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ニート王子、捕まってしまいました

ドシン、ドシンという音が近づいてきている。


音のする方へ顔を向けると、巨大なゴーレムが立っていた。


鉄で出来た巨人の魔物。クラスは上から二番目の魔将級、タロスだ。


タロスは右手で巨剣を握り、左手は巨砲に改造されていた。背中には金属でできた翼が生えている。


タロスの足元には魔曹級の魔物メタルゴーレムが整然と並び行進している。メタルゴーレムはその名の通り身体を金属へと改造したゴーレムだ。


「ぐすん。酷いです、ヒルダさん。せめてプリクラ一枚くらい思い出として撮らせてくださってもよいではありませんか」

「旅行に来てる訳じゃないんですよー、ロザリアさん。ほら、嘘泣きはやめてくださーい」


恨み言を口にするロザリアに対して、ヒルダが呆れたような口調で言い返す。


「ううううううう」

「でしたら、こういうのはどうですかー? このダンジョンで活躍できたら殿下とデートできることにしませんかー?」

「デート? オグナ君と? したいです! したいです!」

「それじゃぁ、頑張って魔物を倒しましょうかー」

「任せてください!」


俺の意向無視で話がどんどん進んでいるよ。なるべくなら外に出たく無いんだよねー。


やる気を出したロザリアが聖槍を虚空から呼び出し、ヒルダは聖剣へと魔力を籠め始める。


「聖なる火よ、薔薇の如く咲き誇れ。神聖魔法【聖火】」

「ちょっとは手応えのある魔物だと良いのですが。せめて少しは『勇者』を愉しませてくださいねー」


聖槍から薔薇色の神聖な炎が灯り、聖剣が黄金色に輝いた。


それに応えるようにタロスが左手の巨砲を構えた。轟音が響き、巨大な砲口から隕石かと思うほど巨大な火の玉が放たれた。


「今回の敵はわたくし達二人で対処致します。オグナ君はわたくしが活躍する姿を見ていてくださいまし」


ロザリアの指示に従い、砲弾の軌道から逃げるように二人から距離を取った。


俺はどうやら必要無いらしい。でもまぁ、この二人なら問題ないか。


「【クサナギノツルギ】よ。塵一つ残さず呑み込みなさい」


ヒルダの聖剣から黄金の光が放たれた。光は津波の如く波打ち、火の玉へと襲いかかる。火の玉は津波にかき消され、津波は勢いを失いつつもタロスの足元へ、ざぶんと降りかかった。その結果、足元に並んでいたメタルゴーレムの大群は光の波に一掃されていった。


間髪入れずにヒルダは再度『聖剣』を振りかぶり、第二波を放つ。


がががががが


光の津波がタロスの下半身を呑み込み、硬い装甲を削る音が響く。


とはいえ、魔将タロスの持久力は高い。さすがに『聖剣』の一撃で倒せるようなものではない。


タロスの右手が巨剣を振り上げていた。塔と見間違えるほどに大きな剣が振り下ろされる。


「オグナ君とのデートのためです。ガラクタは綺麗に燃え、跡形も無く消えてくださいな」


迫り来る巨剣へとロザリアが翼をはためかせ飛び込んだ。巨剣を聖槍で弾き飛ばし、ロザリアはタロスの懐へと入り込む。


炎を宿した穂先を右後ろに下げて、一拍後。


薔薇色の穂先がタロスの胴体目掛け、美しい弧を描くように振り抜かれた。


じゅわり。


【聖火】が好物である魔物へと食らいつく。


槍による一閃、その軌跡をなぞるようにぶわりと薔薇色の火が広がった。


【聖火】がタロスの銅を駆け抜けた。聖なる火は金属の身体を溶かし、巨兵の胴体を上下に両断した。


先刻、ロザリアはゴーレム系の魔物と神聖魔法は相性が悪いと言っていたのを、ふと思い出した。ダウトだね。天使の癖に嘘吐いて大丈夫なの?


それでも巨人兵はまだ機能停止することはない。上半身はずり落ちながらも砲撃を放ち、下半身は敵を踏み潰そうと動いている。


砲撃をヒルダは軽やかにかわし、隙を突いて光の津波を起こした。津波はタロスの下半身を呑み込んだ後、粉々に分解してしまった。


「まぁ、こっちが勝つのは時間の問題かな。戦闘が終わるまで寝てようかな。暇だし」


その時、俺は油断しきっていた。


ガシリ


二本の棒に右肩を挟まれた。それはクレーンゲームで使用されるアームだった。


アームは俺の真上からもの凄い速さで落ちてきたため、感知することができなかった。


アームは俺を軽々と持ち上げ地面から引き離した。上空に運ばれた後、今度は直角に曲がり真横へと方向転換した。


短剣でアームを斬りつけたが、ビクともしない。声を上げて助けを呼んでみたが、周りで鳴り響く曲に呑み込まれてしまう。


ロザリアとヒルダは魔将にとどめを刺すことに夢中で俺に気づいていない。


為す術が無いので大人しく運ばれていると、突然アームから力が抜け俺は地面に落下した。瞬時に風魔法を使い、ふわりと地面に着地する。


目の前に白い格好をした人物が立っていた。


「取れた。取れた。さすがはボクだ」


そいつは俺をまじまじと見つめている。


長い白い髪が特徴的なそいつは男なのか女なのか分かりにくい姿をしていた。


「ボクの名前はアダム。音のダンジョンで魔王を生業とするしがない自動人形さ。君を待っていたよ、ベルグンテル王国の王子様」


アダムは俺の側までやって来て俺の腕を掴んだ。


「王子様のことは天使ロザリアから聞いているよ。『人と魔物の共存する世界』を掲げているんだよね。聞いた時は馬鹿げてるなぁと思って相手にしなかったけど、実際に王子様の中から発せられる音を聴いて確信したよ。女神『アウラ』の血を引く君には、『人と魔物』を導く資格がある」


連れてこられた先には、簡素な丸テーブルとイスが二つ置かれていた。無理やりイスに座らされ、向かいにアダムが座った。


「魔王アダムは約束しよう。『人と魔物の共存する世界』のために協力してあげよう。それじゃぁ、これから仲良くしようね」


ご機嫌な様子でアダムが喋り続ける。


「あぁ、でも、これだけは約束してくれ。ボクは『超人』とだけは仲良くなれない。『超人』は皆殺しだ。もちろん、『超人』がトップとして君臨するイドラ帝国なんてもっての外だ。あの国だけは滅ぼさないとね。ベルグンテルもイドラ帝国とは仲が悪いんだろ? 手始めにイドラを滅ぼそうね。約束だよ」


そう言って魔王アダムは屈託無く笑った。

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