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オオカミ少年かく語りき⑪

唐突に口を挟んで悪いけど、この俺オグナ・アウラ・ベルグンテルの愚痴を聞いてくれ。


時間を少し前に戻して話そう。


音のダンジョンをぶっ壊し、対魔連合の影の盟主ミカエルと対帝国同盟を口約束でした後。


俺の守護天使ロザリアが、南で巨人の王が目覚めると騒ぎ出した。


未来視を持つ彼女の言葉を重く受け止め、ベルグンテル王国存亡の危機だと父であるベルグンテル国王セリムに俺は報告した。報・連・相は、社会人の基本だからね。まぁ、俺はニートだけど。


そんでもって、ラグナの街で巨人復活を阻止するためにまず神話研究員を派遣する必要性があると提言した。


するとセリム国王が一言。


「現在、神話研究員は人造現人神計画で手が離せない。ニートであるお前が何とかしろ」


何とかしろと言われても、俺では何とかできないから、こうして人手が欲しいと頼みに来ているのだ。そもそも影の薄い王子に人望は無い。悲しいことに俺の命令を聞いてくれる兵士なんてどこにもいない。


「ライルがいるだろ。ライルを神話研究員に任命する。あやつに手伝ってもらえ」


王の鶴の一言。


俺は神話研究員の証明書を携えてライルに直接届けることになった。王子の俺が何でわざわざ届けるの?と疑問に思うかもしれないが、それほど人手が足りなく、俺に人望が無い。まぁ、俺は『空気になる』ことで風に乗り、飛行できるから一番手っ取り早いってのもあるけどね。


ライルに会い、神話研究員の肩書を与えてから、ラグナで巨人について調査するよう命じた。


「そんなの僕一人じゃ無理です。殿下も手伝ってください」


と言われ、仕方無くライルとフェリに同行することにした。王子の俺がどうしてそんことをしなくちゃいけないの?って思ったけど我慢してね。


三人で旅するのは、まぁ楽しかったよ。


人と魔物のハーフであるライル、魔物であるフェリがこの世界について思っていることを聞けたのは大きかった。


あと、どんだけ夜更かしして漫画読んでいても注意してくるメイドはいないのも良かったね。それから、どれだけ寝てても怒られないのも最高だった。ライルからは少し小言を言われたけど、何だかんだでライルは「仕方ありませんねぇ」と許してくれるし、色々世話も焼いてくれる。


でもさぁ、宿屋のベッドは固いし、寝にくいんだよね。俺は眠るのが好きだから、良質な睡眠を取りたいのに、誰もそれを理解してくれないんだよねぇ。


ごめんね。急にこんな愚痴ばかり言って。


『眠り、夢を視ることで、ここに到達できる。夢を視ることは神の力を継承した貴様にとって重要な責務だ。貴様からそれを妨げるものは愚者か、あるいは、貴様の心を真に案じているかのどちらかであろうな』


暗い空間から身の毛もよだつような低い声が聞こえてきた。


俺の目の前に漆黒の泥沼が広がっている。その泥は集合的無意識と呼ばれる泥沼だ。


集合的無意識と意識の境目である岸辺に俺は立っている。


『人も、巨人も、魔物も集合的無意識を裡に抱えている。集合的無意識の意思を正しく認識する者は、

人にも、巨人にも、魔物にも必要であろう?』


暗い泥沼からおぞましい声が響き渡る。


その声の主の名はロギン・ウトガルア。巨人族の王である。


俺は巨人との闘いの最中、突然眠気に襲われ、情けないことに眠ってしまったらしい。


気付いたらここにいて、『冥王』ロギンに話かけられた。


敵の大将と雑談を現在進行形でしているところだ。


「残念ながら、今の人類に集合的無意識の意思を尊重しようと考える者はほんの一握りなんだ。だから、集合的無意識の声を聞こえることは人間が生きる上で何のアドバンテージにもならない」

