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ニート王子と凸のダンジョン③

イドラ帝国の帝都マズダールのとある宿にて。


寝てる暇なんて無いと言い張るヒルダを説得して、仮眠をとった。


浅い眠りだったが、夢をみた。


夢の中で俺は、黒い泥の上に立っていた。俺の目の前に、白い鳥が浮かんでいた。


『気をつけろ。近くで世界(ティストラ)が君を観ているぞ』


白い鳥の警告。


『邪悪な世界(ティストラ)と戦うのか、世界(ティストラ)を受け入れ守護者となるか、それとも気付かぬふりをしてただの操り人形となるか。君はいずれを選択する?』


白い鳥の問いに答えようとしたところで、目を覚ました。


すでにヒルダもヘルナも起きており、準備万端だった。


「おはようございます殿下。それでは、イドラ帝国を救いに行きましょうかー」


軽い口調でヒルダが言った。


『空気になる』を使いながら、お金だけ置いて俺達は宿を出た。


宿屋の主人も女将も俺達には気付かない。


宿を出ると、辺り一面は真っ白だった。帝都マズダールは常時霧に包まれている。そのため霧の都とも呼ばれているらしい。


「にしても、殿下のスキルが無ければ宿に泊まることもできなかったでしょうねー」


白い霧の中、ヒルダは近くの壁の張り紙を見つめていた。


『超人に非ずんば、人に非ず』


『只人に生きる権利無』


『神話主義のベルグンテルを許さない』


超人主義者達の主張で帝都は溢れ返っていた。


超人主義を掲げるイドラ帝国において、超人ではない普通の人間に人権は与えられない。比喩でも無く、言葉通りの意味で。


帝国内では『超人』のスキルを持っていることを証明し、超人として認められなければ戸籍も取れず、売買すらもさせてもらえない。万が一、イドラ帝国の中でただの人間がいたならば即捕まり、無理矢理にでも超人になるための薬が投与される。超人になることに抵抗しようものなら殺されることもあるという。


「7年前はここまで酷くなかったんだけどなぁ」


イドラ帝国としては、『超人』は素晴らしいので、人類全員超人化しましょう。というか、全人類超人化はマストです。そんでもって神は死にましたので神様の遺物は捨てましょう。『神様のスキル』を持っているなんて言語道断。そんな輩、見つけ次第殺しましょう、というスローガンが貼ってある。傍迷惑なことに、この国は清く正しい使命感のもと超人化を押し付けて来るのだ。


「ガチガチの超人主義国家で、反神話主義のど真ん中。神様のスキルを持つ殿下の存在がばれたら、大変なことになりそうですねー。万が一に備えて、殿下には使用人のふりをしてもらいまーす」


ヒルダにそう言われ、俺はまたまた3人分の荷物を押し付けられた。もしかして、俺虐められてる?


