美女と魔獣5
『ウッガッァアアアアァアアアア……!!!』
マンティコアが蠢く重力の枷に囚われ四肢を大地に縫い止められて苦しげにジタバタ動いて唸る。
「……せっかく従魔化してやろうかと思ったが、お前には既に誰かしらマスターがいるみたいだな。なるほど、オレらを襲って来たのはソイツの差し金というわけか」
オレは地面に無様に這いつくばるマンティコアをゴミを見るように一瞥すると、手に持つ魔装剣をしならせ鞭のように振るい地面に叩き付けゴシャリッと大地を抉り取る。
ビクゥッとマンティコアが身震いし、情けない鳴き声を上げる。
「ん?もしかして命乞いしてるのか?ふふふっ、哀れだな、知性ある魔獣も人間も結局は最期に泣いて赦しを乞う姿は変わらず滑稽極まりない……」
オレは急激に自身の感情が冷めていくのを感じながら魔装剣に新たな形態変化を促す。
「魔装剣形態変化『憤怒』」
赤黒い刀身の大太刀が闇を纏い、その形を徐々に変えていく。
巨大な肉厚な刃が形成され、軋みを上げ、全てを押し潰すほどに分厚い重厚さを備え持ち、真紅の刃先は赤々と燃えるように不気味に照り光り、歪に重なり合う悍ましくも芸術的な装飾は地獄から噴き出す紅蓮の炎を思わせる。
丸太のごとく太い長柄の尺に合わせ、鈍重な野太い鎖の束が幾重にも結びつけられてジャランジャランと鳴る金属音はまるで亡者が上げる金切り声の断末魔のようだ。
『燃え尽き止まぬ怒轟の煉獄』
属性: 炎
延焼ダメージ追加(効果極大)
七罪魔剣『憤怒』が形態変化した姿。地獄の釜から燃え立つような炎を象った巨大な戦斧。冥府の焔は全ての敵を焼き尽くしても決して消えることはない。
ジャラララララッ!!ドッシイィイインッ!!!
巨大な真紅の戦斧が宙をグルグルと紅い軌跡を舞い、細く白い華奢な片手で容易く太い鎖を手繰り寄せて肩に担ぐ白銀の美女。
その巨大戦斧の重さで地面は揺れ軋み、ヒビ割れが幾重にも辺りに走る。
「さあ〜てと、チャチャっと片付けちまおか」
ゼレスデウナが紅金と蒼銀のオッドアイを細め、蠱惑的な美貌を凶悪に歪ませ笑い、担ぐ巨大戦斧でトントンと肩を叩く。
『ガッ!ガァッ!ガァアアア……ッ!!』
大地に跪くマンティコアは必死に鳴いて助けを乞いてるようだ。
(ご主人様。この魔獣、自分に強襲の指示を出した者を教えるから命を助けろと申しています。如何いたしましょうか?)
影の中からアルモディアが教えてくる。
「……ふーん、マスターから指示を受けたんだろ?オレを殺せって。主人の命令無視するの?」
『ガウッ!ガウッ!』
マンティコアは意思疎通が出来ると分かると嬉しそうに醜い顔を上げて必死に鳴く。
(自分は服従しているわけでは無く、強制的に隷属させられているだけだ。助けてくれたらお前の従魔になってやる、と申していますが……)
アルモディアを通訳代わりにマンティコアが提案してくる。
絶対的強者の前に風前の灯火な自分の命。必死になるのも頷ける。自らの飼い主を裏切ることも辞さない、なんとも狡猾な魔獣だろう。
オレはふむふむと考える。
マンティコアはAランクの中でもかなり強力な魔獣だ。仲間にして活躍させるのも悪くはない。
だが――――
「……理由はどうあれマスターを裏切るようなヤツはオレは要らねえな」
オレは魂をも凍てつかせる冷たい眼差しで目の前の卑しく媚びる下賎な下等生物をギロリと見下ろす。
『!!?』
愕然とし、青褪めるマンティコア。
「消えろクソ雑魚」
ドッッッ――――
肩に担いだ巨大戦斧が烈破の唸りを上げて一直線に振り下ろされ、マンティコアがその真紅の鈍重な刃先と共に地面に陥没する。
――――ガァアアアアアアアアアアアッッッ!!!
そして凄まじい爆炎が巻き起こり、巨大な炎の柱が真上に吹き上げられる。
マンティコアの断末魔は獄炎の豪波に掻き消され聞こえることは無かった。




