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ニート王子、己の心と向き合いました

魔将タロス達の一斉砲撃が行われた後、スキル『空気になる』に身体の主導権を奪われ、気づいたら沼岸に立っていた。


辺りには霧が立ち込めている。


俺は目の前に広がる沼を見下ろしている。


「ここはどこだ?」

『ここは君の深層心理の境界線さ』

「深層心理の境界線?」

『君が落ちてこれる無意識の一番深い場所さ。というか、そろそろボクに気づいてよ。話しづらいったらあらしない。ほら、こっちだよ』


いつの間にか目の前に見覚えるのある人物が沼に両足を突っ込んだ状態で立っていた。その姿形はアダムとそっくりだった。ただ雰囲気が若干違う。魔王アダムは無垢な子供のような印象だったのに対して、目の前のアダムはこちらをどこか嘲笑うような顔をしている。


『ボクはアダムのオリジナルだからね。そっくりなのは当然さ』

「それでは、貴方は音のダンジョンの元となった神様なんですか?」

『神様の一部だったという表現が正しいかな? ボクはここのヘファイストスの『遺言』さ。でもまぁボクのことは《ヘファイストス》と呼んでくれ』

「《ヘファイストス》様の『遺言』がなんで俺の深層心理にいるんですか?」

『それはここが集合的無意識の境界線だからさ』

「境界線って何ですか?」

『君と神の境界線さ。君の後ろに広がっている大地が君の心の領域で、ボクの後ろに広がっているこの底なし沼が集合的無意識である神の領域。君は『神様のスキル』を通してこの沼地と繋がっているんだよ』


アダムそっくりの《ヘファイストス》の説明を聞き、青のダンジョンの時に聞いた『遺言』の言葉を思い出した。あの時も、俺のことを知っていると『遺言』が言っていた。何だか監視されているようで気分は良くない。


《ヘファイストス》の背後、神の領域である沼の水面を見やると、何やら無数の視線を感じた。視線の数が見る見るうちに増えている気がした。


『深淵を覗く時、深淵もまた君を覗く。今はまだそちらを見ない方が良いよ』

「一方的に見られているのは、良い気分はしませんね」

『ボク達は所詮ただの遺言なんだ。亡霊とでも思ってくれ。気にする必要はないよ』

「そんなもんですか」

『そんなもんさ。それより、本題に入りたいんだけど良いかな? ここにボク自身がやって来たのは『遺言』を伝えるためなんだ。ボクの声は人間の可聴領域を超えているのは知っているだろ? こうしないと君と話ができないんだから苦労したよ』

「はぁ、そうなんですか」


適当に相槌を打った。


状況に付いていけない俺に対して、馬鹿にするような表情で目の前の《ヘファイストス》が告げる。


『神が蘇る』

「え?」


間抜けな声を出した俺が面白かったのか《ヘファイストス》がクスクスと笑う。


『面白い顔をするね君』

「そりゃあ、神が蘇るなんて突拍子も無いこと言われたら誰であれ驚きますよ。それよりも、蘇ると言うのはどういう意味ですか?」

『言葉通りの意味さ。死んだ神が蘇る。そのために必要な身体も魂も贄も揃った』

「?」

『本当に君は察しが悪い。もともとダンジョンとは神の死体からできたもの。そして『遺言』であるボクは神の魂の一部だった』

「じゃぁ、贄っていうのは」

『もちろん人間のことさ』


何を分かり切ったことを聞くんだ、とでも言うような口調だった。


『でも勘違いしないでくれよ。人間のことは愛しているんだ。ボクが蘇った後、人間を救うつもりさ。それからさ、生前必死に集めたゲーム機でさ、人間達と遊ぶんだ。楽しみだなぁ』


