パートナーはお早めに
タイヤ最高!!
以前とは乗り心地が全然違う。これは売れるぞ!!
テンションアゲアゲの私とは打って変わってテンションサゲサゲのブラッドは終始何かを考えているようだった。
出世街道まっしぐらなのに何が不満なのだ?
ブラッドとはあまり言葉を交わさないまま皇都に着いた。
公爵家の馬車で帰ってきたこともあり、先にブラッドを侯爵邸に送り届けた。
馬車から降りようと一歩踏み出したところでブラッドが振り返り何か言いたげに私を見た。
しかしすぐに正面に向き直るとそのまま馬車を降りて行った。
もしかして反抗期か!?
18歳の反抗期…遅くね?
結局ブラッドが何を悩んでいるのか分からないまま馬車は公爵邸に帰るため走り出した。
しまった!ブラッドに侯爵家もタイヤ購入しないか聞くの忘れてた!
3年ぶりの皇都の公爵邸に到着すると父と母が出迎えてくれた。
「フィー!お帰り!」
「フィーちゃん!お帰りなさい!」
大袈裟なくらい二人に抱きしめられたが、正直私も久しぶりに二人に会えて嬉しかった。
ちょうど夕食の時間ということもあり、食事をしながら話をすることになった。
食堂には私の大好物が沢山並んでいた。
ヤバい。社交界デビュー前に太るな。
「そういえばタイヤとやらが完成したそうだな!」
肉を頬張っていると父が興奮気味で尋ねてきた。
「そのようですね。乗って帰ってきましたがとても乗り心地が良かったですわ」
私の他人事のような物言いに父はすぐに察して使用人達を下がらせた。
だって私は公爵領で遊び呆けていたことになっているから。
使用人が下がったのを確認して私のテンションが上がった。
「あのタイヤ、最高ですよ!お父様もお母様もみんなに薦めて下さい!!」
「そんなにか!」
「私も乗ってみたいわ」
「是非乗ってみて下さい!」
「それにしてもどうしてフィーは自分が頑張っていることを黙っておくんだ?自慢してもいいことだぞ?」
「そうよ。フィーちゃんの悪い噂を聞くたびに胸が苦しくなるわ」
まさか殺されるから皇太子に目を付けられるような行動は控えたいなどとは言えない。
「噂は噂です。それに真実を話したところで信じてくれるかどうかも怪しいですし、公爵家の娘が公爵領で好き勝手しているようだと余計に悪く言われる可能性もあります。だから言いたい人には言わせておけばいいのです」
二人は納得しきれないようだが下手な事をして死亡フラグを立てたくはない。
悪い噂が流れていてくれた方が皇太子と関わらなくても済むと思うし。
「まあフィーがそう言うなら…」
二人には申し訳ないが、これも長生きするために必要な事。
その分しっかりフィーネとして公爵領を盛り上げていきますから許して下さい。
心の中で二人に謝罪したのだった。
事件が起こったのは翌日の朝だった。
「旦那様。皇室からこちらが届いております」
朝食をとっていた私達に執事が一枚の手紙を手渡した。
父が封を開けると眉間に皺が寄った。
「あなた?どうかされたの?」
私はスプーンを口にくわえながら父と母の様子を窺っていた。
一通り手紙を読み終えたのか父は私に視線を移した。
「フィー。社交界デビューの翌日に開かれる舞踏会だが…」
父の神妙な顔に姿勢を正した。
「皇太子殿下がお前のパートナーを務めたいと仰っておられる」
父の言葉を理解するまでに数秒…。
「ええええええーーーーー!!どどどどどどうしてですか!!?」
父は手に持っていた上質な紙を手渡してきた。
そこにはしっかり社交界デビューの舞踏会のパートナーを務めたいということとドレスを用意したい旨が記載されていた。
「これ絶対に送る相手間違えてますよ!!」
二度見するも手紙にはしっかりと『ディスフィーネ・フェリシー・オリオル公爵令嬢』と書かれている。
「名前…!そうきっと名前を間違えたんですよ!お父様!名前が間違っていると朝一で殿下にお伝え下さい!!」
「そんな間違いはないとは思うが…確認はしてみるよ…」
「あと殿下に婚約者候補の方をお誘いするように念押しでお伝え下さい!!」
「もしかしたら殿下…フィーちゃんに恋をしたとか?」
そんな恐ろしいことを間違っても口にしないで下さい。
こっちは命がかかっているんですから。
「とにかく!!お二人とも殿下の意図が分からないうちは下手な事を外で言わないで下さいね!!」
やっぱり皇都なんかに帰って来るんじゃなかった!!
