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ニート王子と凸のダンジョン⑩

それは、魔物と人の共存を訴えた王子の物語。


むかしむかし、魔物は神々の遺言通りに人を殺し回っていました。


ある日、とある王子が神々の遺言全て切り捨てました。


神の遺言から解放された魔物達は、王子に感謝します。


王子と魔物達は友となり、人と魔物が力を合わせることで終末の世を乗り越えようと誓いました。


王子は魔物の良いところを人間達にたくさん伝えようとしました。


王子は魔物と一緒にたくさんの人助けをしました。


魔物は王子の言うことを何でも聞きました。


『オグナ様のために、我等魔物は人間と友人になろう』


魔物の誰もが口を揃えて言います。


ところが人間達は魔物を恐れて、魔物と友になることを拒否します。


まぁ、当然の結果でしょう。


王子はスキル『空気になる』の力を制御できず、ほとんどの人間達では姿を見ることも、声を聞くこともできなかったのですから。


『オグナ様の御言葉通りに』


『オグナ様の御心のままに』


恍惚の表情で、いるかどうか分からないオグナという人間の名を叫ぶ魔物達。


想像しただけで、怖い光景ですね。


ある日、人間が魔物達に指摘しました。


「オグナなんていやしないよ」


その言葉に激昂した魔物達は、その人間をなぶり殺します。


『オグナ様を信じぬ愚か者に生きる価値は無い』


『オグナ様、安心してください。オグナ様を悪く言う愚か者は我等が亡き者にしてみせます』


異常なまでの献身を見せる魔物達を見て、王子は気付きました。


神々の遺言を切り捨てたことで、魔物を呪いから解放したと思っていたのは間違いでした。


遺言に籠められた呪いをオグナが継承し、魔物達にかけられた呪いを上書きしていたのです。


遺言の呪いを継承したことで、魔物達は王子に心からの忠誠を捧げることを余儀なくされただけでした。


魔物と王子の友情も愛情も全ては偽物でした。


「お前は人の天敵だ」


王子の存在を知覚することができたベルグンテル王セリムと、腹違いの3人の兄弟アベル、イカロス、ウトガルドは、王子を危険視して彼を殺そうと企みました。


ところが、王様も兄弟も王子と魔物達によって殺されます。


その後も、世界中の人間達から命を狙われます。


人間達は悉く殺され、最終的に人間は絶滅し、王子だけが残りました。


王子は全ての『神様のスキル』を蒐集し、その身に取り込んだことで新たな神となり、今では魔物の神と呼ばれています。


めでたし、めでたし。


まぁ、魔物の神は現在、心が壊れて永らく眠っていますけども。


ええ、お気づきの通り、魔物の神とは遠い未来のオグナ・アウラ・ベルグンテル様のことです。


魔王ルシフェルは長い語りを終えた後、爽やかなイケメンスマイルで言った。


「どうでしょう? ロギン様も魔物の神の信者になりませんか? 信者になっていただけるようでしたら、巨人達にも健康で文化的な最低限の生活をする権利をあげても良いですよ」