《ヘファイストス》の言葉から推察できることがある。魔物とは、神を復活させるために生み出された。そして魔物が人間を襲うのは、贄として必要だったから。


けれども今になって復活するのは何故だ? ずっと前から魔物はたくさん人間を殺している。なのに神が蘇ったという話は聞いたことが無い。


俺の心の裡を見透かすように《ヘファイストス》が話を戻す。


『蘇るために、特別な人間が贄として必要だったんだ。只人を何千万と殺すだけではダメだったよ。そのことに気づくのに時間がかかったなぁ』

「特別な人間というのは『超人』のことですか?」

『惜しいな。只の『超人』じゃ足りない。力の強い『超人』でないとダメだ』


力の強い『超人』と聞いて、真っ先に思いつくのはイドラ帝国の姫であるイルミだ。


『頭の悪い君でも察しが付いたかな。彼女、イルミは文字通り最高の『超人』だ。さすがはツアストラ皇帝の娘だ。おっと、随分と話が長くなってしまったね。君に伝えたいことがあるんだった』


《ヘファイストス》がニタニタと笑いながら近づいてきた。


『ボクは目覚めた後、このダンジョン内の全ての魔物を殺すつもりだ。魔物はもう用済みだからね。でも一匹ずつ殺していくなんて時間を無駄にするようなことはしない。【滅びの歌】で一網打尽にするつもりさ』

「魔物達は神様のためを思って働いていたようです。尽くしてくれた者を殺すことに対して何とも思わないんですか?」

『何とも思わないよ。ボクだって魔物を産みたくて産んだわけじゃないからねぇ』


無責任な神の言葉に釈然としないものを感じた。


黙り込んだ俺に神が言った。


『そんな訳でさ、君には目覚めた後、すぐにダンジョンから去って欲しいんだ。このままダンジョンにいたら間違えて殺しちまうよ。君は選ばれた人間だからまだ殺したく無いんだ。『人と魔物の共存』なんて馬鹿げたこと言ってないで早くお逃げ。どうせその共存の件だって君の意志なんてこれっぽっちも無いんだろ? ただ流されているだけでさ。君もそう思うだろ?』


《ヘファイストス》が突然、後ろを振り返った。その視線の先、神の領域の側である沼の中で、子供が立っていた。


年齢は9歳くらいで髪も瞳も衣服も灰色の子供だ。それはかつてのオグナの姿をしていた。


気付けば《ヘファイストス》の姿は、沼地に溶けるように消えていた。


『《ヘファイストス》の『遺言』は聞いたな。その上で選択しろ。救う道か、救われる道か』

「お前は、一体誰なんだ?」


幼いオグナはやれやれと肩を竦めた。


『俺はオグナの無意識。その統括人格だ』

「無意識の統括人格?」

『分かりやすく言えばお前がオグナの意識で、俺は無意識。俺達は両方合わせてオグナなんだよ』

「さっきまでいた《ヘファイストス》はどこに行ったんだ?」

『用事が済んだようだから、帰ってもらったよ。彼がどうしてもお前をこの沼地へと連れて来いと煩いから招待したけど、不快な奴だったな。もう、彼は呼ばないようにする。まぁ、そんなことよりも、これからどうするんだ?』


沼地の中から、オグナの無意識が問いかける。


『無意識の俺としては、面倒なことに足を突っ込んでほしくないんだ。オグナが生きる世界は底なし沼だ。人間も魔物も誰しもが泥に足を取られている。誰しもが沼にはまっている。オグナ自身もそうだ。この沼の中から、皆を救おうだなんて馬鹿げているのは、6年前に理解しただろ? だから今まで通り引きこもろうぜ。目指すべきは、ミニマリストだ。最小限の要求と物で生活していくのが正解だよ』


立て板に水を流す如く、主張してきた。それに俺は深い共感を覚えた。


けれども喉の奥で何かが引っかかっているような、そんな感覚があり無意識の言葉に賛同する声を出せなかった。


やれやれと苦笑しながらオグナの無意識が、意識である俺へと手を伸ばしてきた。


『けれど、もしもお前が『あの頃』みたいに全てを救いたい、そう本気で想えたなら、救う道を選びな。その道は底なし沼で大変だろうけど、仕方ないよな。俺はオグナの無意識だ。オグナが選ぶ道はもう分かっているんだ』


俺はその手を取り、そして泥の中へと足を踏み入れた。


泥の中に身体が沈でいく。


『お互い、大変だよなぁ』


最期にオグナの無意識の同情するような声が聞こえた。それが合図だったかのように、意識である俺は現へと引っ張られていった。


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