深淵を覗くモノ2
魔物の巨体が泡となり、ドロドロと溶け出す。
カマキリの女帝の大型の体躯が再生されることなくドス黒く変色し体組織が朽ちて肉が腐り剝がれ落ちる。触腕、触脚、胴体がグズグズに崩れ、腹部にまで少女が注入し打ち込んだ兇悪な劇毒が汚染していく。
「キチチチ――――ッ」
毒が腹部全体に廻ると、肛泄器官からニュルニュル黒く細長い気色悪い長身の物体が慌てて這い出してきた。
ハリガネムシ虫の魔物は己が寄生した宿主の肉体が再生不能なまでに強力な毒素に侵されたのを察知し自身が患う前に急いで体内から脱出した。
「これで君の宿主はもう再生できませんね。チェックメイトですよ」
突然聞こえた声にギョッとして驚いたのか、この蟲に人間の言語が理解出来るか、そもそも意思疎通が可能かどうかすら判らないが単眼を見開いて声の主に振り返る。
そのコブ状に膨らんだ花弁の花びらのように開いた赤い眼に映り込んだのは先程までの寄生先だった魔物を斃した少女の微笑みであり、ハリガネムシ虫に酷似した魔物の長大な身体は何十分割に細かく寸断された。
*
「おーっ、レベルアップしました!さすがSランク魔物、経験値、業魔値、ともに大量ですっ」
蒼黒の少女が小さな可愛らしい手を叩いて喜ぶ。
「データの構築も少しづつ完成に近づいてきてますね。おかげでようやく自身のステータスをちゃんと確認出来るようになりました。ステータスオープンっ」
ルキフェルリア
レベル: ###
種 族: 魔人
性 別: 女
年 齢: 16(人間換算)
クラス: ナイトメアシーカー
称号: 異邦の稀人 渾沌の最先 殺戮堕天使 捕食者 暴風少女
STR ###
VIT ###
AGL ###
INT ###
LUK ###
スキル: 闇影装甲 影身透過 影操領域 舜影舞遊 夢影創陣
鬼喜快壊 闇黒神の依代
「なるほどなるほど、虫食いで分からなかった部分まで表示されました。僕がプレイしていた大好きなダークネスセブンズソードの仕様とだいたい一緒ですね。ふふっこれはとても面白いです」
愛らしい指先で中空のステータスメニューの項目を操作する少女。
「それにしても世の中不思議なことばかりですね。僕みたいなイカれた犯罪者をわざわざ転生させてくれるなんて変わった物好きな神様もいるもんです」
生前は依頼を受けて人を殺す裏の仕事をしていた元青年。あの日何処からか情報が漏れたか常連の麻薬の密売人との会合が警察にリークされてしまっていた。普段ならば冷静に対処したが薬物依存の急性症状で的確な判断が疎かになり、ミスをしてしまった。
結果、身体に数箇所銃弾を受けたが、刑事のひとりを殺しなんとか逃げ切れた。
薬の使用は前々から控えようとは思っていたがこれが無いとテンションが上がらず、頭が冴えないので仕事に影響を出してしまうから常用していた。スピードを上げて飛ばす車の中で銃弾の痛みを大量に奪った薬物を打ち誤魔化していたら道路に急に中年の男が飛び出して来て跳ね飛ばしてしまったが、些細な事だ。
「あの後隠れ家に帰ったけど、結局出血多量で死んじゃったんですよね。そしたらあら不思議、死後の世界で神様と会うとは……サービス終了間際だったゲームに似た世界に転生させてくれたし……ん?変な称号が増えてる?暴風少女?何でこんな称号があるんだろう」
少女がステータスを操作している背後で小さな影が動く。それは一見蛇のように見えるが黒く細くニョロニョロとしており頭にあたる先端部はコブ状に膨らんでいた。
そのコブが割れて花が咲くように開くと赤い単眼の奇妙な生物だった。
ハリガネムシ虫の魔物だ。
斃された肉片は擬態であり、この小さな身体が本体だったのだ。ハリガネムシ虫の魔物は己れを斃した少女の背後を隙を伺いながら様子を見る。
次の宿主は決まった。
この華奢で小柄ながら信じられないくらいとてもとても強い生き物にしようとハリガネムシ虫の魔物は思った。
きっと素晴らしい住処になると期待し、先端を鋭く尖らせて構える。
狙うは一瞬、少女のぷりんとしたお尻の排泄する部位。ハリガネムシ虫の魔物はまるで隠せてない紐のようなパンツから覗く可愛らしい臀部に狙いをさだめる。
シャッッッ
鋭く尖らせた頭部が少女の尻に突き刺ささろうかとした瞬間、ガシリッと小柄で細い手がハリガネムシ虫の魔物を掴む。
「キチキチッ!?」
キチキチ身体をくねらせるハリガネムシ虫の魔物。しっかりとその蛇のような身体を掴む少女がニコリと微笑みを浮かべた。
「いけない子ですね。僕のお尻の穴を狙うなんて。ふふっ、次は僕に寄生するつもりでしたか? ちょっと鑑定させてもらいますよ」
ディープパラサイトワーム
ランク: D
種族: 寄生魔獣
生物に寄生する蟲型魔物。寄生した宿主の精神を支配して操る。強さは寄生した宿主に左右される。宿主が瀕死になると超再生能力を発動する。
「ふーん、なるほどなるほど、君自体はDランクの魔物なんですね。でも能力は凄いですねー、寄生してこそ真価を発揮するスキルなんですね」
少女に掴まれた寄生魔獣がウネウネする。
「そうですね、僕はまだまだ完全ではないので君のスキルは役立ちそうですね――――だから」
そう言って少女は不気味に蠢くハリガネムシ虫の魔物を小さな唇を大きく開けてその口内に――――
――――飲み込んだ。
「う、んぐっ……貝みたいで意外になかなか美味しかったですね。ふふっ」
そう言って少女は己れの露出したツルッとした滑らかな腹をさする。
するとボコりと腹に巨大な単眼が出現しギョロギョロと赤い瞳を動かす。
「あはっ!どうかな?どうかな?新しい体は?ふふっ、これで僕はまた一歩強くなりましたね。ああ、ほんと楽しいですね、このイカした世界。いずれ全てを喰らう神様がやってくるその時まで好きなように遊ばせて貰いましょう」
少女は心の底から楽しそうに嗤い、破顔する。




