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ニート王子、帝国の姫に復讐されました

俺こと、オグナ・アウラ・ベルグンテルは生まれた時からニートだったわけじゃない。


6年前のイドラ帝国との戦争の前は、王族として表に出ることもあった。出たくもない貴族のパーティーに顔を出したり、イドラ帝国皇太子の誕生会に参加したことだってある。


戦争が終わり、目の前で広がるイドラ軍の死体の山を見て何だか全てがどうでも良くなった。『無限牢獄』で造られた部屋の中に引きこもり、ひたすら『空気』になって戦争の記憶を忘れ去ろうとした。けれども、イドラで見た死体の山は頭の中にこべりついて離れなかった。


脳裏で全ての死者が瞬きすることなく俺を見つめている光景が焼き付いてた。


(イドラ帝国よ。『超人』達よ。俺とお前達は同じ人間だ。何故、仲良くできない。何故戦争をしなくてはいけなかったんだ。『神様のスキル』のどこが問題なんだ?)


暗い部屋の中で、俺は己の中で問いかけ続けた。


ぐるぐるとイドラ帝国のことを考えて。


ごちゃごちゃと自分について考えて。


どれだけ考えても答えは出なかったが、一つだけ思ったことがある。


もしも、もう一度イドラ帝国と、『超人』と相対する時があったのなら聞いてみたい。


(『超人』よ。何故、そんな目で俺を見る?)



※※※※※※



『音のダンジョン内にいる全ての有象無象どもに教えてあげましょう。このダンジョンは私が攻略させてもらったわ。今からこのダンジョンは私の物であり、貴方達は『超人』である私の食料になってもらうわ。光栄に思いなさい。このイドラ帝国が三番姫、イルミ・レム・イドラの糧になれることを』


ダンジョン内に、イドラの姫の声が響き渡った。


「イドラ帝国がダンジョンを攻略した? 何を言っているんだ? 魔王であるアダムはここにいるのに」


そう言って俺は倒れたアダムに駆け寄るが、その瞳の中に光は無く本当にただの人形のようだった。


「それはアダムの本体ではありません。端末の一つです。イドラ軍がアダムの本体を倒したのでしょう」


冷静にロザリアが分析する。


「ちょっと待ってくださいよ、ロザリアさん。イドラ帝国に魔王を倒す力はないって言っていたじゃないですか?」


顔は笑顔だが目が笑っていないヒルダがロザリアに詰め寄る。


「ええ。まだアダムは破壊されていません。アダムはいくつも己のバックアップを造っていますからね。とはいえ、本体を壊され、乗っ取られた所為で力の9割はイドラ帝国に奪われたと考えて良いでしょう」

「遊んでいなければ、イドラに出し抜かれることも無かったのではないですか? これもロザリアさんの予定通りですか?」

「ええ。もちろんです。このダンジョンも、イドラ帝国もチョロいですからね。わたくし達が力を合わせれば楽勝です。そのうち嫌でも分かりますから、怒らないでくださいな。ヒルダさんも折角戦うなら強い人の方が良いでしょう?」

「まぁ、それはそうですけどー」

「それより、来たようです」


二人が同時に視線を移す。つられて俺も視線を向けると、いつの間に漆黒を纏う少女が立っていた。その背後にはイドラの兵士達が整然と並んでいる。


「楽勝とは、随分と舐められたものね」


少女は黒い槌を手にしていた。柄が細長く、一見杖のようにも見える。


「嫌々ながらやって来た魔王討伐だったけど、まさかこんなところでベルグンテルの王子様に会えるなんて思わなかったわ」


少女の髪は黒く、褐色の肌を黒い衣装で包んでいる。年齢は俺と同じくらいで15歳くらいだろうか。


「お久しぶりね。オグナ」


少女はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべていた。


「あら? ひょっとして覚えていないの? 酷いわね。オグナにとって私はそんなものだったのね。私はずっと覚えていたのよ?」


勿論覚えている。一度だけ会ったことがある。


「それでは改めて名乗ることにしましょう。私の名前はイルミ・レム・イドラ。イドラ帝国の三番姫。ベルグンテル王国に。いえ、オグナに復讐できる日をずっと待ち望んでいたわ」


復讐という言葉を聞いて、俺は顔を少し引きつらせてしまう。


うふふふふ、と笑いながらイルミが告げた。


「ねぇ、オグナ。7年前に帝都で催されたレイド兄様の誕生会を覚えているかしら?」


イルミがニタニタとした表情で訊いてきた。


戦争が始まる少し前、俺はベルグンテルの宰相と共にイドラ帝都で開催された帝国の皇太子レイドの誕生会に参加した。


誕生会への参加はただの名目で、本当の目的はイドラ帝国との戦争回避をするための交渉だった。宰相が交渉役を担い、王族の俺はただの飾りとして同行したに過ぎない。飾りとして俺が選ばれたのは、スキルが『空気になる』という王族に相応しくないものだったため、最悪交渉が決裂して殺されても良かったからだろう。


