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ニート王子と凸のダンジョン

「殿下ー、朝ですよー。起きてくださーい」


泥のように眠っていると、ヒルダの声で目を覚ますが、気づかないふりをして布団にくるまる。


「とっとと起きて仕事をしてくださーい」


昨日の夜は、やるべきことがたくさんあって遅くまで起きていた。今日くらい寝すぎても罰は当たらないだろう。俺は夜型人間なのだ。朝は弱いのだ。眠気に勝てない。もしかしたら、朝は眠くなる呪いがかけられているのかもしれない。


「起きてくださいよー。起きないと、隠してあったエッチな漫画捨てちゃいますよー」


がば。


一瞬で目が覚めた。ベッドから飛び起きると、メイドが笑みを浮かべていた。目が笑っていない。


メイドの背後には俺が密かに集め、隠していた漫画が置かれている。表紙にはピンク色の髪に、ピンク色の衣装を着た少女が描かれている。


少女の名はミラ。


漫画のヒロインで、俺の初恋の相手だ。


彼女を好きであることは極秘情報として押し入れに隠していたのに、ヒルダに見つかってしまったようだ。


「ようやく起きましたかー。でも残念ですが、時間切れでーす。処分しちゃいますねー」


虚空から『聖剣』が現れ、ヒルダが柄を握った。瞬間、漫画は細切れになってしまった。


そこまですることないじゃん。


バラバラになった紙吹雪が地面に落ちていく。


走馬灯のように、記憶が蘇る。


年齢はしっかりと覚えていないが、あれは8歳くらいだったと思う。


一目惚れだった。


紙面上で彼女を見た時、衝撃を受け、目が離せなかった。


彼女と恋人になれたらどれだけ良いか。不毛にもそう願った。


けれども王族という立場上、自由恋愛は許されない。彼女の身分は平民で、俺は王子様。身分違いの恋。僕と彼女は言わばロミオとジュリエット。ミラ、あぁ、どうして君はミラなんだ?


ちょっと興奮しちゃったよ。ごめん、ごめん。


兎にも角にも、現実的に、そして物理的に二次元のキャラクターと付き合うことはできない。


想いを伝えることすらできず、かと言って、王子の俺がちょっと肌色が多い漫画を欲しいなんて口が裂けても言えない。


しかし、彼女が好きだ。ずっと一緒にいたい。


王族の優秀な脳みそをフル稼働させた俺は、とある妙案を思いついた。


あたかも偶然を装い、わざと漫画に少しお茶をかけ汚し、「申し訳ないから買い取る」と言って、濡れた漫画を手に入れたのだ。


思い出すと、キモイな。


王子様に相応しくないエピソードだ。この黒歴史は永遠に忘れることにしよう。


ミラちゃん。さようなら。今までありがとう。


「殿下はあんな感じの女の子が良いんですかー? 全然、アタシとタイプが違うじゃないですかー?」


不機嫌そうな口調で、ヒルダに訊かれた。


俺は肩をすくめて、知らん顔をして答える。


「というか、さっきの漫画、俺のじゃないし。昔、たまたま拾っただけだし。捨てるのもあれだったからとっといただけだし」


咄嗟に、嘘を吐いた。


ニートだけど俺は王子だ。王子としてのブランドイメージを汚してはいけない。泥だらけのブランドだけど。


ライルほど上手ではないが、ここは嘘を吐き通す以外道は無い。


「バレバレな嘘はやめてくださよー。夜な夜な殿下がエッチな漫画を持って、いろいろやっているの知っているんですよー」

「いや、そうだっけ? 寝ぼけてたから覚えてないなぁ」


ヒルダの指摘に動揺を隠しながら、苦し紛れにとぼけてみた。


これはもう敗北を認めた方が良いかな?


「まぁまぁ、ヒルダさん。アイドルのプライベートの詮索は良くありませんよ」


音も無く、青のダンジョンに派遣されているはずの天使ロザリアが俺の部屋へと現れた。


青のダンジョンまでかなりの距離があるが、ロザリアと俺は『天使召喚』スキルを通じてパスが構築されているため、一瞬で俺の元まで来れるらしい。


便利だけど、突然、来られるのは心臓に悪い。俺も男だし、見られたく無いことはたくさんあるのだ。


ロザリアはヒルダへと顔を近づける。


「ヒルダさん。漫画のキャラクターに嫉妬しているんですね? 可愛らしいですわ」

「ロザリアさん。意味わからないことを言わないでくださいねー。マジで、いつか斬ってしまいますよー?」

「照れ隠ししているのも、可愛らしいですわ。そう思いません? オグナ君」


ロザリアに訊かれ、俺は話題を変えるチャンスだと気づく。


「そんなことより、ロザリア。こんな時間に来るのは珍しいね。『未来視』で何か観えた?」


ロザリアは『未来視』と呼ばれるスキルを持っている。彼女の『未来』を視るスキルのおかげで先日も、『ウトガルドの乱』を事前に察知することができたのだ。


俺の質問にロザリアは満面の笑みを咲かせて言う。


「あぁ、そうでしたわ。新しい未来が観えましたのでお伝えに参りました。明日、凸のダンジョンが10年ぶりに出現します」

「凸のダンジョンって、どこからともなく現れては消える傍迷惑な転移型のダンジョンですよね?」

「さすがはヒルダさん。よくご存知ですね。凸のダンジョンが出現しますのは、イドラ帝国の帝都のど真ん中。帝都は魔物達によって滅茶苦茶にされてしまいますわ」

「ふーん。可哀想に。凸のダンジョンの魔物達はどいつもこいつも強いらしいからなぁ」


そんなことを口にしながら内心ホッとしていた。遠い異国での出来事で俺には関係無い。むしろ、凸のダンジョンの出現でイドラ帝国の帝都が大ダメージを受けてくれるとベルグンテル王国的にも助かる。


「これは好機ですわ。オグナ君」


ロザリアが俺に言う。その言葉の意味が分からず俺は首を傾げた。


「凸のダンジョンに突撃され滅茶苦茶にされるはずの帝都の未来をオグナ君が救うのです。さすれば、オグナ君はイドラ帝国の英雄となり、ベルグンテル王国とイドラ帝国が戦争する未来も回避できるかもしれません。そうなればきっと、今度こそオグナ君をバッドエンドから救えるかもしれません」


後半のロザリアの話は意味不明ではあったけど、彼女が俺に対して、ダンジョンを攻略して来いと言っているのは分かった。


無理だよ、そんなの。ニートの俺に。


俺は布団にもう一度くるまり現実逃避を試みる。


「殿下ー。起きてくださいなー。楽しい愉しい地獄が始まりますよー」


ヒルダの声が聞こえるが、俺は聞こえないふりをする。


「諦めてくださいさいねー。戦場に身を投じるのは、殿下の前世からの宿命なんですよー。前世の宿命からは逃げられません。無論、アタシもですけどー」


ウキウキとしたヒルダの声が、何故か妙に頭の中に響いた。

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