美女と魔獣4
『グガォオオオオオオオオオオオオォォォッッッ!!!』
森の奥から異様な雄叫びが谺し、木々を騒めかす。
「うおっ!?なんだっ!!この声はっ!?」
「殿下、これは魔獣の吠え声ですよっ!それも相当危険な感じがしますっ!!」
謎の咆哮に焦るカールとマクス。
その時、サーッと俺の影にアルモディアが戻って来た。
(ご主人様、ヤツの片目を潰してやりましたwとても激おこプンプン丸ですwふふふっ、直ぐにこちらへやって来ますよw)
そう言って影から真っ赤な血濡れの右手を見せてペロリと小さな舌で鋭い爪を舐める。
ドッガァアアアアアンッッッ!!!
森の木々を吹き飛ばし大木をへし折り、巨大な体躯の異形の魔獣が現れた。
『グゥォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
獅子の巨軀で進行方向の木々を砕き、竜鱗の四肢で斬り裂き、蠍のような甲殻質の鋭い尾を振り回して根こそぎなぎ倒して来る。
顔は狒々のごとく皺くちゃで年老いた人間の老人にも見えるが醜悪さの方が際立つほどに不気味だ。
そのは左目は抉られ、裂傷となり鮮血が溢れていた。
そして残った赤々と燈る右眼を他の誰でも無いゼレスデウナにギロリと向ける。
「……なるほど、マンティコアだったか。だいぶ怒ってるみたいだな。まあ、やった本人は影の中に居るし、けしかけたのはオレだからな。魔力反応と自分の血の匂いを追っかけて来たんだろう。そりゃ目つけられるわ」
マンティコア
ランクA
種族 合成魔獣
状態(狂化)
闇から産まれた合成魔獣。人面に獅子の体躯、竜の四肢に蠍の尻尾を持つ異形のモンスター。知能は非常に高く数々の魔法を使いこなす厄介な存在。知能は高いが恐ろしく好戦的であり意思の疎通はほぼ不可能。
身を震わせふつふつと怒気を孕んだ唸りを上げる異形の魔物。
この咆哮には敵対者の精神と肉体に作用する麻痺の魔力効果が含まれている。
「マ、マンティコアだと!?こんな奴が王都近辺のこの森にいたのか!?あり得ないっ!!」
カールス王子がなんとか咆哮のスタンデバフに対抗していられるのは従者が施したスキル効果のおかげだろう。
「殿下っ!!コイツとまともに戦うのは危険すぎますっ!!一旦退避するべきですっ!!」
従者マクスが盾を構え、撤退を促す。
「その通りだ王子さんよ、あんたらはここから逃げた方が賢明だな。コイツの狙いは最初からオレなんだからな」
マンティコアの狂気に満ちた視線がじろりとオレを睨めつる。
たしかにコイツの片目潰したのはアルモディアだが、森の奥から放たれていた殺気は最初からずっとオレに向いていたのは分かっていたのだ。
それも明確にはっきりとな。
「オレはちょっとばかしコイツとじゃれ合うからな。王子さんたちはどっか安全なところまで逃げな。巻き込んで死なれたら面倒だからよ」
オレはぶっきらぼうに言うと悠々と足取り軽くマンティコアの前まで歩いていく。
「……ゼレス嬢、それがキミの素か……分かった。正直俺たちでもコイツの相手は厳しいと思ってたんだ。だが、ここはキミの戦いぶりを見定めるつもりだ。邪魔にならないようにはするよ。いいかい?」
カールス王子がニッコリとイケメンスマイルで告げる。
オレは振り向かず後ろ手に振って答える。
『グゥルルルルルル……』
マンティコアは近づくオレを警戒してか数歩後ずさる。まあ、片目抉ったしな。畜生だが馬鹿じゃない。Aランクの魔物だからか。