「殿下ー、猫背にならないでくださいよー。そんなやる気の無さそうな顔もやめてくださーい」


無理矢理ヒルダに、背筋を伸ばされるが、なんかすぐに猫背に戻ってしまう。


正直、背筋なんて伸ばしたく無いんだよね。ちょっとでも存在感を消すために猫背になっているんだ。


「ヘルナさんもそう思いませんかー?」


隣にはシスター姿の少女ヘルナがメモ帳に絵を描いている。彼女は言葉が喋れないようで、筆談で意思疎通をはかることが多い。


ヘルナはメモ帳を俺達に見せた。


親指を上げた絵。所謂サムズアップの絵文字が描かれていた。同意という意味だろう。


「いやいや、俺の『空気になる』があれば見つかることは無いよ、多分。と言うか、お前たちの方が明らかに目立つ格好してるんだから気をつけてね」


俺が指摘をすると、2人は互いに顔を見合わせてから首を傾げた。


メイドに、シスターの組み合わせなんて聞いたことないよ。目立つことこの上ない。


「大丈夫ですよ、殿下。だって帝都の皆さんは個性的な人ばかりですからー。アタシ達は全く浮いてないですよー」


俺も周りを見る。


濃い霧のせいで遠くまでは見えないが、霧の中から現れては消えていくようにすれ違う超人達は異様な姿形をしていた。


額に角が生えている者。


巨人の如く巨大な大男。


動物園かと思えるほどに多種多様な姿をした者達がいる。


「超人は魔物を食べて己にスキルを取り込むと聞きましたが、その副作用でしょうかー?」


『超人』スキルは、魔物を取り込むことで魔物のスキルを奪うことができる。魔物のスキルを体現するために、本人の容姿に変化が生じると考えれば妥当かもしれない。


あまり、考えたくないけどね。


「神は死に、信じられるのは己のスキルのみ。この世のあらゆる不幸は、スキル不足に起因する。スキルを増やせ。スキルを奪え。スキルを限界まで伸ばせ。そして、突破しろ」


超人達の多くは、取り憑かれたように、皆がそのようなことを呟いていた。


「超人の人達って魔物みたいで可哀想ですねー」


ヒルダが呟く。


ヘルナがメモ帳にサムズアップを書き込み同意していた。彼女は初めて来る場所に来てワクワクしている子供のようにはしゃいでいる様子だ。まぁ、ヘルナは子供なんだけど。


「そう言えば、ヘルナ。君のスキル『祈る』は神器の声を聴くことができるらしいね。近くに神器はあるのかな?」


俺が質問すると、意外にもヘルナは頷いた。


反神話主義のイドラ帝国は神の遺物を廃棄する運動を推し進めている。てっきり、帝国内の神器は一つ残らず処分されているものと思っていた。


ヘルナがさらさらとメモ帳に書き込み、俺達に向けてメモ帳を開いた。


『おそらく強力な神器であるが故に廃棄することの出来なかった神器が一つあります。まずは、神器があるところに行ってみませんか?』


ただ街を歩いているだけで、神器を特定してしまったようだ。さすがはベルグンテル王国神話研究員と言ったところか。


神器があれば大幅な戦力増加が期待できる。俺達はヘルナの提案に乗ることにした。


ヘルナに案内されしばらく歩いていると、霧の中から大きな盾が現れた。盾は地面に突き刺さっていて、二階建ての家くらいの大きさがあった。


『あの盾が神器です』


ヘルナが教えてくれた。


盾の周囲に超人達が集まり、殴ったり蹴ったりしていた。


どうやら神器である盾を破壊しようとしているように見えた。


「どうして、あんなに必死な形相で神器を壊そうとしているのかな?」


壊したら報酬でも出るのだろうか、と思っていた時だった。


「本能だよ」


背後から声がした。


振り向くと男が立っていた。男の顔の中心に目玉が一つだけあった。所謂一つ目男だ。


「超人達は神の遺物を本能的に恐れている。故に、神の遺物を怖そうとするのさ」


一つしか無い目玉で、『空気になっている』はずの俺たちにしっかりと焦点を当てていた。


「そして、超人にとって『神様のスキル』は天敵だ。何としても排除しようとするだろう」


男は意地の悪い笑みを浮かべた後、大声を出した。


「神様だー。『神様のスキル』がここにあるぞー」


声が木魂する。


ヤバイ空気を感じて、盾の神器の方へと顔を動かす。


ぐるり、と音を立てて盾の神器に群がっていた超人達が俺達に視線を向けていた。


何故か、彼らに俺のスキル『空気になる』が通じていなかった。


「只人だ。只人がいる。大変だ。超人にしてあげないと」

「いや、待て。あれは人間じゃない。『神様のスキル』を持った災害だ。生かしてはおけない。殺さねば」

「神を殺せ。神の遺物を壊せ」


超人達は血走った目をしながら、殺せ、壊せと叫んで俺のもとに襲いかかってきた。


巨人のような体躯の大男が俺のもとに一番に辿り着き、目にも止まらぬ速さで斧を振り下ろした。


ガツン。


斧は俺の身体をしっかり捉えたが、肉を切る音も肉を断つ手応えも無く、空気を切るように俺を素通りして地面にぶつかった。


「文字通り『空気になった』俺に物理攻撃は効かないよ。はい、お返し」


俺は短剣を鞘に収めたまま、大男の額目掛けて投げつけた。短剣は俺の手元から離れた瞬間、スキル『空気になる』の力が解除される。


短剣の鞘が額にクリーンヒットし、男が倒れた。


大男を倒しても、他の超人達が怯むことは無かった。


「神を殺せ。神の遺物を破壊しろ」


超人達は憎悪に満ちた表情を浮かべ、ぶつぶつと呪文でも唱えるように殺せ、壊せと呟き、俺に躙り寄る。


「数が多いなぁ。面倒だからまとめて片づけようかな」


俺はやれやれと呟きながら、スキル『空気になる』で周囲の酸素を操る。


「っ。ぐが」


突然、俺に近づいていた超人達が首に手を当てのたうちまわり始めた。


超人達はまるで水底に落とされたかのように、必死になって息を吸おうともがいていた。


「君達の周りに酸素は無い。今後、俺に危害を加えないと言うなら、酸素をあげるけどどうかな?」


俺が提案するも、超人達は誰1人頷いてくれなかった。


仕方ないので、意識が飛ぶまで彼等には苦しんでもらった。さすがに殺しはしないけど。


超人を全て気絶させた後、一つ目男を探したか既にその場にはいなかった。


「殿下ー、えげつないですねー」


ヒルダにドン引きされ、ヘルナにも『酷いです』と注意されてしまった。


正当防衛しただけなのに。


ちょっと凹んでいると、どこからか鐘の音が聞こえた気がした。


カーン、カーン、カーン


霧の向かうから、鐘の音が鳴り響く。


「どうやら、凸のダンジョンの突撃が始まるみたいですねー」


呑気な声を出すヒルダは鋭い目で霧の向こうを見ていた。

誤字報告下さった方ありがとうございます。

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