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ニート王子、天使の推しになっていたようです

むかし、むかし、神世と呼ばれていた時代。


神々が死んで終末が始まる少し前に最後の天使ロザリアは誕生した。


最後の天使が創る火は薔薇のように美しいと神々は褒め称えた。光沢のある銀色の翼と、頭の上に浮かぶ金色の輪から放たれる神々しい輝きを見て他の天使たちが羨んだ。人間達は燃えるように揺らめく髪と、陶器のように白い肌を持つ美しく神々しい少女の姿に魅了され彼女を崇めた。


そんな彼女の趣味は未来を視ることだった。彼女は暇を見ては、『未来視』でたくさんの時代を覗き視ていた。暇を見てはというか、何時間もずーっと食い入るように眺めているのだ。


何を観ているのか、姉である天使が不思議に思って訊ねた。すると彼女は珍しく顔を赤らめながら答えた。


『未来に生まれる一人の人間を観ています』


天使のお前が注視するその人間とはどんな奴なのか、姉が質問する。


『実を言いますと、ほとんど分かりません。『未来視』はわたくしの視たい未来を見せてくれませんし、視える未来は断片的なのです。おまけに彼の未来は何故か空気のように存在感がなくてはっきりと視えません。ですが視えた映像から推測するに、可哀想な人だと思います』


そんな人間のことを飽きもせず観ていて何が楽しいんだ? と姉は呆れた。


ロザリアは満面の笑みを咲かせて言った。


『わたくし、悲劇を見るのが好きなんです。彼こそが悲劇の主人公なんです』


趣味が悪いな、と姉が非難するような口調で言う。


ロザリアは心外だとばかりに言い返した。


『勘違いしないでください。悲劇の中で悶え苦しむ彼に惹かれたのは確かですが、それだけではないのです。わたくしは、悲劇をどうしたらハッピーエンドに変えられるか妄想するのが好きなんです。確かに、彼の人生は悲劇でしかありません。彼はたくさんの努力をしていました。たくさんの人を救おうと足掻いていました。だけどどんなに頑張っても彼の行いは誰にも気づかれない。唯一の武器であるスキルは皆から役に立たないと馬鹿にされています。それでも彼は誰かを救おうと茨の道を歩くのです。わたくし、彼の悲劇をハッピーエンドに変えてあげたいんです。彼のことが大好きなんです。決めました。わたくし、彼の守護天使になります』


お前の使命は全人類を救うことだろうが、と姉が窘める。


『彼の悲願も人類を救うことにあります。彼の守護天使になることこそが、人類を救うことに繋がるのです』


ロザリアがそうしたいのなら別に止めないけど、と前置きしてから姉は妹がご執心な人間の名を訊いた。


『オグナ・アウラ・ベルグンテル。神々が亡くなった後の世で、人間と魔物の共存を訴えた王です』


胸を張り誇らしげに、推しの名を告げた。


それからロザリアは『未来視』でオグナの未来を視続けた。正直なところ、オグナの未来は空気のようにボンヤリしていて探すのに苦労ばかりだった。彼のスキル『空気になる』の力が『未来視』を妨害し、彼がいつ生まれるのか特定することすら困難だった。でもまぁ、好きになってしまったのだ。どんな苦労だって耐えられる。


努力を惜しまず彼女は『未来視』でオグナの未来を探し続け、魔法を駆使して1000本もの彼の動画(短めの動画で時々音声有)を編集し作成した。もちろん天使の仕事も一生懸命やりながらだ。


プライベートの時間で好きなアイドルの写真や映像を集め鑑賞して何が悪い!

愚かにも崇高な趣味を理解できない同僚の天使たちにはそう言って噛み付いた。


オグナの未来映像を集めるのと並行して、『未来視』で別の情報も集めていた。それは魔物についてだ。神の残した『遺言』から生まれた魔物達は人間への殺意が魂に刻まれている。どうしたら魔物と人間が共存できるのか、そのヒントとなる未来を探し続けた。オグナのために何かしたいと考えた末の行動であるが、手がかりとなりそうな未来は視えなかった。


時が流れ、時が流れ、時が流れ、時が流れた。


ついに神々が死に終末が始まった。魔物が世界に解き放たれた。


『結局のところ人と魔物が共存するために何をすれば良いか、未来を視ても分かりませんでした。ですがまぁ、大切なのは今からです。オグナ君をサポートするために今を頑張ることにしましょう』


そう意気込み単身、魔物達に人間との共存について説いてまわった。当然のことながら、彼女の言葉に耳を傾ける者は一匹もいなかった。多くの魔物(特に位の高い者)は天使を敵だと判断し、攻撃を仕掛けてきた。やむ無く反撃した。結果的にたくさんの魔物を殺してきた。


『人を殺せ。人を喰え』


神の『遺言』が響く中、何千もの魔物を倒した。戦う度に天使の力は少しずつ失われ、気づけば天使の翼も消え、天使の輪にはヒビが入った。何をやっても上手くいかない日々。それでもロザリアは魔法で自作したオグナの動画を視聴し、奮起した。


ふと、ある魔王の姿が頭に浮かんだ。


魔王フェンリル。人間を喰わない魔物。『未来視』でフェンリルを視た時も、怪我をした人の子を看病している映像があった。


『きっとフェンリルは、人間と友好的な魔物なのでしょう』


意気揚々とフェンリルが棲む青いダンジョンまで行き、人間と魔物の共存に協力するよう依頼した。


『断る!』


フェンリルに無碍なく断られたばかりか、他の魔物同様攻撃された。


(全然、良い魔物じゃないですね)


ロザリアは彼女の最も得意とする神聖魔法【聖火】を聖槍に纏い応戦した。だが、永い時間の中で力を失い続けた彼女ではフェンリルに力が及ばなかった。


魔王級の『地獄の業火』を浴び、ボロボロの身体は耐えられそうにない。


(このまま死ぬわけにいかない。せめてオグナ君の生の姿を見るまで死ぬことなどできません!)


心の中で叫ぶも、身体に力が入らない。というかそもそもオグナがいつ生まれるか正確な時までは『未来視』でも分からなかった。もっと先の未来かもしれない。己の身体はもう長く持たないことも理解している。オグナの誕生までこの身体が持たないかもしれないと思った途端、身体から力が抜けた。


地面に蹲っていた。


もうダメか、そう思った時。


「どうも、初めまして俺はオグナ」


聞き覚えるの声と共に、脳裏に焼き付いた灰色の少年が忽然と姿を現した。


夢にまで見たその姿に天使ロザリアは一瞬、昇天しそうになった。


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