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闇の中

 やがて、規則的な静音が二つ、この場を支配する。

 握りしめられていた手は、今ではその圧を失い、振りほどこうと思えばいつでも振りほどく事が出来た。

 だが、あえてそのままで……その安心しきった表情を確認すると、天井へ視線を移す。

 その闇の中で……日中、ラボで聞いたマリーの話を思い出す。


「夕星祭当日に、世界は滅びる?」

《はい。私は、その滅びを回避するために、未来のマスターよりこちらへと遣わされたのです》

「具体的に、教えてくれる?」

《畏まりました。夕星祭当日、野外ステージにて行われた歌劇同好会の野外劇中に事は起こります。舞台に設置された大道具が突如倒壊し、一人の生徒が下敷きになりかけました》

「なりかけたって事は、その生徒は助かったって事?」

《はい。その代わり、その生徒を助けようと飛び出した人物が、その生徒の代わりに大道具の下敷きになりました》

「その人物はどうなったの?」

《恐らくは即死かと思われます。詳細な情報が無いので、私からこれ以上は何も言えません》

「それで?」

《その直後、世界は滅びました》

「……は?」

《その点についても、詳しくは分かりません。ただ、星ノ杜学院のその野外ステージを起点に、世界に滅びの波が広がりました》

「詳しくは分からないのに、何でそんな事が言える?」

《それが、未来のマスターが出した結論だからです》

「未来の……私が……?」


 未来の私……か。世界が滅びた後でもしぶとく生き残っているとは、我ながら呆れる。

 だが……

 だが、それが……

 それが、私ではないのだとしたら……

 それが、私の皮を被った、他の誰かなのだとしたら……


「それで、未来の私は、具体的に何をしろと?」

《はい。まずはマスターに、歌劇同好会に入部するようにと》

「は?なんでよ?」

《未来のマスターはこう仰っていました。歌劇同好会に入部して、もっと近くで皆を見守っていたら、こんな事にはならなかったのに、と》

「それでその大道具の倒壊は防げると?」

《いいえ。未来のマスターは、その事故を防ぐ事はどうあっても出来ないと仰っていました》

「いやいや。防げないんじゃ、どうしようもなくない?」

《はい。ですので、その下敷きになった人物を助け出すようにと》

「つまり、近くで見守り、その人物が、下敷きになりかけていた生徒を助けるのを阻止しろと?」


 マリーは私のその問いに、何も答えなかった。

 つまりは、そういう事なのだろう……

 世界の滅びを回避するために、一人を犠牲にしろと。


「……因みに、下敷きになりかけていた生徒と、助けようとした人物は誰なのかは、教えてもらえるんだろうね?」

《はい。下敷きになりかけていた生徒の名は、粉雪魅由。そして、それを助けようとした人物の名は》


「優菜ちゃん……か」

 我が親友の最愛の人の名を呟く。それは、暗闇が支配する空間に、誰にも届く事無く、行き場を失い、消えていく。

 ふと、脱力しきった四肢の一つに優しく訴えてくる、それは……

「……」

 彼女の名を呼ぼうとして、その声が詰まる。

 その熱を、存在を確認しようと体を横たわらせると、安心しきった寝顔が私の瞳に移る全てとなる。

 その顔に、信頼に、私は一つの決断を迫られる。

 だが、その答えは既に決まっている。それは、彼女に関わろうと決めた時から変わる事はない。

 なれば、私のするべきことも、一つだろう。


 夕星祭にて起こる悲劇を回避する。


 マリーが、未来の私が何と言おうと関係ない。

 回避するのだ……世界の滅びを。

 防ぐのだ……その悲劇を。


 そう決意した私の脳裏に、マリーのとある一言が、小さなささくれを膿む。


《ですが、生徒会長ルミ・ティッキネンが歌劇同好会に入部していたという記録はありません。寧ろ、彼女は歌劇同好会の活動に否定的な人物でした》


― interlude end―

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