暴風過ぎ去りし
拘束していた闇の茨は引き千切られ、光の鎖は折れ砕かれた。
「うぉっ!?あれを引きちぎるかっ 」
「なっ!? 私の魔法拘束をっ」
蒼みの艶やかな黒髪をなびかせる少女の両手には、それぞれ少女と同じくらい長大な刀身の剣が握られている。それは広幅の大型でシミターのような湾曲刀状の異様な装飾が施された武器だった。
「ふふっ、せっかちだな。少しだけ遊んであげますよ、お姉さんたち」
そう嘯く少女の灰色の双眸と薄桃色の唇が無邪気に、ニコッと笑う。
両手に構えた湾曲刀の刃部がジャキリッと鋭い音を立てて三分割され、巨大な三枚刃の手裏剣状に様変わりした。
「狂いいざ啼け――――『荒ぶ暴嵐の悪鬼』」
ギュルギュルと凄まじい速度で回転する刃。
少女か大きく振りかぶり放つと、ドゥッッと空気を穿ち抜く駑音とともに投擲された二対のそれは、ゼレスデウナとアウライディスと従魔たちの視界から消える。
「ヌグォ!!?」
消えたと思った旋刃が唐突にエルドアザルの眼前に現れ、黒水晶の外骨格に叩き込きこまれてその巨体で受け止める。
「ヌォオッ!!小癪ナッ!!コノ程度我ガ黒魔昌の鎧ニハ効カンゾッ!!」
ガリガリと火花を散らしながらエルドアザルが耐える。
もうひとつの放たれた旋刃が聖女たちの前に現れ、それをレヴェアールが立ち塞がり大剣で受ける。
「はああっ!!我が主人に手出しはさせんぞっ!!」
まるでヨーヨーを操る子供のように楽しそうにする少女。
「ふふっ、先ずは従魔たちから退場してもらいますかね」
「ちっ、舐めんなっ薙ぎ払え!魔装剣!!」
ゼレスデウナの魔装剣が帯状に連なり、連結刃がチェーンソーのように唸りをあげてエルドアザルに絡む旋刃と激しく噛み合い、弾く。
「やらせんっ!洸翼刃っ!!」
ブォンッと宙を切り、もうひとつの旋刃を受けるレヴェアールからアウライディスの双極剣が閃き、斬り上げる。
「隙ありじゃっ!童女っ!! ――――『吸血殲影爪』!!!」
アルモディアが地を這う影となり距離を詰め、少女に襲いかかる。
「我の角剣で串刺してやろうぞっ!――――『獣剛突剣』っ!!!」
ジークレオヴァルトが疾駆し、額の角剣で斬りかかる。
「自ら武器を手放すとは愚策だなっ!!――――『烈襲蹴牙』っ!!!」
バルバロットが空から蹴爪で襲いかかる。
「あはっ皆んな刻んであげるよ――――『裂刃骸砕喰龍』」
不敵に微笑む少女の手元に弾かれた二対の旋刃が瞬時に現れ、少女の身体を超高速で回転すると巨大な鈍色の竜巻となり、攻勢に出た従魔たちを闘技場ごと呑み込み巻き混まんと迫る。
「くっ!!」「むぅっ!?」「ちぃっ!!」
「そうはいかんぞっ――――魔曲『蛮勇の千騎兵』」
ナグダが奏でる音色に合わせ槍と盾を持つ鎧の騎兵隊が出現し竜巻に突貫する。しかし、ブリキの人形の如く尽く斬り刻まれ破壊されるが、騎兵隊は次々と現れ竜巻を押し留める。
「荒ぶり鎮まれ――――炎舞『カムドノツルギ』」
ファルシアスが舞うと全身から炎の波が集まり巨大な火焔の竜巻が発生し、鈍色の竜巻と衝突する。
燃え逆る紅蓮の乱気流と鈍色の旋風刃の嵐がぶつかり合い、炎の飛沫を周囲に浴びせながら次第に威力が抑えられ弱まっていく。
竜巻の勢いが終息し、完全に消える。
闘技場の大地には螺旋状に抉られた戦いの傷痕が遺されたが、中心に居たはずの少女は影も形も無かった。
「――――今日はこの辺で終わりにしときますね。ふたりとも楽しい時間をありがとうございました。それでは、ごきげんよう。ふふっ、――――"またいつか"――――」
何処からともなく聞こえてくる少女の楽しそうな声が闘技場に木霊する。
「……結局逃したか。アイツはなんだったんだ……?」
「……固有領域を自由に出入りできるのか?……奴は一体……」
後には粛然としないまま残された者たちがいただけだった。




