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ニート王子と凸のダンジョン⑥

「魔物の神の贄となれることに喜びたまえ。少年」


魔王アスラの視線は俺を捉えている。魔物の王として相応しいオーラを放っていた。


「俺達がこの世界にいれる時間は限られている。時間を無駄にせずに、早く人間の女を食い散らかそうぜ。無論、二つの意味でな」


魔王テムジンが吠えた。この狼男は魔物の癖に随分と人間じみた願望を口にしている気がする。


「ニンゲンヲ、コロセ、クエ、ウバエ」


魔王リリスが呟いている。こちらは魔物らしくも、人間らしくも無い。どちらかと言うとゴーレムのような機械的な喋り方をしている。


「「「眷属召喚」」」


三体の魔王が同時に叫んだ。


瞬間、無数の魔法陣が現れ、中から魔物の軍勢が現れる。


一つは、顔と腕を無数に持つ筋骨隆々な武装した武人の魔物が4体。武人達は魔王アスラの背後に一列に並んでいた。


一つは、青い魔狼の軍勢。魔狼達は魔王テムジンを中心に集まりこちらを威嚇している。


一つは、キメラの軍勢。キメラ達は魔王リリスを守るように立っていた。


召喚された魔物達はどれも魔将級の力を持っているだろう。


「おおおおおおおおおお」


魔王アスラの配下の一体が前に出た。そいつは雄叫びを上げ、俺に向かって突撃をしてきた。その手には剣が握られている。


剣が俺に向けて振り下ろされるが、『空気になった』俺の身体を素通りした。


「痛くも、痒くも無いよ」


隙だらけの魔物の首に向けて、風魔法を纏わせた短剣を振り抜いた。


「【剣風】」


ヒュッと短剣が空気を切り、風のやいばが放たれた。


風の刃によって武人が吹き飛ぶ。空中で回転した後、武人は華麗に地面に着地した。傷一つ付けることが出来なかった。これは俺の中では上から2番目に強い必殺技なんだけど。


「スキル『魔剣術』【呪剣】」


武人は技名を唱えた後、一飛びで俺のとの間合いを詰めた。


呪いを纏った剣が俺に突き出された。


危険な空気を感じとり、俺は呪いの剣を回避した。


「ふむ。勘は鋭いようだのう。今のを食らえばいくらお主が空気でも呪いに蝕まれていただろう」


武人が説明をしてくれた。


「さて、我ら4人の攻撃を回避できるかのう?」


アスラの配下の魔物達が剣を構えて、【呪剣】を繰り出そうとしていた。


「させませんよー」


ヒルダが【草薙剣】を顕現させ、黄金の津波を繰り出していた。


津波がアスラ達に襲いかかる。


「おいおいおい。俺を無視すんなよなぁ。下僕達よ、『地獄の業火』で薙ぎ払え」


魔王テムジンの配下達が魔狼系最強のスキル『地獄の業火』を放ち、津波を打ち消してしまった。


「へぇ、面白いスキルを持っているのねぇ。そのスキル、私達によこしなさい。スキル『アダム』【技術特異点】。さぁ、イドラ兵よ。進化なさい」


イルミが叫ぶと、霧の中からイドラ兵が10人現れた。イドラ兵はイルミのスキルによって魔将級の魔物タロスへと進化し始める。


「スキル『魔物ノ聖母』。魔将タロス。自害ナサイ」


魔王リリスが命じると、タロス達は腕に括り付けられた大砲で自分自身の頭を吹き飛ばし始めた。


「魔物を洗脳するスキルのようね。おそらく格下の魔物を操るってところかしら?」


自身の部下が死んでもイルミは冷静に現状を分析していた。


「これは、詰んでるんじゃないかしら? お父様」


霧の向こうへ呼びかけるようにイルミが言う。


彼女の言う通りだ。現状、魔王ではなくその配下達にすら苦戦している。魔王にまで参戦されたら勝ち目が無いだろう。


冷汗が流れた時、ツンツンと俺の腕が突かれた。


振り向くと、ヘルナが慈愛に満ちた顔で微笑んでいた。


『私の祈りは届いていますか? 叔父様』


頭の中で、少女の声が響いた。それはヘルナの声のようだった。


『ようやく、私の祈りが届いたようですね。ここは私に任せてもらえませんか?』


ヘルナからの言葉が届いた。


「一体、何をするつもりだ?」

『私にできるのは、祈ることだけです。私は凸のダンジョンからイドラ帝国を救うために祈りにきたのかですから』


ヘルナは堂々とした足取りで、魔王達の前に歩いて行った。


「何だ? このガキは?」


アスラの配下の魔物がヘルナを睨んだ。


ヘルナは慈愛に満ちた笑みを浮かべた後、目をつぶって両手を組み合わせ祈り始めた。


「大したスキルを持たないガキか。目障りだ。死ね」


魔物が剣を振りかぶり、ヘルナ目掛けて切り掛かる。


刹那、ヘルナの口元が釣り上がる。


顔を真横に割らんとばかりに口を広げて、ヘルナは邪悪な笑みを浮かべる。


「貴様達如きが、この娘を傷付けることは許されぬ」


ヘルナの口から低いおどろおどろしい声が飛び出した。


地面から不可視の手が伸びて、尋常でない力で魔物達を捕まえ地面へと抑え込む。


「なんだ?これは?」


さすがに魔王三体は地面に伏すことは無かったが、警戒した表情でヘルナを見ていた。


ヘルナは魔王達を見て鼻で笑う。


「ふん。ガキどもよ。心して聞くが良い。我の名は巨人の王ロギン・ウトガルア。そしてこの娘は『巨人の王の巫女』である。この娘には我の名を受け継ぐことを今から許可することにした。故に今からこの娘は、ヘルナ・ロギン・ウトガルアである」


ぐらぐらぐらぐらぐら


大地が揺れる。


ごごごごごごごごごご


帝都マヅダールを包む霧が揺れ動く。


「【超重力砲】」


ヘルナの口から言葉が出る直前。


その時の俺は知る由も無かったが、帝都マヅダールから遥か南。


ベルグンテル王国の最南端ラグナの街より更に南に位置する果てなき砂漠から、一人の巨人が立ち上がったと言う。


天を貫くほどに巨大な緑色の巨人はロギンの本体である。


ロギンは遥か北を睨みつけ、霧に覆われた帝都に焦点に合わせてから、顎が外れんばかりに口を広げた。


大地の気を吸いながら【重力操作】を開始した。目の前で重力をかき集め、極限まで圧縮して小さなブラックホールを生成する。


巨人の王は、小さなブラックホールを霧の帝都目掛けて射出した。


綺麗な放物線を描いた後、超重力砲は魔王とその配下に直撃した。


直撃後、ブラックホールと化した超重力を爆弾が爆発するように撒き散らした。


「さぁ、ラグナロクを再開しよう」


シスター姿をした巨人の王の声だけがマヅダールに響き渡った。

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