朝食が終わり部屋の中を猛獣のようにウロウロと動き回っていた。
今話しかけられたら噛みつきそうだ。
あの男は一体何を考えているんだ?
二度しか会った事ないのにパートナーになりたいとか。
そういえば公爵領に視察に来た時の皇太子の様子が変といえば変だったな。
まさかフィーネが私だと確信した?
でもあの時は観光案内所にも行かなかったし、フィーネにも会っていないよね。
あのイケメン男爵から、話を聞いて今は確信していてもおかしくはないけど…。
だけどそれに気付いたからといって婚約者候補を放って舞踏会のパートナーを申し込んでくる理由は?
まさか…会場でグサリ…とか…。
いやーーーーーー!!
はっ!そうだ!ブラッド!ブラッドにパートナーをお願いして「パートナー決まっちゃっていたので…てへっ」で誤魔化せないか!?
いや、まあ、ブラッドも私のパートナーとか嫌かもしれないけど…背に腹は代えられない!
「ローディン侯爵家に直ぐに使いを出して!!」
返ってきたブラッドの手紙には『ヴァロワ侯爵令嬢のパートナーを務めることになった』とあった。
うん。マリレーヌのパートナーじゃ仕方ないよね…。
サラサラと頭から砂のように崩れ落ちた。
というかもしかしてブラッドがマリレーヌを誘ったから皇太子が誘えなかったとか?
ブラッド!なんてことしてくれたんだ!
でも婚約者候補はもう一人いたよね?しかも本命。
そっちはどうなってんだ?
「フィー…殿下に確認してきたのだが…」
自室のソファーで考え込んでいる私に皇城から戻った父が言いづらそうに声をかけてきた。
その様子だと間違いなかったということですね。
「間違いないそうだ…」
もう逃げ道はないのか?
「お父様。もしかしたら婚約者候補の方達が先にパートナーを決めてしまったから残り物の私に声がかかったのかもしれませんよ?」
一縷の望みをかけて父に尋ねた。
もしそうならブラッドにマリレーヌのパートナーを断るよう…土下座する!!
「…それが…婚約者候補達は他のパートナーに頼んでおいたから心配はいらないと言われてしまったよ」
まさかの皇太子の差し金!?
「あと…これを預かってきたんだが…」
執事に持たせていた大きな箱を私の前のテーブルに置いた。
「…お前のドレスだそうだ…」
用意するの早くない?
今朝の今日だよ?
目の前に置かれた箱を恐る恐る開けた。
これって…!?
そこに入っていたのは前回私が皇太子にせがんで用意させた…オーダーメイドのドレスだった。
どうして今回の皇太子がこのドレスを!?
このドレスは私が前回の時に口を挟んで作らせたもの。
今回の皇太子が作れるはずがない!
これはもしかして運命からは逃げられないという暗示なの!?
そんな…。ここまで関わらないように必死で頑張ってきたのに…。
全てが無駄だったというの?
死刑台に立つ覚悟を決める時が来たのかもしれない。
いや!そんなことになるものか!
舞踏会までまだ時間がある!
だったら最後まで戦ってやる!
運命なんか覆してやるんだからーーーーー!!
いつも読んで頂きありがとうございます。
皆様のブクマと評価に毎日やる気を頂き、感謝感謝の日々を送っております。
本日は10話目という二桁突入に伴い、皆様がつけて下さった『いいね』の人気サブタイトルランキングを発表しようかなと思います。
第1位 ラストツアー 理想のプロポーズ
第3位 得体の知れない男
第4位 不味いケーキの謎 怪我の功名
皆様の予想通りでしたでしょうか?
番外で意外と人気だったのがまさかの『プロローグ』。
短い文章に心を打たれて頂けたこと嬉しく思いました。
そして一番不人気だったのが『悪女の前々世』。
たぶんまだ何も起きていないからだろうと分析しております。
話毎によって良し悪しが評価できるためとても参考にさせて頂いております。
付けて下さった皆様、ありがとうございます。
皆様の応援に応えられるよう、これからも頑張らせて頂きます!