支離滅裂ラブストーリー〜いつかみた夢のお話〜
時は幕末
アタシは夫とともに
江戸から京へと出てきた
がある日
勤皇の志士である夫が
新撰組の土方に斬られ
命はとりとめたものの
刀を持てない身体となる
夫の心は荒み
満足に動かぬ四肢と
新撰組を呪う言葉を吐きつつ
アタシにも辛く当たるようになる
そんな毎日を過ごすうち
アタシは夫のかわりに
土方に復讐したいと
願うようになる
信頼できる人に夫の身を預け
アタシは
土方に近づく為の人脈を
己の肉体を使って
築いてゆく
そして遂に機会が訪れ
仇である土方に
アタシは身を任せる
しかし土方は
アタシの素性には気付かずとも
アタシが何かの目的をもって
色恋を仕掛けてきた事に
会った瞬間から気付いていた
眠ったふりをしていた
土方の背中に
懐剣を突き立てようとするも
寸前で取り押さえられるアタシ
厳しい取り調べが行われ
アタシはそこで
自らの素性と目的は語るも
夫の居場所は
頑として口を割らない
結局なんやかやで
解き放たれたアタシは
見張りをなんとか撒いて
夫のもとに帰るが
土方はそれすら見越して
アタシ達の前に現れる
土方の刀が夫に迫り
アタシは白刃の前に身を晒す
しかし庇われた夫は
斬られたアタシを見捨てて
満足に動かぬ手足を
ばたつかせながらどこかへ逃げてゆく
土方はといえば
驚いたのと
倒れたアタシを
とっさに抱き留めたのとで
後すら追えない体たらく
悔し紛れにか
腕のなかのアタシに
土方は怒鳴る
『オマエがあんな男の為に
命を捨てる理由がわからない
アイツはオマエを見捨てて逃げた』
アタシは言う
『夫の為と言って
夫を裏切ったこの身体には
もはや妻と名乗る資格はない
だが妻の操を失っても
死であがなうことで
妻である証だけは残る』
アタシの言葉に
耳を傾けながら
土方は涙ぐむ
鬼の目に浮かぶ涙を見ながら
アタシは自身の復讐が
為ったことを悟った
“アンタはアタシの
大事なものを奪った
そのアンタが
ようやく大事だと気付いたモノを
アタシは奪って死んでいく”
“ざ ま あ み ろ”
という夢を、昔見た事がありました。