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ニート王子、スキルが覚醒しました

最弱の魔王アダム。


最弱の異名は、単体の戦闘力のみで評価すればそう表現されるのも仕方がないだろう。


アダムは戦闘タイプの魔物ではなく、むしろ支援に特化した魔物だ。配下の等級を一時的に上げることで、本来ならば数体しかダンジョンに発生することの無い魔将級の魔物を何百、何千と造ることができる。


「悪くないわね。このアダムの能力は使いようによっては、世界征服もできるんじゃないかしら」


魔王アダムの力を取り込み、スキルとして実際に運用してみたイルミはご満悦だった。


「私を満たしてくれるほどではないけれど、この力は素晴らしいわね」


スキル『アダム』の力を使い、強化した部下達の力は想像以上だった。魔将タロスの巨砲は一撃で街を焼き尽くす程の威力があるだろう。その巨砲百門の連撃によって、ダンジョン内は火の海となっていた。


地表に無事な場所など残っているはずないのだが、イルミの周囲だけ被害が無かった。


これもアダムから奪った能力の一つ、【ダンジョン管理者】によるものだ。この能力を使用し、タロスから発せられた攻撃はイルミに近づいた時点で打ち消されるように設定していた。


「とはいえ、あちらも優秀ねぇ」


オグナの従者二人を見やる。


「あははは。まだ体感したこと無い地獄です。もっと地獄を見せて。もっともっと悲惨な地獄をくださいなぁ」


火の海の中で笑っている金髪の少女。彼女は『勇者』のスキル保有者のようだ。『聖剣』から光の津波を生み出していた。津波のような形状をした黄金の光は、少女付近の砲撃を呑み込み、押し返す。


タロス達は押し寄せる光の津波の勢いを止めるために、波に向けて何度も砲撃を繰り返さざるをえない。


砲撃によって津波の勢いが無くなったと思ったら、勇者が次の波を起こしている。


「ヒルダさーん。ここは地獄じゃありませんよー。あまり羽目を外さないでください」


窘めるような口調で勇者を注意しているのは、薔薇色の天使。天使は翼を羽ばたかせ空を自在に駆け巡る。


魔将と化した兵士達の砲撃も斬撃もひらりと紙一重でかわす。一瞬の隙を付いて巨兵に接近し、聖なる火を纏った槍で巨体を両断しているのだ。


今もまた、一体タロスが天使に破壊された。


「スキル『アダム』【完全修理】」


アダムの能力を使う。破壊された巨兵の部位が赤く光り、修復されていく。


「ふふん。私は部下を無限に修復できるのよ」


何度でも巨兵を蘇らせることができるのに対して、勇者と天使は最初と比べると明らかに疲労していた。


勇者の生み出す津波もだんだん波が小さくなり、ついにタロスの砲弾が津波を突き破った。


「あはっ。絶体絶命じゃないですか」


愉しそうな声を上げつつも勇者が回避しようと動くが、迫り来る砲弾はあまりに大きく、砲弾の数が多すぎた。


逃げ場はなく、爆風に吹き飛ばされた。


「まだ足りません。こんな地獄じゃもの足りないですよ。もっと地獄をくださいなぁ」


血だらけになりながらもヒルダが爛々と目を光らせた。懲りずにも『聖剣』から光の津波をぶっぱなす。光の波は無数の弾丸の軌道をずらし、ヒルダへの直撃を防ぐことに成功した。


とはいえ光の津波は最初よりも小さく、明らかにタロス達まで届かない。


天使も無傷ではない。翼も服も焦げている。


「もう、ヒルダさんってば」


タロスによる砲撃の雨の中、天使も爆撃による爆炎と爆風を浴び続けている。涼しい表情をしているが、程なくして打ち落とされるだろう。


「オグナはどうなったかしら」


火の海を見ながらイルミが呟いた。


この程度でオグナが死ぬとは思えなかった。


『私を呼び覚ました意味を理解していますか?』


突如、声が響き渡った。


音も無く火が消えた。


火の海が消えた後、灰色の煙がダンジョン中で立ち昇った。ダンジョンが灰色一色に塗りつぶされたようだった。


「ダンジョンの空気が全て窒素に換えられたようね。【ダンジョン管理者】の権限で空気の構成比を戻せるかしら? あら、出来ないようね。仕方が無いわね。向こうの方が格上ですもの」