『ふむ。ならば、『祈り』を通じて、集合的無意識の声をわずかであるが聞くことができたラグナの民はさぞ苦労したであろうなぁ』

「そうだね。ウトガルド兄様は特にね」

『ウトガルドか。奴は巨人族の血を引きながら、我を利用しようと企む裏切り者だったが、その境遇には同情の余地はあるだろう』

「ウトガルド兄様の娘であるヘルナが死んでから、おかしくなったんだよね?」


俺と敵である『冥王』ロギンは他愛無い会話を脈略も無く続けている。


『ウトガルドの願いは、巨人族の血を引くラグナの民が、神々の血を引くベルグンテル王家に認められることであった。そのために文字通り命がけで、働いていた。虐げられていたウトガルア族の地位向上。そのために、実の娘ヘルナをベルグンテル王国神話研究員にして働かせ、ヘルナも父の願いを叶えるために懸命に働いていた』


突如、集合的無意識が揺れた。


その振動は『冥王』ロギンの怒りを表しているようにも感じた。


『だが、ベルグンテル王国は巨人族の血を引くヘルナを正統に評価しなかった。そしてラグナの民はヘルナをラグナの裏切り者だと罵った』


泥沼の上に一人の見覚えのある少女が立っていた。


それはシギンが車椅子に乗せていたヘルナと呼んでいた遺体とそっくりだった。


ヘルナと思われる少女は、目を欄欄と光らせ、顔が裂けんとばかりに口を開く。人間とは思えない異様な気配を纏い、ヘルナが言う。


『それでも、ヘルナは誰を恨むことは無かった。ラグナとベルグンテルが手を取り合う未来を夢見て、己のスキルを酷使し続けた結果、死に至った。哀れな娘だ』


ヘルナからロギンの声が発せられた。その声は、嘲笑っているようにも、激怒しているようにもどちらとも取れる響きを孕んでいた。


「哀れでは無い、と思うよ」


特に考えもせず、そんな言葉が出てしまった。


『哀れでは無い? 誰にも認められず、己の夢も叶うことなく、無念の中で死んだこの娘がどうして哀れでないと、貴様は思う?』

「漫画で読んだから、ね。魔法少女ヘル。知らない? ウトガルド兄様が描いている漫画だよ」


最近はまっている漫画の名前を告げた。


ウトガルドが連載中の漫画の主人公ヘルはおそらく、彼女の娘をモチーフにしていた。あらゆる困難にヘルが諦めずに戦っていく物語だ。ウトガルド兄様が何を思って漫画を描いていたのか分からないけれど、漫画を読むたびに、ヘルが頑張っている姿を見るたびに勇気が湧いてくる。


多分、ウトガルド兄様の『諦めるな』というラグナの街へのメッセージだと俺は思っているけどね。


「漫画の主人公であるヘルの元がヘルナであったならきっと、死ぬ間際も絶望なんてしていないよ。むしろ、死んだ今でも、まだ諦めてないんじゃないかな」


俺が根拠の無い予想を述べると、ヘルナから異様な気配が抜け落ちた。


まるで憑き物が落ちたように、少女は慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


ヘルナの姿は泥の中に溶けるように消えてしまう。


『ふん。アウラの血を引く貴様達は、我には理解できんな。まぁ、良い。所詮、ここでの問答はただの暇つぶしだ。我は、また敗北したのだ。ここで我の想いを、怒りを、願いを、貴様達にぶつけはするが理解して貰えるとは思ってはおらん』

「敗北した?」

『あぁ。あの裏切り者ウトガルドと、『神様のスキル』『巨人殺し』に謀られた。現在、我はライルとか言う『嘘吐き』に力を奪われている。貴様も早く目覚めないと、ウトガルドと『巨人殺し』によって世界(ティストラ)を壊されるぞ』

「あぁ、そうなんですね。なら、早く起きなければ」


ロギンの言葉に、俺は何一つ疑問が湧かなかった。むしろ、「なるほど。さもありなん」と納得してしまった。それは俺が集合的無意識に触れて、観える景色が広がっているからなのだけど。


兎にも角にも、早く目を覚まさなければ。でも、どうやって目覚めればいいんだろ?


