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ニート王子、天使からいろいろ教えてもらうことになりました

「ひゃー。オグナ君と手を繋いでしまいました。これは死ぬ時まで手を洗えませんね」


自称天使が身悶えしている。


俺のドン引きしている視線に気づき、ロザリアはコホンと咳払いをして真顔に戻った。鮮やかな紅色の髪に、深紅の瞳、身に纏う衣装は白を基調としており薔薇を模した刺繍が随所に入れてある。顔立ちも端正で、スタイルも均整がとれている。黙っていれば美人、というやつだろうか。


「わたくしは天使と呼ばれた者の成れの果てです」


ロザリアの話を俺は小さな湖の畔で聞いている。座りやすそうな石が二つあったため向かい合いながら腰を下ろしていた。ダンジョンの底に出来上がった湖の湖面は黄金のように輝いていた。ロザリアから教えてもらったのだが、この水は神の血だった液体らしい。毒はなく、体に良いですよ?と言われたが、俺は丁重にお断りした。


「わたくしは『未来視』というスキルを持っています。『未来視』を使い、オグナ君が人間と魔物の共存を掲げ世界を救おうと奔走する姿をずっと視てきました。どうかわたくしにも協力させてください」

「あのさぁ、俺は人間と魔物の共存なんて掲げていないよ? 君が視たオグナとは別人じゃない?」

「そんな事ありえません! このわたくしがオグナ君のお声を! お顔を!  お姿を! 見間違えることなどあり得ません。謝ってください!」

「鬱陶しいな。少し落ち着いてよ」

「申し訳ございません」


シュンとした表情でロザリアが身を引く。良く分からないところにスイッチがあって、絡みづらい。俺も他人のこと言えないけどそれは置いておく。


再び神妙な顔に戻ったロザリアが話し出す。


「神が死に、世界が壊れてもわたくしの使命は変わりません。人間を救い、導くこと。ですが神の加護を失った天使にかつてほど力はありません。翼を無くし、天使の輪も見ての通りです。修復する力すらもう残っていません」


ロザリアは頭の上に浮いている金色の輪を指さした。輪にはヒビが入っている。その輪が本物かどうか分からない。天使と名乗る少女の言葉を俺は半分信じ、半分疑いながら聞いていた。だって、天使なんて見たことが無いから。


「それで、君はこのダンジョンの奈落で何をしていたの?」


俺の質問に、自称天使は胸を張って答えた。


「もちろん、オグナ君のサポートをするための活動です。人間と魔物の共存に向けて動いていました」

「つーかさぁ、人間と魔物の共存は天使的にどうなの?」

「はっきり言って、苦虫を嚙み潰すような気分です。魔物は人間を喰うために生まれた存在です。あれらは世界を壊し続ける諸悪の根源です。個人的には共存ではなく、根絶やしにしたいというのが本音です」


どこか危うい笑顔を浮かべ、ロザリアが断言した。


遠い昔、神々は人間を「我が子」と慈しみ、人間を守護するために天使を創造したと聞いている。天使は人間を助け導く存在であり、天使も生きとし生けるモノ達の中でも人間を愛していた。


人間贔屓の天使にとって、今の世界の在り方は許容できないのだろう。何せ十人中十人が、「近いうちに人類は魔物に喰い尽くされて絶滅する日も遠くない」と思っている。それほどまでに魔物は個の力が強く、数も無尽蔵と思えるほどに生まれている。知恵を持つ魔物が少ないのが唯一の救いだが、理性的で知恵を持つ魔物の存在も増えてきているという報告も上がってきている。


「悔しいですが、人類が魔物と戦っても種として勝ち目はありません。人類が生き残るには共存しか道がありません。そのためには魔王級の魔物の協力が不可欠です。ですから、フェンリルのところへとお願いしに参ったのですが」

「断られてしまった、と」

「ええ。『未来視』で見た限り、フェンリルは悪い魔物では無いと思ったのですけど」

「未来視でどんな未来を視たんだ?」

「フェンリルが傷ついた人の子を助けている姿です」

「それこそ見間違いだよ。フェンリルは恐ろしい魔物だから」

「うーん。そうかもしれませんね。わたくしの『未来視』は断片的な光景しか観れませんし。まぁ、共存に反対というのなら、やるべきことは一つですよね」


ロザリアは俺の手を取り、熱のこもった目で見つめてくる。


捲し立てられ困惑する俺に、ロザリアが無邪気に笑って言った。


「フェンリルは将来、オグナ君の障害となる可能性があります。わたくしが守護している間に殺しましょう。さぁさぁ、世界を救いに行きましょう。オグナ君とわたくし二人に不可能はありません」


この娘ヤバイ! 頭がいっちゃっている。きっと一人で戦い続けて頭がおかしくなってしまったのだろう。


「あのさぁ、俺はフェンリルを倒したいわけじゃないんだ。このダンジョンの奈落から抜け出す方法を知りたいんだ」

「それなら方法は二つあります。一つは、転移の魔法を使う方法」


転移のスキルなんて持っていない。転移のアイテムも持っていない。


「二つ目の方法はフェンリルを討伐することです。見たところオグナ君は転移が使えないようですし、フェンリルを倒すしか手段がありませんよ」

「いやいや、俺に魔王級討伐とか無理だから。俺は外れスキル『空気になる』を持つ雑魚だから」

「何を仰っているんですか? オグナ君のスキルは凄いじゃないですか。わたくしはオグナ君のことをたくさん知っています。嘘をついても通じません」


ロザリアが訝しむような表情で俺の目を覗き込む。


「あぁ、なるほど。オグナ君はご自身のスキルのことを何もお知りにならないのですね。でしたら、わたくしが教えて差し上げましょう。そのスキルのことはよく見知ってますので」


こうしてダンジョンの底で、俺は天使から教えを乞うことになった。

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