一人で魔王の部屋に入った。
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1
出発からもう長い時間が過ぎた。
王都は振り返ってももう見えない。
当たり前だ。だって、もう魔王城にいるから!
前衛を軍の人達が引き受けてくれたため、難なく進むことができた。
ほとんどの人が、まだ武器にも触れていないだろう。俺も。
一応、伝説の英雄の剣を所持しているため、戦う機会があったかもしれない。
しかし、俺はそんな愚行を起こさない。何故なら、魔王以外に目標はないから! ……というのはウソで、本当は、体力の温存を計るためだ。
どんなに強くとも、限界は必ず生じる。
その限界がいつくるか何て、わからない。
だからこそ、戦わないことが最善の一手なのだ。
しかし、もうここは相手の本拠地。
戦いは避けられない。戦闘必至だろう。……俺以外は。
俺の«ぼっちは歩くのが速い»を使いさえすれば、戦闘なんぞヒョヒョイと抜けられる。ゆーて素通りだろう。
全員が戦っている隙に、俺は魔王を倒す。完璧なシナリオ。
きっと、この場にいる全員がそれぞれの理由を持っているのだろう。
だからと言って、譲り合いなどしていられない。するわけにいかない。
誰もが理由があるからこそ、譲れない。
しかし、どんな強い決心をしていても、全てのことが可能になんてならない。
結局は力の強さが必要だ。精神の強さはその後だと考えている。あくまで持論だが。
「戦闘は避けては通れなくなる! 全員、覚悟を決めろ!」
では皆さんこれから別行動させていただきます。
そう心の中で呟き、«ぼっちは歩くのが速い»を使う。
この瞬間に、俺は誰からも認識されなくなった。
存在はしている。しかし、認識できない。
歩いている間、誰からも認識されない、それがこのスキルの力。
大丈夫。一人で行動しても。一人で魔王と戦っても。
俺には英雄の剣があるし、出し惜しみしてきたスキルもある。
誰の力も借りず、俺は進む。ただ一つの願いを叶えるために。
それだけのために、誰とも協力しない。最低なのはわかっている。
それでも、得なくてはならないものがある。
どれだけ自分が嫌いになろうとも、願いだけは叶えなくてはならない。
全てを捨ててこの場に立つ俺の覚悟だ。
理想を叶えるためには犠牲も必要だと、俺は思っている。
正義の味方なら、そうは言わないかもしれない。しかし、俺は正義の味方でも何でもない。
正義の味方は、正義の『味方』でしかない。結局、正義の味方は、『正義』ではないのだ。
どこにいようと、どんな世界にいようとも、絶対に正しいことなんてない。
俺はこれから、自分の欲望のために剣を振るう。
その犠牲が、どんな極悪非道の命でさえ、命は失われている。
正義は向ける相手がいなければ、理想、幻想に過ぎない。
ならば、最初から正義などという御託はなしだ。
自分の救いたい人を救えた人間が一番優れているに違いない。
そう思わないか、親父。
誰に否定されようと、進むことは止めない。
俺が素通りした魔王の手下らしきデーモンがその巨体で侵入者を迎撃する。
その瞬間にも、俺は歩いている。
後ろから悲鳴が聞こえようと、助けを求めていようと、振り返りはしない。
ただただ、その先にある扉を目指していた。
2
そして、魔王のいると思われている部屋の前に着いた。
この場所に来るにも、たくさんの犠牲があった。
しかし、今はそんなことは気にしていられない。
どす黒く、複雑な模様の描かれた扉。
見るもの全てに恐れを懐かせられるその面持ちは、まさに魔王の部屋といったところだ。
その扉に手を掛ける。
ひんやりとした金属のような肌触り。
額から一滴の冷や汗。
そして、その扉に力を加える。
しかし、そこで予想外の出来事が起こる。
その鈍重そうな見た目からは想像できないほど、すんなりと扉は開いた。
まるで、客を招き入れるようだ。
開いた扉の先に一歩踏み出す。
そして、部屋の中央に行き着いたその瞬間、扉は閉まった。
暗かった部屋に灯りが灯る。
部屋の最奥に玉座が。
そして、そこにいたのは…………
「やぁ、来てくれるとは嬉しいよ、英雄の剣の保持者」
紛れもない、魔王だった。
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そちらもどうぞ、よろしくお願いします。