翼を広げて空に浮かぶルシフェルは光魔法で【光の剣】を虚空にいくつも生み出し、剣を一斉に射出した。


光の雨がヘルナへと降りかかる。


「くははははは。面白い冗談だ。巨人の王である我が、魔物の神の信者になるとは腹が煮えくりかえるほどに笑えるぞ。ルシフェル!」


ヘルナの身体を操るロギンが禍々しい笑みを浮かべ、【重力操作】で周囲の重力値の出力をこれでもかと上げ、限界値を突破させる。


瞬間、ヘルナ近辺の空間が歪んだ。


ヘルナ目掛けて直進していた【光の剣】は【重力操作】された空間に入ると、ぐにゃりとその進路を歪められた。


光の雨はヘルナに当たること無く、地面に落ちていく。


光を操る魔王と、重力を操る巨人の王の攻防から少し離れた場所にて。魔王リリスとイドラ帝国の皇女イルミが対峙していた。


「ワタシハ、魔物ノ神二仕エシ第五ノ魔王。チナミニ、魔王アダムノ後継機。貴女カラ、アダムヲ感ジマス」

「魔王アダムは私が取り込みましたから、当然でしょう」

「ソウデスカ。ワタシハ、魔王ナノニ馬鹿二サレテキマシタ」

「あらそうなの。可愛いそうに」

「エエ、可哀想デス。ワタシハ魔王アダムノ下位互換ダト馬鹿ニサレテキマシタ。ワタシハ、魔王アダムヨリ優秀ナノニ」

「その程度の攻撃しかできない貴女が私よりも優秀? 寝言は寝て言いなさいな」


魔王リリスとイルミは一歩も動かずに互いを睨みつけているだけのように見えた。


しかし、それは違う。


魔王リリスは洗脳スキルを何度も何度も超人にかけていた。


超人イルミは洗脳スキルを弾くための弱体無効のバフを自身にかけると共に、魔王の格を下げるためのデバフをリリスにかけ続けている。


洗脳の魔王と超人の皇女が眼に見えない高度な戦いを繰り広げている近くにて。勇者と魔王テムジンが向かい合い、お互いの間合いを探り合っていた。


魔王テムジンは下卑た目でメイドの格好をした勇者を見ていた。


「お前を見ていると、何とも不思議な感じがするな。俺達はどこかで会ったことがあったりするか?」

「ナンパですかー? ごめんなさい無理です。アタシには、心に決めた人がいるのでー」

「ナンパじゃねぇけど、どうにも引っかかるんだよなぁ。その剣も見たことあるような無いような」

「でーすーかーらー、会ったことなどありませんってばー」

「そうだよな。どうにも引っかかるが、まぁ、良いか。どうせ食っちまった後に捨てる女だしな。おい、女ぁ。名を名乗れ。俺はこれから食う女の名乗りを聞くことにしてるんだ」

「趣味悪いですねー。ですが、アタシも名乗りの口上を述べるのは好きなのでさせてもらいますねー」


勇者ヒルダは大きく息を吸い、名乗りを上げる。


「アタシは第五王子オグナ・アウラ・ベルグンテル殿下のメイドで姉で前世では正妻だった平家の子孫、勇者ヒルダと申します。いざ尋常に殺し合いましょう」


ヒルダが長い自己紹介を終えてドヤ顔をする。


それを聞き、魔王テムジンは「平家、ね。思い出したぞ」と呟いた。


テムジンはヒルダが手にする【草薙剣】を見ながら言う。


「実を言うと、俺も前世の記憶を持っている。それも、地球と言う異世界人の記憶だ」

「はい? なんと言いましたー?」

「ふふ。聞いて驚け俺は」


今度はテムジンが吠えるように名乗りを上げる。


「俺の前世は源義経(ジンギスカン)。壇ノ浦で平家を滅ぼした後、海を超えモンゴル帝国元を建国した男である。今世は魔王フェンリルの末裔として転生し、魔物の神に仕える第四の魔王に選ばれし狼男だ」


源氏の前世を持つ魔王の名乗りを聞き、平家の子孫である勇者は絶望の声を上げる。


「平家のアタシよりも滅茶苦茶に設定を盛ってますねー。盛り負けましたー。おのれ、源氏めー」


妙な設定対決をし出す魔王と勇者から大分離れて。帝都マヅダールの郊外で魔王アスラと、皇帝ツアストラの一対一の対決が繰り返されていた。


ツアストラによって生み出された霧の中で、魔王アスラが大声を響かせる。


「俺様は魔物の神に仕えし第三の魔王。超人よ。いい加減俺様の前に現れろ。と言うかここはどこなんだー」


霧の中に魔王の声が吸い込まれていく。魔王アスラは霧の中で迷子になっていた。


「私、何もしてないんだけどなー」


ツアストラは霧の中で呟いた。


武闘派の魔王が霧の中で迷い、その様子を皇帝が見守ると言う地味な戦いはまだまだ続く。







源義経=チンギスハーン説に何故か心を惹かれます。そんな訳あるかと思うけどロマンがあって好きなんです。好き過ぎて思わず入れてしまいました。


ちなみにテムジンはチンギスハーンの幼名だそうです。

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