『神の子孫である人の子よ、教えてやろう。我の国ウトガルアは、それはそれは凄い国であった!


ロギンが叫んだ。


『異界の魂を受け継ぐ者よ、教えてやろう。ウトガルアは、山よりも高い建物を瞬く間に造ることができた。移動は空飛ぶ馬車を走らせることができた。食べる物は世界一美味かった。巨人は神よりも美しかった。我が国は世界のまほろばであり、世界のどこよりも美しく、世界のどこよりも発展していた!』


ロギンの言葉を聞いた瞬間、まほろばと呼んだ国の景色が観えた気がした。


それは一瞬の出来事であったが、言葉にできないほど素晴らしい場所だったのだなぁと思える風景だった。


『だが、我が国に足りぬモノがあった! オグナ・アウラ・ベルグンテルよ、教えてやろう。我らに足りなかったモノを。それは、集合的無意識から『宝』を掘り出すスキルであった!』


ロギンの叫びが集合的無意識に響き渡る。


彼の言葉が意図することを俺は理解できた。


人は、世界からたくさんの『宝』を発見してきた。


その『宝』とは、文字通り金や銀のような宝でだけでなく、技術であったり、知識だったりと形無いものも含まれる。


そして、人も、巨人もまだまだ手付かずの鉱脈がある。


その鉱脈の名前こそ、集合的無意識。


思考を巡らしていると、『冥王』ロギンのおぞましい気配が消えていた。


ロギンが去ったことに安堵した、まさにその時。


『とはいえ、そう簡単にここから『宝』を掘り出すのは簡単ではない。今はまだ目に映る、目の前の問題に注力した方が良いよ』


耳元で声が聞こえた。


びっくりして、声の方に顔を動かすと、俺の肩の上に白い小鳥が乗っていた。


『やぁ、初めまして。私の名は日本武尊(ヤマトタケル)。君の前世のようなものさ』


小鳥が名乗った。


『ベルグンテル王国と『平家』の生き残り達によって、私はこの世界に呼び出され、オグナ・アウラ・ベルグンテルとなった。『平家』も何を想って私なんかを呼び出したのか分からない。でもまぁ、折角御呼ばれしたんだ。私の願いも君に叶えてもらえると嬉しいな』

「願い? それは」


俺が聞き返そうとすると、小鳥は翼を広げて飛び立った。


『それはまた後で教えよう。それよりも、君にはすべきことがあるだろ?』


小鳥を追って、俺は泥沼に飛び込んだ。


「すべきこと?」

『巨人の討伐。巨人を倒して、国を救うんだよ。そのために、私の力も存分に使うと良いよ』


俺は、ズブズブと泥沼に沈んでいく。


泥沼の底にいくつれ、耳に現実の音が入ってきた。


ゆっくりと目を開くと、天使ロザリアが笑顔を咲かせていた。


「オグナ君、『宝』は見つかりましたか?」

「どうだかなぁ。よく分からない」


俺は曖昧に答える。


天使ロザリアは俺を抱えて空を飛んで、眠りこけている俺を守ってくれていたらしい。


真下から、甲高い笑い声が聞こえてきた。


「うるせぇなぁ。折角、面白い夢を見てたのに、邪魔しやがって」


俺が不機嫌そうに言うと、そこにライルと、ウトガルド・アウラ・ベルグンテルが立っていた。


ライルは嫌らしい笑みを浮かべ、俺に対して告げる。


「ようやく起きましたか。オグナ殿下。おはようございます。そして大変、申し訳ありませんが、僕は今からオグナ殿下の敵になります。生きて帰す気はありませんので、思うまま死んでください。それから最後に一言、言わせてください。ニートの殿下のことなんて大っ嫌いでした」

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