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ニート王子、第三王子と話しをしました

青のダンジョンから生還して、一か月が経った。


ダンジョンを攻略したのに俺の名前は大々的に発表されず世間にふせられた。「誰が青のダンジョンを攻略したんだろう?」というのが国民皆が抱いている疑問らしい。


これもスキル『空気になる』の影響なのかな? まぁ、別に良いけど。今、最高に楽しいから。


俺はスキル『無限牢獄』で造られた部屋の中でぐーたらしていた。


『無限牢獄』の中には美味しい食べ物や、アニメという動く絵、ゲームという玩具が無限に揃っている。

ちなみにアニメやゲームというのは異界に存在するエンタメの一つらしいが、『無限牢獄』の外に出すことはできない。そんな貴重なもので遊べるのは俺くらいだ。これも青のダンジョンを攻略した英雄かつ王子の俺に相応しい待遇なのかな。冗談だけど。


という感じで俺はひたすらゲームをしている。ゲームは楽しい。時間が合っと言う間に過ぎてしまう。


現在、ロザリアは青のダンジョンにて新たな魔王フェルの教育中だ。


小うるさいヒルダも真夜中のこの時間帯にはさすがにやってこない。


遊び放題という訳だ。


「これはくそゲーだなぁ。難しすぎるよ。でもようやくボスを倒せそうだ」


突然、画面が真っ暗になった。


あと少しでボスを倒せるところだったのに。


何が起こったか理解できず、声を出すことなく固まってしまった。


セーブをずっとしていない。俺の積み上げた時間が一瞬で消えてしまった。


「良いご身分だなぁ。第五王子様」


苛立った女の声が画面から聞こえてきた。


真っ暗だった画面がぱっと光る。


アニメ絵テイストで描かれた少女の絵がドアップで映り込んできた。少女の髪はピンク色、頭には猫耳を生やし、メイド服を着ている。


「俺様は寝る暇もなく働いているってのに、お前様は俺様が創った『無限牢獄』の部屋で遊んでやがる!」


猫娘の言葉を聞いて何が起こっているのかようやく理解した。


「うわぁ、びっくりした。ウトガルド兄さんかぁ」


第三王子ウトガルド・アウラ・ベルグンテル。『神様のスキル』の一つ『無限牢獄』の継承者である。彼こそが俺を亜空間で創られた部屋に閉じ込めた張本人だ。


ウトガルド兄さんの実物は一度も見たことが無い。いつも俺と話す時は、アニメ絵のアバター姿(ウトガルド作の女の子絵)で現れる。でも兄弟達の中では一番話す機会が多いかもしれない。


「兄さんらしい可愛いアバターを作ったね」

「ふん。褒めても無駄だ。俺様の怒りは収まらない」


兄のアバターである猫娘がプンプンという擬音を出しながら、可愛いらしく怒るような仕草をする。


正直、褒めてない。メイド服の造詣が甘い。それに頭に猫耳があるのに、顔の左右にも人間の耳がついている。声も可愛らしいキャラにしては大人っぽすぎる。100点中、10点くらいの作りだ。あくまで個人的な素人意見だけど。


「こんな夜遅くに、どうしたの? ウトガルド兄さん。はっきり言って迷惑だよ」

「それは俺様の言葉だ。こんな時間に『無限牢獄』で最もリソースを使うゲームで遊びやがって。言っておくけど、アニメもゲームもこの世界のものじゃないから再現するの大変なんだよ。妙に今日は疲れるなぁと思って調べたら、お前様が遊んでやがる。こっちは仕事してるのに」


ウトガルド兄さんのスキルが今のベルグンテル王国を支えていると言っても過言ではない。


国の至るところに亜空間を設置し兄さんが維持している。もともと小国であるベルグンテルが今まで生き残れたのはこの亜空間のお蔭だ。

ある場所に造られた亜空間は食料等の倉庫替わりに、また別の亜空間は畑として、そのまた別の亜空間は技術者達の工房として利用されている。他にもあらゆる場所で兄さんの亜空間は活躍している。


国を背負う立場のウトガルド兄さんからすると、ニートの俺は見ていてイラつくのだろう。


「そんなこと言っても、俺は父上からニート生活をして良いと言われているんだ。青のダンジョンから『神様のスキル』を手に入れたらぐーたらして良いって言われたんだい。兄さんに怒られる筋合いはないね」


苦し紛れの抵抗をしてみる。


確かに国王は当初、ぐーたらして良いと約束はしてくれた。けれども、持ち帰った新しい『神様のスキル』は誰も継承者を選ばないどころか、継承を求める人間に呪いをかけている。かと言って『神様のスキル』を捨てることもできない。

正直、こんなもの拾ってくるなよ、という空気が満ちているのも知っている。


そして何よりも、俺が青のダンジョンの管理を願い出て認められたのも不味かった。城の中では俺が魔物を操って謀反を企てているみたいな空気も流れだしている。


ひとまず『天使』ロザリアを派遣し青のダンジョン内の教育を任せたことで、過半数は黙らせることができたけど、依然として俺へのヘイトは収まっていない。下手に動くと更に警戒されかねない。


そんな訳で誰に何と言われようと、動く準備が整うまではじっとしているのがベストと思っている今日この頃だ。決して毎日、アニメとゲームしたいから言ってる訳じゃないよ?


兄のアバターがため息を吐く。


「親父様からお前様のことは好きにさせろと言われている。お前様がニートをしていようとどうでも良い。それに俺様はお前様を評価しているし、同格だと思っている。だからこそ様付けで呼んでやってるんだ。まぁ、変人だとは思っているが」

「えっと、兄さん、何か変なものでも食べた? 過労でおかしくなった? 何か変な空気だよ」

「偉人ってのは変人がなるものだ。お前様は、兄貴どもや、第四王子が恐れている通り偉業を成すだろうよ。変人だからなぁ」

「よく分からんけど、兄さんが褒めてくれるのは初めてだね。嬉しいなぁ。あと、俺も悪かったよ。これから夜はゲームとアニメを控えるよ。ごめんなさい」

「いや、許さねえ。いくら変人の弟様でも、いや変人だからこそ今回のことだけは許しちゃいけねえ。これ以上お前様が増長しないためにも」

「いやいや、ちょっと夜にゲームしたくらいで大袈裟な」

「そっちじゃねえよ」

「え?」

「お前様、さっき言ったよな。俺様が作ったゲームを『くそげー』だと」


画面上に映る猫娘の顔が真っ赤になっていた。


「ぜってぇに許さねぇ! 俺様が命を懸けて作ったゲームを貶しやがって。親父様に進言してやる。第五王子様に命懸けの仕事をさせてゲームを貶した罪を償わせろってなぁ。さもないと俺様は仕事を放棄してやるってなぁ。この国が滅んでも知らねえぞ!」


叫び声と共に、画面が再び真っ暗になった。


「どっちが変人だよ」


ゲームを片付けながら思わず呟いてしまった。


×××


翌日。


第五王子オグナに王命が下った。


王は眉間を揉みながら、『絶対命令』のスキルを使用した。


『オグナ・アウラ・ベルグンテルに音のダンジョンの攻略を命じる』、と。


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