いざ王都潜入!…おや?誰か来(筆跡はここで終わっている)
見上げるほどに長大な外壁の砦はグルリと囲むように設置され、外からでは中の街並みを伺い知ることはできない。
外壁の上には等間隔に並ぶ監視櫓が備えられ、見張りの兵士たちが遠方を監視している。
有事の際は要塞にもなるのだろう堅牢さだ。
外門は巨大な鋼鉄の扉が取り付けらており、内門にも巨大な鉄扉が構えている。二重の厳重な扉は今は人々のために開かれているが、これほど大きな門扉の開閉は人力では無理だろうし機械的な構造でもないっぽいので魔力で動かしているのだろう。
その証拠に門柱にクリスタルのような結晶が嵌め込まれている。
ただちょっと気になることがある。
(…ご主人様、どうやらこの都は結界が張られているようです。恐らく魔物や魔獣を警戒していると思われます)
アルモディアが俺の影の中から報告する。
そう、結界が貼ってあるのだ。それも王都全域がスッポリと包まれているほどの強力な。
魔物や魔獣には人に擬態する能力を持つヤツもいる。中には人間に化けて人間社会に溶け込み活動する狡猾な者も高位の悪魔や精霊にはいる。
すなわちこの結界は魔物が内部に入れないよう役割を持っている。それだと使い魔としての従魔も弾かれるだろう。
「…ナイトメアホースはもろアンデッドだから駄目だな。仕方ない、影に戻すか」
だが俺には『神羅万象』というスキルがある。これは他のクラスの複合スキルで、隠蔽、隠密、気配遮断、結界無効、地形効果無効などのチート性能満載なのである。
これがあればどんな強力な結界やダメージ地帯も無視して侵入出来る。従魔も自分の影の中に収納すれば問題無く結界を抜けれるだろう。
俺はシーラちゃんとジャスミィちゃんに適当に話をし、人々が行き交う門前を避けて人気の少ない場所に移動する。
馬車からまだ就寝中の行商人のおっさんと無事だったいくつかの荷物を下ろして脇に置いておく。二人の少女は端で何が起こるのか不思議そうな顔をしてこちらを伺う。
往来する人々を検問する兵士たち、内門には検問所があり忙しそうに対応している。外壁上の監視兵は平原や森を望遠鏡のようなアイテムで見回しており、こちらには注意は向いていない。
よし今の内だな。俺は素早くナイトメアホースを影中にしまい更に馬がいなくなった荷馬車を一瞬で解体してメニューのアイテムイベントリに収納した。
「よし、成功だ。やっぱり出来たな」
辺りの人とは距離も離れているし、誰にも見られていないし、上手くいった。
アイテム欄に荷馬車の各パーツの項目がある事を確認して頷く。
「ふぇっ!?ば、馬車が消えたっ!?ど、どこいったの!?え?えーっ!?」
「…凄い。これは魔術内空間収納なのでしょうか?そういう魔法があるとお師匠様に聞いたことありますが、初めて見ました…」
シーラちゃんとジャスミィちゃんが可愛いお目目を大きく見開いてビックリしていた。
どうやらこの世界にはアイテムボックス的なものは無いらしい。ゲームでもそこは言及されてなかったからプレイヤーの特殊スキルみたいな扱いなんだろう。
ちなみに荷馬車をアイテムとして収納出来るのでは思ったのは大破した荷馬車の車輪をイベントリに収納出来たからである。
そして何より武器防具の耐久値を回復する魔法リペアレストが壊れたアイテムを修理することに成功したからだ。
ダークネスセブンズソードには武器防具には耐久値なるものが存在しこれがゼロになると性能が著しく下がる。
これを修理するには鍛冶屋に持っていくしかないが、錬金術師の上位魔法に耐久値を回復する魔法が存在する。
