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ニート王子、レベルが上がりました

『オグナ・アウラ・ベルグンテルのレベルアップが完了しました』


スキル『空気になる』の声が頭の中に響いた。


オグナ

レベル 120【仮】

固有スキル

『空気になる』

派生スキル

『風魔法』極大

『剣術』極大

『神聖魔法』極大

『鑑定』極大

『未来視』

『天使召喚』

『スキル簒奪』

『全知』

エクセトラ、エクセトラ。


ロザリアのレベルを借り受けたことによって、俺のレベルが見たことも聞いたこともないほどはね上がり、派生スキルも数えられないほどズラリとステータスに並んでいる。


「ヒルダ。ここは俺に任せてくれ」


俺は立ち上がり、ヒルダの横に並ぶ。ヒルダは俺をしげしげと眺めた後、大きく息を吐いた。


「しばらく見ないうちに、すっかり頼もしくなっちゃいましたね。もしかして、童貞卒業しました?」

「ダンジョンの中で、どうやったら童貞卒業できるんだよ」

「ふふふ。冗談ですよ。でもまぁ、殿下が仰るのなら、アタシは黙って見ています」


そう言ってヒルダが後ろに下がる。十分にヒルダが距離を取ったことを確認し、俺は新しく発現したスキルの中の一つを選択した。


「極大風魔法【神風】」


魔法を唱え、最大の風魔法を自分自身にかける。


『スキル『空気になる』の効果を最大限に高めます』


周囲から灰色の風が生まれた。風は俺の周囲で渦巻き、竜巻へと変化していく。灰色の暴風が吹き荒れる。灰色の渦は圧縮されるように、渦の幅が狭くなっていく。


竜巻は灰色の龍へと姿を転じた。ここに極大風魔法【神風】が完成した。


灰色の龍と一体になった俺はフェンリルを見下ろす。


「これは見事。我は強い雄が好きじゃ。興奮するのぅ。ここまで興奮するのはあやつとヤッた時以来じゃ。精も根も尽き果てるまで、殺しあおうぞ」


フェンリルの身体が地獄の炎に包まれる。今までで見たことが無いほどの密度を誇る炎は青黒く燃え上がり、山のように巨大な魔狼を造り出した。


灰色の龍と、青黒い魔狼は無言のまま見つめ合った。


一瞬の静寂の後、二つはぶつかった。


勝負は一撃で決まった。


魔狼は龍の胴体へとかぶりつき、噛み切ることに成功したが、風の龍は蜥蜴の尻尾切りでもするかのように再び切れた尾を生やす。


龍も魔狼の首を噛みちぎり、首が落ちた後も残った狼の身体を貪り食べた。


『イヒヒヒヒヒヒ。蹂躙されるのも良いのぅ。殺されるのがこれほど気持ち良いとは! 病みつきになりそうじゃ。あっぱれじゃ』


フェンリルの笑った声が最後に響いた。


魔狼の破片一つ残さず食べ終わると龍は己の首を天を仰ぐように上げた。


『人を殺せ、人を食え』


龍の中にいる俺の耳に『遺言』が聞こえてきた。


今の俺なら、あれを食い殺せる


灰色の龍が音の中心へ向けて舞い上がる。


姿形は見えないが、俺には音の元凶がそこにあると感じ取れた。


龍が顎を開き、『遺言』を呑み込む。


『人を殺せ、人をっ』


『遺言』が悲鳴を上げるように、同じ言葉を叫んでる。


「何で神様は人を殺せなんて遺言を残したんだ?」


灰色の嵐の中、俺は『遺言』と向かい合い語りかけた。


『人間が憎いから呪いを残した』


何もない虚空から声が返ってきた。


『人間が不要だから呪いを残した』


『人間に飽きたから呪いを残した』


『人間に裏切られたから呪いを残した』


『人間が神の声を聴こうとしないから呪いを残した』


『人間が神を見てくれないから呪いを残した』


『遺言』が叫ぶように怨嗟の声を放ち続けた。


『オグナ・アウラ・ベルグンテル。お前のことは知っているぞ。『神様のスキル』が一つ『空気になる』の継承者。『神様のスキル』を通して私はお前を見ていた。幼い頃より、『無限牢獄』に閉じ込められた哀れな王子。お前から見て、人間はどう映った? 無能なお前は、自分自身をどう思う?』


何もない空間から鋭い視線を感じた気がした。


「正直、周囲の人間達から冷遇されたし、スキルの所為でほとんどの人間が俺の姿を視えないし、声も届かない。そんでもって父親や兄弟たちから『神様のスキル』を逃がさないように軟禁されるし。はっきり言って人間に対して良い印象はない。俺も俺でニートだし、スキルは扱いが難しい。こんな俺が生きている意味あるのか? って思う時もあるよ」

『そうであろう? 人間は酷いのだ。神様に対して、酷い扱いをしたのだ。殺すしかないのだ。お前にも生きている意味はない。ここで私に殺されろ』

「でもねぇ、俺にも良いところが少しはあるみたいなんだ。ちょっとばかりだけど、自分にも尊敬できるところがあるって気づいた。だから俺は哀れでも、無価値じゃない」


そう言って短剣を振りかぶる。『剣術』極大スキルを使用し、『遺言』目掛けて振り下ろした。


スパンと何かが切れる音と共に『遺言』の声も消え去った。


『天使ロザリアから借り受けていたレベルの効果が切れました』


ステータスを確認すると、またレベル1に戻っていた。発現した派生スキルも同時に消えていく。


レベルが元通りになったことで【神風】の魔法も維持することができず、灰色の龍は瞬く間に綺麗さっぱり消え去った。


気づけば俺は遥か真上から、ダンジョンの奈落へと落下していた。


青のダンジョンの中は真っ暗だった。かつてダンジョン内を照らしていたフェンリルの青い炎はどこにも見当たらない。


フェンリルを倒したせいかな。これからどうしよう?


暗い底に落ちながら呟いて見るが、どうしようもできないことは分かっている。力も使い果たし、身体も動かない。


『魔王級フェンリルを倒しことによりオグナ・アウラ・ベルグンテルのレベルアップを『神様のスキル』が一つ『空気になる』が承認します』


オグナ・アウラ・ベルグンテル

レベル15

固有スキル

『空気になる』

派生スキル

『風魔法』中級

『剣術』中級

『天使召喚』


新しい派生スキルを見て思考が止まった。


『緊急事態につき、スキル『天使召喚』を使用します』


頭の中で声が響いた。目の前に突如真っ赤な光が現れる。


「またお会いできて嬉しいです。オグナ君」


光の中から、天使が召喚された。


燃えるように揺らめく赤い髪に、深紅の瞳を持つ薔薇色の天使。頭にはぴかぴかの天使の輪を浮かべ、背中には見惚れるほど美しく輝く白銀の翼をはためかせている。


天使ロザリアは空中で俺を抱きしめ、笑顔を咲かせた。

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