Episode01
「あ……あの。好きですっ! 俺と付き合ってください!」
俺は考えると緊張するタチだし、ほぼ無心でそう言った。
「えっ、あの……ご……、ごめんなさい……! 」
彼女はそのまま屋上を去っていった。
「はぁ……。エルニカちゃん似の可愛い子だったのになぁ……。」
今度こそ俺も、非リア充&クソオタク生活に終止符を打てると思ったのに。
「あーもうつまんねっ! 」
もうしばらくエルニカちゃん推しは続くことになりそうだ。
俺は放課後の静けさと、かすかに残る虚しさをあとに、学校から家に帰っていった。
たった今帰ってきた兄の名は、藤ヶ谷あざみ。もうすぐ高3にもなろうかという男が、彼女一人いない。そして僕は藤ヶ谷零、あざみ兄さんの弟だ。
兄さんは、毎日エルニカちゃん(?)とかいう、白髪のボブで水色の眼をした、魔法少女のフィギュアとお話している。今日はなんだかいつもより熱心に話しかけているようだ。どうせまた失恋でもしたのだろう。
すると、奥の部屋から母さんが出てきて、兄さんの部屋に入っていった。バンッ! と大きな音をたてて、勢いよく掃除機を置くと、
「まったくもう……このオタ部屋もっときれいにできないのかしら?あんたの推しとやらが悲しむわよ! 」
と母さんは声を荒らげて言った。
「はいはい……やりますよ。」
兄さんはテキトーに返事を返している。一般的に世の中の母親といえば、オタクを散々否定した挙句、そこら辺のマンガやフィギュアなんかを蹴散らしながら、強引に片付けを始めるものだと思うのだが……。母さんは中々的を得たことを言っている。
「はぁ……。兄さんはエルニカちゃんにさえ気を使えないから、彼女ができないんだよ。」
兄さんに対して冷たい気もするけど、こういうことを言っておけば、少しは刺さるだろう。兄はこっちを見たが、大きなため息を着くと、渋々部屋を片付けはじめた。ちょっと言いすぎたかな……。
ー次の日ー
いつも日曜日はお昼まで寝ているが、今日の俺は違う。目覚まし時計は6時半をさしている。
「ふっふっふっふ……。今日は『Fun! Fun! めろん』最新刊発売日だっ! この日を俺は待ち望んでいた! 何せ今月の表紙は、俺の天使! エルニカちゃんなのだからァー! ふぉーー⤴︎ ⤴︎⤴︎ 」
いつも通り家族は俺を大変白い目で見ているが……
。そんなことはどうでもいい! 早く書店に並ばなければっ! 俺は朝食も程々に、家を飛び出した。
外は中々いい天気で、春風も心地よい。引きこもってばかりいるが、別に外が嫌いなわけでは無い。ただ、家の中の方が楽しめることが多いだけなのだ。そんなことを思っているうちに、国道の交差点に差し掛かった。信号は赤だ。このままでは、またもガチ勢おじさんたちに先を越されてしまう。待っていると、信号は青に変わり、足早にその先の地下道の階段を降りようとした……その時だった。
ードンッー
「うわっ! 」
後ろから何者かに押されたようだ。とっさに後ろを振り向くと、深くフードを被った男? だろうか……。顔はよく見えなかった。しかし考える間もあまりなく、俺は階段を転がり落ち、地面に鈍い音を立てて止まった。
「くそっ……一体誰なんだ。ん? なんだこれ……。」
地面が濡れている? 地下道のぼんやりとした蛍光灯の明かりで、それが何かわかった。血だ。それもおびただしい量の血。なんだか視界も歪んできた……。息も苦しい。
「俺……こんなところで……、死ぬの……かよ。」
ふっ。まだ、彼女もいないのによ。笑えてくるな…………