イルミはこの現象を知っていた。


6年前の戦争でも今のように酸素を奪われ、多くのイドラ兵が苦しめられた。


イルミはスキル『アダム』の効果によって、魔王アダムと似通った存在に変化している。そのため酸素を必要とせず、酸素を奪われようが痛くも痒くもない。


「『神様のスキル』ってのは相変わらず気味が悪い」


押しつぶされそうなほどのプレッシャーを感じた。近くに『神』の名残があるとイルミの中の『超人』が騒いでいた。


灰色の煙の中から、少年が現れる。


灰色の髪、灰色の衣装を纏う彼は周囲に溶け込み、輪郭もぼんやりとしていた。


その姿を美しいと思うと同時に。


「哀れね」


灰色の王子オグナ・アウラ・ベルグンテルを見て、イルミが呟いた。


「神様の呪縛から逃げることのできない貴方は本当に可哀想だと思うわ、オグナ。誰も彼も救うなんて出来ないのよ。それこそ神様だって無理だったでしょ? 人間にできるはずがないじゃない」

『確かに私達は前回、失敗しました。ですが、今回も失敗するとは限りません』


オグナの口から無機質な声が発せられる。それは『神様のスキル』から発せられたものだ。


「いいえ。失敗するわ。だって私達『超人』が神を一つ残らず喰らうもの。神の時代はもう終わったの。大人しく私に喰われなさいな」


イルミは黒い槌を強く握りしめた。


「スキル『バーサーカー』発動」


かつて『超人』の中に取り込んだスキルの名を口にする。能力は単純で、身体能力が20倍になる。


オグナへと槌を振り下ろし、頭に直撃した。


手応えが無かった。まるで幻に攻撃しているかのようだ。


『『空気』に攻撃しても意味がありませんよ』


無機質な声が響き、風の弾丸がイルミの身体を吹き飛ばした。


「スキル『アダム』【完全修復】」


風の弾丸で負ったダメージを一瞬で回復させ、軽やかに着地した。


「私のレベルは32だけど、オグナのレベルはどのくらいなのかしら? 中級風魔法を撃つくらいだから平均の15くらいかしら?」


スキル『空気になる』の潜在的な力は恐ろしいが、その力を宿すオグナのレベルは15と低い。決定打が無かった。


「ふふん。所詮、この世は力が強い者が勝つ。強さこそ、スキルこそが正義。只人はコツコツとレベルを上げてショボいスキルを身に付けていくしかないけど、私達『超人』は固有スキルですら奪って身に付けられるのよ」


イルミが再びオグナへと走り出す。『バーサーカー』を使用していないが、並の兵士では対処できない速さだ。


「『スキル封印』」


準神級スキル『スキル封印』

効果:対象が己よりレベルが低い場合、対象のスキルを一つ封じることができる。

発動条件:スキル発動中(5秒間)に攻撃を当てる。


オグナへと槌を振り下ろした。


相変わらず手応えはないが、槌はオグナの身体を通り過ぎて、地面に落ちた。ダメージは与えていないが、攻撃は当てた。


「『スキル『空気になる』を封じる』」


イルミが宣告した。


今まで灰色の風景に溶け込んで朧気だったオグナの身体が、風景から突如切り離されたかのように輪郭が鮮明に浮かび上がった。


【完全空気化】から抜け出したオグナは苦悶の表情を浮かべながら、地面に倒れ込んだ。


「『神様のスキル』から解放されたようね」


無様に転んだオグナへとイルミが声を掛けた。


「さて、どう料理して貴方を食べようかしら」


舌なめずりをしながらイルミが言った。


『邪魔者を封じてくれてありがとう』


イルミの頭の中で声が響いた。


その声は魔王アダムの声と似通っていた。


『ボクはアダムのオリジナルだからね。似ているだけで別物さ』

「ふん。私の頭の中に直接話しかけてくるなんて腹立たしいわね。貴方、何者?」


苛立ちを隠そうともせずにイルミが訊ねた。


『ボクはアダムの生みの親さ』

「アダムなら私が殺したわ。復讐でもしに来たのかしら?」

『復讐ではないよ。ただ単純に君の命を貰いに来たんだ。音のダンジョンのヘファイストスがアダムに命じよう』


《ヘファイストス》の名が出た瞬間、イルミの身体が硬直した。


『その身を差し出せ』


膨大な力が身体に流れ込む。手、足、頭と動きが制限されていく。


己の意思とは無関係に口が大きく開いた。


ベロン、と舌が突き出された。


『贄よ。その命をボクに差し出せ』


生々しい音を立て、イルミの歯が彼女の舌を切断した。




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