『ガォアアアアアアアアアッ!!!』
魔力が込められた咆哮が木霊すると、マンティコアの周囲に高熱を帯びた無数の火球が構成されていく。
上級火炎魔法のバーニングスプレッドだ。
次々と創りだされた巨大な火球弾の塊がオレに向かって集中砲火される。
「……ふん。まあまあの威力だが……オレには火傷すら負わせられないなあ」
オレは魔装剣をジャララと翻して、降りかかる火の粉を軽く払うようにいとも容易く無数の火炎弾を瞬時に細切れにし消滅させた。
『ガァアッ!?グオオオオオオオッ!!』
マンティコアは一瞬驚愕の表情をしたが、すぐさま新たな魔法を行使すると今度は身を凍て付かさせる寒気が包み込み周囲に冷気が集約され氷柱のつららが幾重にも形成されていく。
上級氷魔法のアイシクルダストだ。炎の次は氷か。多彩だな。
シュババババッと幾重にも鋭い煌めきの氷槍かオレを目掛けて撃ち込まれる。
「……こんくらいじゃあシモヤケ程度にもならねーな。あらよっと」
再び魔装剣を振るい、迫り来るつららをカキ氷を削るように木っ端微塵に破砕し破壊する。
『グァッ……!?……ググッ!グァウォオオオオオオオオッッッ!!!』
流石にニ度も魔法を防がれて焦ったマンティコアがより強く咆哮すると、周囲にバリバリと電気が帯電し、スパークが弾けていくつもの雷球が発生する。
さらにオレの周りの地面が大きく崩れ、土塊が鋭く鉤裂きに突起状に抉れて挟み込むように襲い掛かってきた。
上級雷魔法のボルティックブラストと上級土魔法のガイアスタンピードだ。
同時に2つ以上の魔法を行使するのはかなりの高等テクニックだ。
いくつもの雷球が降り注ぎ雷球同士が弾けて目も眩む閃光が巻き起こり大爆発を巻き起こす。
同時に地面を抉りながら巨大な土塊の壁が大地ごとゼレスデウナを飲み込んだ。
「ゼ、ゼレス嬢っ!!!」
「殿下っ!お下がりをっ!!私の盾の守護範囲から出ないでください!!巻き込まれますっ!!」
森の木々が根こそぎ薙ぎ倒され、大地の土塊が吹き飛び爆風が轟々と襲う。
カールスたちが離れた場所で魔獣が放った魔法の余波に必死に耐える。
これほどまでの強力な魔法の応酬を喰らっては無事で済む筈はない。少なくとも自分たちには防ぐのも厳しいだろう。
「……んで、お次は何を見せてくれるんだ?水魔法か?風魔法か?闇魔法か?」
もうもうと黒煙が上がる爆心地からよく澄んだ艶めかしい美声が聞こえた。
『ガッ!?』
マンティコアが残った片目を見開く。
ブワァアッと残煙が蛇腹の鞭刃に掻き散らされ、周囲だけ綺麗に抉れた大地の中心に傷ひとつどころか衣装に汚れひとつ付けていない絶世の美女が姿を現し妖艶な笑みを浮かべている。
「ん?なんだ、もうお終いか?じゃあネタ切れなら今度はオレの番だな。とびっきりのヤツを見せてやるよ。万身、地に首級を垂れ躯を繕え、グラビティプレッシャー」
ゼレスデウナがスッと片手をマンティコアに掲げると、魔獣の周囲の空間に黒い波動のフィールドが発動する。
『グガガッ!?グァッ!!ガガガガッ!!?』
黒い波動が空間を歪ませマンティコアの体を押し潰すように地面に這いつくばらせる。ミシミシと地面が軋みヒビ割れていく。上級闇魔法の重力を操作する強力な魔術だ。
「知能がよく回る分、即撤退も考えたろ?だから逃げられないようにしてやる。そこでゆっくりじっくりと誰に喧嘩売ったか思い知るんだな。あと、お前をけしかけた飼い主にもな」
ニヤリと美貌の魔女が妖しく嗤った。