一見便利な魔法かと思うけど、耐久値自体減りづらい仕様と上位魔法なので習得が大変であり、なおかつ鍛冶屋には武器防具作成や強化で頻繁にお世話になるついでに修理するのであまり使用されない微妙な魔法として有名だった。
しかしこの世界のアイテム、武具には耐久値なる項目は無いようである。例外としては七罪魔剣だが、これらは元から耐久値は無かった。
俺が使用したリペアレストは耐久値ではなく壊れたアイテムを直し元どおりにする効果になっていた。ゲームとは仕様が異なるこれはどういう訳かは分からないが、リペアレストを取得しといて良かったと思った。
そんな訳で、それぞれのパーツは一つのアイテムとしてカウントされてイベントリに収納出来るとふんだわけだ。
「行商人の人は私が背負って運びますから、二人は荷物をお願いしますね」
「はい、分かりました。ゼレスデウナさんて力持ちなんですね〜。綺麗で強くてかっこいいなんて、羨ましい…」
「…スキルに怪力とかあるのかもしれない。私は魔術系のスキルしか習得してないから、羨ましい…」
シーラちゃんとジャスミィちゃんが相変わらず尊敬する目で見てくる。
そんな純粋な眼で見られるとなんか恥ずかしいんですけど。
俺たちが門に並んでいる人たちの列に入ると、周りの人がギョッとする。
特に俺を見る反応が様々だ。
大体の男は顔を真っ赤にして視線を逸らしてたまにチラチラ見ているが、堂々とスケベ顔でガン見してくる輩もいるし、惚けたように凝視する人もいる。女性も顔を真っ赤にして背けるか、見惚れたように見つめる人など千差万別だ。
そのどれもが俺の中の優越感を満たす。大勢に注目されてることに快感を感じてる。
ヤバイ。癖になるぞこれは。
露出狂の気持ちがなんか解る。この卓越された嗜好の至高のアバターが無数の視線に晒されている。
というか俺は背中に太ったおっさんを担いでいるけどね。全く重さを感じないから気にしてないけど、魅力補正が半端なく働いてるから背中のおっさんの存在感は皆無なんだろう。
可笑しくて思わず口元に小さな笑みがこぼれる。
その微笑を目の当たりにした何人もの人々が息を呑む。
親子連れの年若い母と幼い息子も魅入られて此方を見ている。
俺は少年に視線を合わせ柔らかく微笑む。
少年は顔を瞬時に沸騰させ慌てて母親の背後に隠れる。
この少年はこれが初恋になり、もう同年代の女子にはときめかない年上好きになる狂おしいトラウマを植え付けたことをおっさん美女は自覚していない。
ゼレスデウナが一歩歩むと波が引いたように人々が道を開ける。まるで王族の殿上人に使える従者だ。
呆然として立ち止まる人々を置いてけぼりにし、堂々と当然のように進む。
検問している兵士たちも、その妖艶な美しさに魂を抜かれている。
俺は結界がある門前まで来て、見えない防壁を抜けようとし、足を上げて結界に触れた時。
バチリィッ!
と足に激痛が走った。
「痛っ!?」
(ご主人様!?)
(!! 主ヨッ! 何カ来ルゾッ!!)
(この気配っ!なんと強烈な聖気かっ!!)
「ゼレスデウナさん!?どうしたのっ!?」
「…何が起きたの?」
俺が足に激痛を感じ踏鞴を踏み、立ち止まると影の中の従魔たちが騒ぎ出し、シーラちゃんとジャスミィちゃんも慌てて側に寄る。
「〜〜〜っ!!!」
痺れる痛みが脚を襲うが、思考はすぐに別の思考に切り替わる。
俺のスキルを抜けてダメージを与えたこの結界を張ったヤツ。
来る。
唐突に眩い閃光が門前に迸る。
神々しい輝きを放つ魔法陣が宙に出現し、眩しい光の中から白亜の法衣を纏った一人の女が現れ、口を開く。
「…スキルで誤魔化そうとしても貴様の邪悪な魔力は私には筒抜けだぞ、邪神の御使。いや、転生者」




