美女と魔獣3
「……ゼレス嬢、今俺たちを鑑定したろう?」
カイト?が凄く、にこやかな笑みで俺を見てくる。逆にマシュー?は訝しげに警戒心露わに俺を睨んでいて、背中のウォーハンマーに手を掛けている。
「あー、まあその、なんだ……偶然というか出来心でついお前たちの素性を盗み見してしまったが……何故、お前たちほどの立場の者たちが私に接触してきたんだ?」
そうコイツら俺に接触してきたのは、多分偶然じゃない。でも素性を看破されるとは夢にも思ってなかったんじゃないか?
「……いやあ、君がそこまで知ってしまったなら我々も隠し事するのは得策じゃないかな。マクス、武器は必要じゃないよ、彼女は敵じゃない。今のところはね」
カイト?がマシュー?をマクスと呼ぶと彼は警戒しつつも武器から手を降ろす。
「さて、何から話そうかな。まずはゼレス嬢、君は聖女アウライディスと知り合いなのかい?」
「……知り合いか。まあ、知り合いと言えばそうだが、顔見知り程度の間柄だ。別段親しいわけではない」
俺はカイト?の質問に当たり障りなく答える。
「そうか。君は聖女と同じ雰囲気がするんだ。気配というか感覚というか、不思議な既視感だな。何故だろう、君からはとても濃い闇の気配を感じるのにね」
カイト?は相変わらず爽やかに微笑んでいるが、裏の感情までは流石の俺でも看破出来ない。
「……それは聖女にも言われた。世界に仇を成すならば自分がお前を滅ぼす、とな」
俺もニヤリと笑ってやる。
「……ふっ、ふふっ、はっはっはっ!あの聖女にそこまで言わせるとはっ、君は相当に気に入られているようだな!」
カイト?が膝を叩いて盛大に笑う。隣に控えるマシュー?は渋い顔をしたままだ。
「……ああ、すまん。改めて自己紹介をしよう。俺、いや、我が名はカールス・フォン・アルケオン。アルケオン神聖王国第2王太子である。隣に控えるのは我が忠実なる臣下マクスウェア・デルミットだ。……まあ、鑑定で知ってると思うがな。俺のことは素性は気にせず気軽にカールと呼んでくれ。もちろん人前では偽名の方でな?」
「……俺も人前以外ではマクスと呼んでくれればいい」
カールは軽い感じで、マクスが少し警戒気味に言う。
「……で、その皇子様がわざわざ私に接触して来たのは理由があるんだろう?」
「まあね、君が外門で注目を集めていたのを俺たちはたまたま偶然にも見ていたんだ」
マジか。あの場に皇子いたのか。全然分からんかった。
「そうしたら聖女が突然現れて君と何故か会話しだしたからね。これには驚いた。聖女は普段特別な事が無いとほとんど人前には姿を現さないんだ。君は聖女と少ししか会話していなかったようだけど何やら親密な雰囲気を感じたから、これは何かあると踏んだんだ」
うーむ、まあ確かに聖女にはステキな謎空間に御招待されて熱烈な歓迎を受けてきたがね。
「……聖女アウライディスとは偶々同郷が同じだったんだ。知り合いというほどの仲では無いが」
まあ同じ日本人同士通じるものがあるかもしれないが、中の人は俺よりも年長の元おっさんだが。
「なるほど。二人の雰囲気がどことなく似ていたのはそういう……」
王子が言葉を紡ぎだす途中、周囲を見回す従者マクスが顔色を顰め、武器を構えた。
「……!!何か来るっ!殿下っ!!」
「……おっと、この小さな気配はゴブリンと、ん?なんかデカイのがいるみたいなんだが……?」
王子が鞘から白刃を抜き森を見据える。
「ゴブリンだけじゃないな。他の魔獣も数体こっちにやって来る。何かに追い立てられてる感じだ」
俺は手元に魔装剣を出現させて、ざわめき出した森の奥から溢れて来る濃密な魔素に視線を向けた。
「ギギギッ!!」
森の木々の中から小柄な人間の子供ぐらいのサイズの緑色の化け物が飛び出してきた。
「ギャギャッ!!」「グギッ!!」「ギーッ!!」
粗末なボロの腰巻きを身につけて短剣や棍棒を持った緑の小鬼ゴブリン。一匹だけではなく何十匹も飛び出しこちらに向かって襲いかかってくる。
「蒼き無尽の盾よっ!ヴァリアントシールドッ!!」
