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異世界残酷冒険物語  作者: モンゼツナカチョー
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0話 獄中


そんなこんなで始まった牢内での毎日は極めて単純だ。食事のスープを鉄格子にかけ、後は1日中鞍馬とチュークの交代で鉄格子の表面を削る。たまに雑談をする。


朝の目覚めは日の出の刻辺り。


起床の点呼や号令があるわけではないが、看守が朝食を持ってくると、寒さと空腹に耐えきれず起床する。


牢で出される食事は朝晩二回。どちらも質の悪い、萎びたパン一切れとスープである。


スープは、僅かな野菜と薄く貧相な燻製肉が具の、塩で味付けされた物である。


ここはあくまで現代でいう、裁判を待つための留置場に近いものであり、刑務作業の類いはない。後は希に看守が見回りにくるだけである。


また、拘留者同士の会話は、あまり音が大きいと咎められるが、基本的には黙認されており、看守が離れた場所にいるため気付かれない様に喋る事は容易である。


この房がある国境付近の村ソーンは非常に小さな村であるが、この牢屋自体は村の中心の砦の一施設であり、砦の他の棟では村の行政、司法手続きが行われる、この棟には房自体はもう二つあるが、拘留されているのは鞍馬たち四人、二人一部屋で二つ使用されているのみである。他の棟の牢屋にも人はいないらしいため、看守の数も少ない。もちろん看守の他にも砦の番兵は多く設けられているが、彼らが牢屋に顔を出すことはない。




繰り返しになるが、この牢での生活で、頭を悩ませるのは寒さと空腹である。


二度の食事はただでさえ量が乏しく、具を食べた残りのスープは全て鉄格子にかけるため、いくら運動をしないとはいえこれでは栄養が足りない。


そのため鞍馬たちは常に空腹状態にあった。




寒さも酷く、チュークの話からの推測であるが、マニスタン帝国のほぼ全ての地域は日本でいう北海道の様な亜寒帯に属すると見られ、このソーンの村も厳冬期は豪雪で外部との連絡が遮断されることもあるという。


現在の季節は晩春の様であるが特に夜間の冷えは耐え難く、どんどん体力を奪われていく。




鞍馬が牢に来てから5日程たった午前中、クワンウンが話した。


「昨日の夜、看守が交代するときの雑談を盗み聞きしたんですけど、どうやらこのフィルアニア中に僕らの様に地球から漂流した無宿人達が何百人も来てるらしいです。」


剛が驚いて聞き返す。


「転移してきたのは俺らだけじゃなかったのか!」


鉄格子を削りながら聞き流していた鞍馬はさほど驚きはしなかった。

このソーンの小さな村の房に三人、そして森で見かけた男の死体。もっといてもおかしくはないと思っていたからである。


「はい、会話の様子から僕らの様な20歳前後の東洋人がほとんどらしいです。地球からの漂流者のことを、フィルアニア人はブラックアイと呼んでいるらしいです。」


チュークが割って入る。


「帝国の外にも漂流してきたやつがいるとしたら、何百人じゃすまないだろうな。」


チュークは突然大声で看守を呼ぶ。


「おい看守さんよぉ!」


バーデンがこちらの方に歩いてくる。バーデンは年齢凡そ50~60だろうか、穏やかな面貌をしている、ソーンの村の牢屋の所長であり、近くの都市であるシーロンから派遣されているらしい。


「なんだ、トラスティ!貴様か。一体何のようだ。」


「こいつらみたいな黒い目の奴等がそこらじゅうに湧いてきたってのは本当か?」


「ブラックアイが溢れかえって国中の牢屋がパンクしてるのは事実だ。諸国のスパイ説もあって政府も対策に追われているらしい。用が済んだか?」


バーデン所長は続ける。


「個人的にはお前たちの言うとおり漂流ってのが正しい気がするな、ブラックアイ。何やら捕まったブラックアイは全員示し合わせた様に気付いたらそこにいたって言うらしい。身に付けてる服飾も装備もフィルアニアでは考えられない物なんだってな。俺は突然こんな国に追いやられて奴隷になるお前たちを哀れに思うよ、ブラックアイ。何か俺にできそうなことがあったら言ってくれ、善処したい。」


クワンウンが乞う。


「でしたらバーデン所長、毛布と食事の量を見直してくれませんか?このまま体力を失っていったらは奴隷になっても十分な労働力になれるとは思いません。どころか裁判までに死んでしまうかもです。」


「そうだよな……、俺も上にかけあってはいるのだが……力が及ばなくて済まなく思う。」


バーデンもシーロンの街から派遣されているだけで、何ら実権は持っていない様である。


チュークが割って入る。


「そんな事いってないで毛布と飯くらい用意してくれよ所長さんよぉ。」


「貴様には言っていないぞトラスティ。大人しく死罪を待っていろ外道が。」


バーデン所長が去ったあと、違和感を感じた鞍馬は尋ねる。


「随分嫌われてるんだな、チューク。」


「あ、あぁちょっとお前さんたちが来る前に揉めてな……。」


何かひっかかるが、今は脱出に専念しよう。そう思った鞍馬はどこかバツの悪そうにしているチュークとの関係を悪化させるリスクを避けるためにも、追及は避けた。


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