聖女回想
「気が付いた時、私は神と名乗る存在とともにいた。神は私に言った。お前は死したのだと。たしかにと私は納得した。なぜなら最後の光景を鮮明に覚えていたからだ」
聖女アウライディスは語る。
死んだ者は世界のルールにより元いた世界に再生して新しい人生を送るとのことだが、私は神にこのまま生き返ることは可能か問うたが、死者を蘇らせることは世界のルール上出来ないらしい。
死んでしまったのは仕方がないが、私は残した家族や友人や同僚たちが気掛かりだった。死んでしまった者が未練たらしく生にしがみつこうとするとはなんと滑稽なことか。
しかし、それとは別に私はある事が気になっていた。
近頃よくやっていたゲームの事が脳裏によぎった。
そういえばあのゲームまだ途中までしかやってなかったなと。
神は私の心を見透かすしたように言う。
お前が心残りなのは、電界の遊戯のことだな?ならば丁度いい。お前を転生させてやる。
愚かな異界の神が我が領域に土足で足を踏み入れたのだ。お前にはこれらを処断する権利をくれてやろう。
彼奴らは果てしなく強い。今のお前では叶うまい。時を得て力をつけるがいい。
彼奴らに対するには力持つ者は多いほうが良い。お前は先駆けとなり導け。
白い光が視界を覆い世界が暗転した。
「……私が二度目に気が付いた時は、そこは何処かの遺跡だった。そして私はここが何処か解ってしまった。その場所には良く素材集めに訪れていたから」
そしてこの世界がどういう世界かも。
それが生前プレイしていたスマホのゲーム『ダークネスセブンズソード』だということを。
「……当時この世界は暗黒の黎明期であり、闇の女神はすでに何者かに倒された後だと知ったが、滅んだとはいえ魔の軍勢の力は衰えてはいなかった。私は生き残った人々を統率し幾度も戦った。後に国を復興させ人間の勢力圏を徐々に押し広げていった」
聖女が疲れたたように息をつく。
「……聖女などという大層な名が付いたがな」
「……なんか俺の時とは転生時の壮大さというかスケールがあまりにも違くて逆に驚いたわ」
聖女が回想した話で出てきた神様は随分と自分勝手な印象だけど、神っていうのは従来そんなものだと思う。
俺の比較対象が邪神様だけだからなんとも分からんけど。
ていうかこの元刑事のおっさんの方が主人公っぽいな。
「……次の転生者がいつ来るのかも分からず、神との交信は一方的で何年も何十年も連絡も無い時もざらにあった。神からしてみれば刻の流れは一瞬だろうが、私には数百年はあまりにも長すぎた……自ら命を絶つことは出来ず、私を殺せる者は私を超えるか、神をも超える者しかいない……それは私と同じプレイヤーに他ならない……そして、ようやく君が現れた」
聖女は縋るような眼で俺を見た。
「おいおい、俺に自殺の手伝いさせようってのか。仮にもアンタ元警察官だろ。正直アンタがどんだけ苦労してきたか俺には分からないけど、バカな俺でもひとつだけ分かることがある」
俺は聖女さんに指一本突き付ける。
「アンタ"ダークネスセブンズソード"大好きだろう?」
「!!」
アウライディスが、はっとした表情になる。
「アンタが相当やり込んだのも解る。アンタのアバター、とても丁寧に作り込んである。時間をかけて作成したんだろう、俺もそうだったからな……それにアンタ、死の間際にまで思ったんだろ?ダークネスセブンズソードのことを」
俺がずばり問うと聖女が躊躇しつつも答える。
「………確かに私はダークネスセブンズソードが大好きだった。このアバターも何時間も考え悩んで作り上げた。私の理想の女性を、私が想い描いた究極の美しさを体現したのがこの"アウライディス"だ」
それは遠い過去自分との邂逅。
「……この世界で目覚めたとき、何故自分がこんな目にと戸惑ったが本当は嬉しかった。年甲斐も無くときめいた」
忘れようとしていた自己の赦し。
「転生したばかりの自分は弱く、闘い力を得なければ生き残ることは出来なかった。それはゲームとは似て非なる過酷な世界、次第にこの世界に順応していく中で最初に感じたときめきは消えていった……筈だった」
置き去りにした日々。長く苦しい旅路。何度も挫折し苦悩し嘆く。ゲームのように簡単にはいかない。
だがそれでも、自身が勝ち得た永き日々の結晶は揺るがない。
あの楽しかった冒険の延長戦に自分が、まだ旅の途中であることに気づいた。
「……正直、君との闘いは楽しかった。我を忘れそうになるほどに。そしてもっと感じたいと思ったよ、この世界を。まだ見ていない、見ようとしなかった世界の続きを……」
アウライディスが少しだけ苦笑いする。俺もそれを見て少しだけ微笑む。現実と仮想が相反する虚構の世界。
納得し難い理不尽も、理解し難い出来事も、神々の思惑も全部ひっくるめての異世界冒険譚。
誰もがひとりひとりが主人公になれる。
それが『ダークネスセブンズソード』だ。
そう、旅は終わらない。
俺たちの冒険はこれからなのだから。
〜fin
なんて綺麗に終わる訳が無いだろ。
おっさん聖女の冒険は終わったかもしれないけど、俺の冒険は始まったばかりだよ。
まだまだやりたいことは山ほどある。未消化のイベントもたくさんあるだろうし。
ほら、その証拠にさっきから俺たちの闘いを観てる新たなるお客さんが我慢出来なそうにしているぞ。
「おや?もしかしたらもうバトルは終わりですか?」
それは俺も聖女も従魔たちでもない第三者の、あどけない少女の高らかな声だった。