マクスウェルが盾を構えて叫ぶと、俺たちの前に透き通る蒼い盾の紋様が虚空に現れた。
身体に聖なる魔力の波動が包み込み、物理防御力と魔法防御力が上がるのが分かった。
「光の剣よっ、魔を断てっ!聖波斬光剣っ!!」
カールス王子の抜き身の剣が発光し、眩い光を帯びると袈裟斬りにゴブリンの群れに振り下ろす。
光の刃が複数のゴブリンを斜めに一刀両断する。
「ギャギャッ!」「ギギッ!」「ギャッギャッ!」
両断され倒れるゴブリンどもの背後の森からから新たなゴブリンが続々と群れなして現れる。
「弾き散り切れ、暗澹たる七罪の痛み。チェーンソゥザッパー」
俺は魔装剣を蛇腹状態に開放し周囲に張り巡らせ、近寄ってくるゴブリンどもを片っ端から切り裂き、細かな肉片に変える。
今度はゴブリンに混じって狼型の魔獣が飛び出して牙を剥いて襲い掛かってきた。
「ふんっ!!クラッシャーインパンクトッ!!」
マクスウェルがウォーハンマーでゴブリンとまとめて狼型魔獣を地面に叩き潰す。
すかさずカールスが背後からすばしっこく走り寄るゴブリンに蹴りを叩き込み、噛み付こうとする狼型魔獣を剣で真っ二つにする。
「なんだっ、コイツらっ!?こんな凶暴なゴブリンは初めて見るぞっ!?それにヴォーパルウルフまでいるとはっ!まるで狂ったように滅茶苦茶に襲ってくる!それに、数が異様に多いっ!!」
森の奥から次々と赤い目を爛々と燈らせ、ギザ歯を涎に濡らした緑の小鬼と灰色の狼の化け物が飛び出して襲い来る。
「これは『狂化』の魔法がかかっているな」
ギャリギャリと鳴る魔装剣の連結刃がゴブリンどもとヴォーパルウルフの群れをバラバラに解体し、藪から現れる端からどんどん屠りながら俺は鑑定魔法でゴブリンとヴォーパルウルフどもを調べた。
ゴブリン
ランクD
状態(狂化)
闇の魔素から産まれた魔獣。非常に凶暴だが反面とても臆病な生態であり、普段から群れを作り活動している。多種族の雌を拉致して繁殖用の苗床にする性質がある。多少の知能はあるようだが、基本的に意思疎通は不可能。
ヴォーパルウルフ
ランクD
状態(狂化)
闇の魔素から産まれた魔獣。狼に似ているが自然界の狼とは異なる生物。集団で行動して自分たちよりも巨大な獲物も狩りの対象にする危険な魔物。
懐かしいなぁ、ゴブリンの説明。それとヴォーパルウルフも初期に出てくる雑魚魔獣だ。そんでこの狂化は状態異常に当てはまる。ランクDの魔獣たちが使えるスキルでも無いし魔法でも無いからゴブリンの上位種のゴブリンハイメイジやゴブリンウィザード辺りだろうが、今のところ雑魚ゴブリンとヴォーパルウルフの気配しか無い。
そう、雑魚に関しては。
遮二無に襲ってくるゴブリンたちには狂化によって意思をコントロールされてる魔力反応があるから、これを仕込んだ大元の仕掛けを施した張本人がいるわけだが、俺の気配察知にはまだ森の奥から出て来ていないように感じる。
「二人とも、まだ森の奥に本命のヤツが潜んでいるようだ。このままゴブリンどもを始末すれば痺れを切らして出てくると思う」
「あー、なんかデカイ反応を感じたのはそいつのせいか。まあゴブリンぐらい何匹来ようが問題じゃないが、操っているのはゴブリン上位種か?」
「殿下、ゴブリンキングはまだしもゴブリンシャーマンキングだとしたらヤツらの魔法は多少厄介ですよ」
二人の騎士が危なげなくゴブリンをまとめて倒しつつ軽く会話している。
この二人なら上位種が現れてもなんの問題無く倒すだろうことは鑑定によってステータスを見たから解る。
ただ気になるのは、明らかにゴブリンどもとは違う気配を森の奥から感じるのだ。
『アルモディア、この森の奥に潜んでいるヤツをこっちに誘い出してきてくれ。倒す必要は無いからな』
俺はアルモディアに密かに命令する。
『畏まりました、ご主人様』
俺の影からアルモディアが地面を影伝いに森の奥に突き進んでいく。
するとすぐに気配に変化が起きる。
ギャオォオオオオオオンッッッ!!!
凄まじい咆哮が森の奥から響いてきた。




