらい婚約者候補になられたいのではないですか?」


 戯言を。私は口の端を持ち上げて最大級の悪女面を作った。


「貴方方はオリオル公爵家を侮辱していますの?私が殿下の婚約者候補?私が望めば候補どころか簡単に婚約者にもなれますのよ!」


 だって前回はそれで婚約者になったもん。


「私は天下のオリオル公爵家の令嬢よ。男爵令嬢相手に程度の低い醜いお願いをする貴方方と一緒にしないで頂けますこと」


 ドヤ顔で悔しがる令嬢達の横を通り過ぎようとした瞬間、手前にいた令嬢のドレスの裾がわずかに動いたのを見逃さなかった。


 ブラッド直伝足払い発動!!


 私を転ばそうと足を出した令嬢の足を勢いよく後ろから払った。

 すると突然の足払いとドレスの重みにバランスを崩した令嬢が他の令嬢達も巻き込んで床に倒れた。


「あら?皆さん、床に這いつくばってどうされたのかしら?小金でも探していらっしゃるの?私が恵んで差し上げましょうか?」


 不敵な笑みで令嬢達を見下ろすと真っ赤な顔でそそくさと立ち去って行った。


 やれやれだ。


「あの…」


 おずおずと後ろから声をかけられて振り返って二度見した。

 この子!お茶会の迷子ちゃんじゃないの!





読んで頂きありがとうございます。

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[一言] ビフォーアフター 思わずいいねを押してしまう匠の技でした Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
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