「覚えていますよ。あの時、微妙な立ち位置だった俺を気遣って声をかけてくださいましたね」


忘れもしない。アウェーのパーティー会場の隅で『空気』になっていた地獄の時間を。


宰相や従者達はパーティーに参加せず帝国の官僚達との話し合いに行ってしまうし、帝国に知り合いもいない。おまけにイドラ帝国がベルグンテル王国に宣戦布告するのは誰の目から見ても避けようがなかった。そんな俺に話かける馬鹿はいない。仮に俺から話しかけても相手にしてくれなかっただろう。


俺がコミュ障だからボッチになったわけじゃないことは強調させて欲しい。


そんな中、唯一近づいてきてくれたのは俺と同い歳で9歳のイルミだった。


彼女は俺に近づき雑談を交わした後、唐突に言った。


『貴方、私と結婚しなさい。結婚してくれたら、貴方の命だけは助けてあげる。女の子が勇気を出して告白したんだから断るわけないわよね?』


突拍子も無い発言に恐怖し、俺は「冗談はやめてくださいよ」とガタガタ震えながら返した。


『私を振ったこと、後悔することになるわ』


そんな捨て台詞を未だにはっきりと覚えている。


「貴方如きに振られて、本当に腹が立ったわ。6年前の戦争の時、オグナを殺して食べてしまおうと本気で考えたもの。けれども結果的には、私達イドラの完敗。あの時から私は心を入れ替えたの。貴方を食べるために頑張ったわ。たくさん魔物を食べて強くなったわ。ほら、見て」


イルミが両手を広げた。


「6年前とは違うの。今の私は魔王を倒せたし、このダンジョンも手に入れた」


イルミの瞳の中に赤い文様が浮かんだ。刺すような殺気がイルミから放たれ、周囲に満ちていく。


「私達『超人』は魔物を食べることで、その能力を取り込むことができるの。さっき魔王アダムを食べたことでその能力を手に入れたわ。これも貴方達が魔将タロスの足止めをしてくれたお蔭ね」

「魔王アダムは最弱の魔王です。わたくし達の敵ではありませんよ」


ロザリアが言うも、イルミは鼻で笑う。


「それでは、試してみましょうか。イドラの兵よ。『超人』の力を見せつけてやりなさい」


黒い鎧を着こんだ兵士達の瞳が赤く染まる。


鎧にヒビが入る。割れ目を突き破り人間ではない別のモノが飛び出した。


まるで卵から羽化するように、鎧から飛び出てきたのはゴーレム系の魔物達だった。どれも魔曹級メタルゴーレムと類似した格好をしている。


「私達は音のダンジョンでゴーレムを吐くほど食べて新たなスキルを手に入れたの。まぁ、ここまで生き残ったのは1000人中たった100人しかいないけど、精鋭中の精鋭よ」

「今さら、この程度が何体いようとアタシ達の敵ではないですけどねー」


ヒルダが『聖剣』を構える。彼女は先ほども百匹近いメタルゴーレムを一振りで一掃していた。


「ふふふ。それでは試してみましょうか。スキル『アダム』」


カツン。とイルミが槌の柄で地面を打つ。


魔物と化したイドラ兵達の背に翼が生えた。兵士達は虚空へ飛びあがる。


「魔王アベルの真の力を見せてあげましょう。【技術的特異点(シンギュラリティ)】。イドラ兵よ。進化さない」


イルミがその言葉を口にした途端、兵士達の身体が赤く光り出した。光は見る見る巨大化していき、巨人の姿を造り出した。


赤い光が消え、その中から現れたのは鋼の巨人だった。背中に金属の翼、右手に巨剣、左手に巨砲を持つ魔物。


「魔将級タロス」


ヒルダが変貌した兵士達の姿を見て呟くのが聞こえた。


空には100体の魔将級タロスが横一列に並んでいる。


「蹂躙なさい」


イルミの号令の後、タロスが巨砲を俺達に向け一斉射撃を開始した。砲撃は何度も何度も繰り返され、隕石を彷彿させる火の玉がいくつも降り注ぐ。


ちょっとこれはマジでヤバイ気がする。


「あはははは。殿下、地獄ですよ」


ヒルダの壊れたような笑い声が聞こえた。彼女が纏っていた穏やかな空気が危ういものへと変わる。


普段ヒルダは陽気に振る舞っているが、実のところガチの戦闘狂でもある。


「殿下、愉しそうな地獄がやってきましたよ。この地獄の先に何があるか愉しみですね。あははははははは」


『勇者』のスイッチが入ってしまったのかヒルダは狂ったように笑いながら、膨大な魔力を『聖剣』に送っている。


「【クサナギノツルギ】よ。全てを呑み込みなさい。一掃しなさい。押し流しなさい」


ヒルダは『聖剣』を振るい、光の大津波を生み出した。


砲撃と光の波がぶつかり合う。


『緊急事態につき、オグナ・アウラ・ベルグンテルを【完全空気化】します』


頭の中でスキル『空気になる』の声が響くと同時に、俺の視界は光で覆われ何も見えなくなった。


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