オオカミ少年かく語りき①
今回の主要人物は前半に少し登場したキャラクターです。
ライル
●固有スキル
『嘘吐き』
●派生スキル
『隠蔽』
●備考
現在はオグナ直属の部下。
魔王フェンリルと人間との間に生まれた子供。
フェリ
●備考
魔王フェンリルから生まれた魔狼。
魔狼と人の間から生まれた子供がいた。
後にオオカミ少年と呼ばれるその子供は正直に告白すると僕のことだ。
今日は僕の話をしよう。
オオカミ少年の僕には多少虚言癖があるが大目に見てほしい。だって仕方がないじゃ無いか。嘘を吐くのは僕の特技であり、病気であり、生きる手段なのだ。嘘を吐かなければ、死んでるも同然だ。
どうか僕が嘘を吐いてる様子を聞いても憤らずに、「こいつは本当にどうしようもない奴だなぁ」と小馬鹿にでもしてくれれば幸いだ。
さて、ある日のお昼頃。
テクテクと歩きながら僕は言った。
「フェリ。よく聞いてくれ。私は強い。世界で一番だと言っても過言じゃないだろう。まだ生きていたなら神様だって倒してしまうくらいには強いんだ」
「そうなの? お兄ちゃん、凄い!」
隣を歩くフェリがキラキラとした瞳で僕を見つめてきた。
それはそれは可憐な少女の姿をしているが、その実態は魔将級の力を持つ魔狼であり僕の妹だ。
「そうだよ。私は凄いんだ。だけどね、そんな私でも恐れているのが人間なんだ」
「どうして?」
毛皮のようにモフモフな青い髪を揺らしながらフェリが首を傾げた。
「人間は群れると恐ろしく強くなるんだ。特に私達のように強い力を持つ者を見つけた時に生まれる集合意識はおっかない。一致団結して私達を殺そうとしてくる。そんな訳でさ、フェリは人前で力を使ってはいけないよ」
「うん、分かった!」
元気の良い返事に内心ほっと息を吐く。
妹と違い、半分魔狼で半分人間の僕は魔狼としの能力を一切受け継ぐことができなかった。受け継いだのは人間固有のスキルだけ。それも発現した固有スキルは微妙で、人様に自慢できるモノでもなかった。
固有スキル『嘘吐き』。
僕は他人を騙して世を渡る小物である。雑魚である。
弱いことが妹にばれたら殺されるんじゃないかという恐怖を隠し、恐る恐る今日も彼女に向かって"ライル"は強いと嘘を吐いている。
「お兄ちゃんは何でも知っていて凄いね」
『噓吐き』の効果は抜群で、生まれて間もないフェリはすっかり騙されてしまった。
そんなこんなで危険極まりない力を秘めた妹は、僕の教育の賜物で余計なトラブルを起こすこともなく順調に育っている。このまま無害な魔物として育て上げることに成功すれば、給料アップや昇進も夢じゃない。
ケケケケケケケケ。
「ねぇ、お兄ちゃん。あそに立派な門があるよ。あれが北門だよね」
フェリに言われて視線を向ける。
道の上に赤い門が立っていた。
門の前には、筋骨隆々の男が二人立っていた。
向かって右側の男は威嚇するように口を開き、左側の男はむすっとした表情で口を閉じている。
「待たれよ」
口を大きく開いている男が前に出て言った。
「我はこの門を護る番人「アギョウ」、こちらは「ウンギョウ」である」
アギョウは顔を突き出すようにして名乗った後、隣の口を閉じた男ウンギョウの名前を教えてくれた。
「怪しき者であるか見極めるのが我の役目。主らは怪しき者か?」
「私はベルグンテル王国第五王子オグナ殿下直属の部下ライルと言います。こちらは助手のフェリです。殿下からの命令を受け、ここへやって来ました。ほら、これが証拠です」
懐からある書状を取り出し、二人に見せた。
実のところ僕は『嘘吐き』のスキルを使用してたくさんの名や肩書を作ってきた。ベルグンテル王国の兵士、冒険者、商人、乞食などなど。ちなみにライルという名は『嘘吐き』で作った偽名の一つで、ベルグンテルの中でよく使う名の一つだ。
ウンギョウにひったくるように書状を奪われた。彼はしばし目を通した後、押し付けるように僕へと書状を返した。
「正しく、ベルグンテル王家の書状である。ご無礼をお許しくだされ」
書状に一瞥もくれていないのにアギョウが謝罪を口にしてから頭を下げた。ウンギョウも黙ったまま頭を下げた。
突然の謝罪に驚きながらも、気にしていないとフォローを入れた方が良いかなと思った。
「謝らないでください。最近は物騒ですから警戒をするのは当然です。国外から、特にイドラ帝国のスパイが潜り込んでいる可能性があるなんて噂も広がってますしね」
いつ戦争が始まってもおかしくない世の中ですから、という言葉は口に出さなかった。
六日前、『退魔連合』の中枢リュウグウ王国と、ベルグンテル王国が同盟を結んだ。イドラ帝国に対して東と南から圧力をかけるための同盟であることは一目瞭然であった。
イドラ帝国は東側から『退魔連合』に、南側からベルグンテル王国に挟まれた形になった。この状況にイドラはまだ何も動きを見せていないが、戦争になるだろうというのが大多数の予想だった。
それ故、ベルグンテルではスパイに対する警戒も強まっているのだ。
「おじさん達すごく大きいね。それに二人ともそっくりさんだ。あ、分かった。おじさん達、双子なんでしょ?」
唐突に、フェリが言った。
「然り」
アギョウが答え、ウンギョウが頷く。
「フェリもね。双子のお姉ちゃんがいるの。フェルって言ってすごく大きいの。それにすごく仲が良いから、黙っててもお互いに何考えてるか分かるんだよ。おじさん達と一緒だね」
フェルというのは僕の妹でもあるのだが、まだ会ったことはない。魔王級という魔将級よりワンランク上の力を有するフェルは諸事情あり、オグナ殿下が保護していると聞いている。正直なところ、そんなおっかないのと会いたくない、というのは口に出さないのが吉だろう。
「我の役目はこれにて終いである。ささ。この北門を通りなされ。この先にあるはラグナの街。ベルグンテル王国最南端の街である」
阿吽の呼吸を思わせる動作で二人は左右に分かれ道を開けた。
二人の門番に見送られながら僕達は門へと歩き出した。
「ねぇ、お兄ちゃん」
荘厳で巨大な北門をくぐりながらフェリが話しかけてきた。
「ラグナの街には、神をも震え上がらせるほど危険な巨人がいるんでしょ? お兄ちゃんとどちらが強いかな?」
ラグナには巨人伝説が残っている。その伝説をフェリに語ったところ、彼女は未だに巨人が街にいるもんだと思い込んでしまったようだ。まぁ、ついつい『嘘吐き』のスキルを使いながら話してしまったのが原因なのだけど、こればかりは仕方ない。だって嘘を吐くのは病気のようなものだから。
「巨人よりも私の方が強いに決まっているさ。だって私は神様よりも強いからね。だから恐れずに巨人を探そうね」
そんなことを嘯きながら、僕達はラグナへと足を踏み入れた。
ベルグンテル最南端の街ラグナに残る巨人伝説を調査すること。
それが今回、僕の上司であるオグナ・アウラ・ベルグンテル殿下から命じられた任務である。




